復讐 part2



「――――」



 ララは言葉を失い、立ち尽くす。



だが、と老爺が続ける。



「本来の生け贄が戻ってきたことで、その咎も今日で終わりらしい。――そういうことだな、ブレイクよ?」


「クッ……ククッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」



 唐突、ブレイクが天を仰いで笑った。



「ああ、そうだぜ。だが、勘違いすんじゃねえぞ。生け贄としてくれてやるのはこの女じゃねえ。――これだ」



 と、ララの頭の上にいた俺を掴み、老爺へと投げ渡す。おい。



 老爺は胸に投げつけられた俺を驚きながら見下ろし、



「な、なんのつもりだ? こんな物が……ん? こ、これは……?」


「テメエなら、その兜が持つ凄まじいマナが解るだろう。それをテメエらにくれてやる。だから、あいつを解放しろ」


「おいコラちょっと待て!」



 俺は思わず怒鳴った。


「ブレイク……! アンタは二度も俺を捨てるのか! 何か俺に恨みでもあるのか!」


「あのとき捨てちまったのは悪かった。ヤバい予感がして思わず捨てちまったが、あれからずっと後悔してたんだ。そうしたら、この再会だろ? この期を逃す手はねえよ」


「鬼! 悪魔! アンタには人の心がないのか!」



 老爺は飛び出しそうなほど目を丸くしながら俺を見下ろして、



「しゃ、喋っておる……!? な、なんじゃコレは……!?」


「さあな、俺にも解らねえ。だが、エルフ一匹とも充分に交換できる代物であることだけは確かなはずだぜ」


「やめろ! 俺は生け贄になんてなるつもりはない!」



 俺は慌ててララの頭へ戻ろうとする。が、俺を掴む爺さんの力が意外に強くて戻れない。



「むぅ……確かに、これは受け取ろう。だが、アリアーヌは返せぬな」


「なぜだ」


「古来より、生け贄になるのは女と決まっておる。精霊様がこの兜をお受け取りにならなかった場合に備え、その娘も寄越せ」


「強欲なエルフめ……」



 ブレイクが呟く。



「妙な考えは起こすなよ」



 剣を握る手に力を込めたブレイクに、老爺は冷たい微笑を浮かべる。



 気づくと、こちらから距離は取っているが、多くのエルフが俺たちを取り囲むようにして立っている。



「ブレイク、お前は大人しく我々に従うほかないのだ。今まで通り我々のために働け。そうすれば、いつかはアリアーヌをお前に返して――」


「悪ぃな。俺はテメエらと違って長生きじゃねえ。もういい加減、待てねえんだよ」



 言いながら、ブレイクは左手に炎を生じさせ、その手を振るう。と、数発の《ファイア・アロー》が放たれ、周囲の木々に火の手が上がる。



「貴様、何を……!? 生け贄を自ら殺す気か!?」


「このまま何も変わらねえなら、それも悪くねえな」



ブレイクは笑いながら、《ファイア・アロー》を続けざまに放つ。



 老爺はゾッとしたような顔をして後ずさり、だがどうにか踏み留まって声を振り絞る。



「み、皆の者よ! この男は里に害を為す者だ! ウンディーネ様の名の下に、此奴を排除せよ!」



その号令の最中から、周囲からブレイクとララへ向かって魔法攻撃が放たれ始めていた。



 が、ブレイクはたやすくそれを躱して老爺へと斬りかかる。



速い。そして、凄まじい気迫。



「ヒッ……!」



その圧力に、老爺が小さく悲鳴を上げる。



 しかし、その斬撃は老爺が抱えている俺の《属性紋》によって跳ね返されてしまう。



 ブレイクは驚いた様子で退くが、そのすぐ後ろから、



「それを返しなさい!」



 追撃、ララが俺へと手を伸ばして突っ込んでくる。



しかし、老爺は身体に風を纏ったような身軽さで空へと浮き上がり、それを躱す。そして、その頭に俺を装着する。瞬間、



『黒魔法』


『黒魔法』


『黒魔法』



 俺の中を貫く光と言葉……。



 エルフ族である老爺の力が、《神層学習》の力によって俺の力になっていく……。



だが、老爺はそんなことになど気づかずに、



「返せだと? 断る! このような危険な代物は、我々のように高等な存在が責任をもって管理する必要がアバババババババババババッ!?」



 《学習》を終えた頃合いを見て、俺は老爺の頭におなじみの電気ショックをお見舞いする。



 《レビテーション》を使ってララの下へ戻りながら、



「全く……。どうしてこうも男共は勝手に俺を被ろうとしたがるんだ? まあ、俺が男心をくすぐるデザインをしてるのは解るが……」


「貴様……! 兜の分際で……!」


「今ので髪の毛が生えてくるかもしれないんだ。感謝してほしいくらいだぜ」



なんてふざけたことを言っていないと、心が保ちそうにない。



血の噴水を目の前で見てしまったことによるショックを軽口とララの匂いで紛らわしつつ、ブレイクに問う。



「勝機はあるのか? 相手はエルフ……強力な魔法の使い手なんだろ?」



 ブレイクはニヤリと不敵に笑い、言った。



「問題ない。連中には致命的な弱点がある」

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