復讐 part1
街道をしばらく進むと、やがて大樹の付近で広い空間に出た。
大樹を中心にした、円形の公園のような場所だ。
どのような仕組みなのだろうか、大樹の幹の複数の場所からは綺麗な水が溢れ出していていて、それがいくつかの小川となって辺りを流れ、そうして周囲の森の中へと流れ出ていっている。
周囲に人の姿はないが、どうやら家として使われているらしい大樹がぽつぽつと点在していて、その幹にある窓や扉には暖色の明かりが灯っている。
降り注ぐ柔らかな陽射しと、穏やかな小川のせせらぎ。
そんな平和極まりない景色を目を丸くして見回しながら、ララが言う。
「ここ……なんだか見覚えがあるわ」
「あるだろうよ。お前はここで生まれて育ったんだからな」
「え? じゃあ、ここはエルフの――」
「別にお前と思い出話をするためにここに来たわけじゃねえ。ちょっと黙ってろ」
ブレイクはララとの会話を断ち切ると、小川に架かった小さな橋を渡って、とある家(一本の木)のほうへと向かっていく。
その玄関先には、白いローブを着た金色の髪の男性がつい先程から立っていて、こちらを怪訝そうに見ていた。
金色の長い髪に、薄い緑色の瞳、真っ白な肌、尖った耳、そしてさらりと着流した清潔そうなローブ。
まるで天使のような風貌をした、若い男のエルフだ。彼は少し怪しむような表情ながらも、無垢な瞳でブレイクを見つめている。
そんな彼を、ブレイクは向き合ったその瞬間――一刀の下に斬り捨てた。
いつの間に剣を手に握っていたのか、それさえもほとんど見えなかった。
気づいた時には既に、エルフの男性はその左肩口から右腰へと一刀両断され、その肉体からは噴水のように血が噴き出していた。
その凄惨さを目撃して、俺は思わず言葉を失い、ララも顔を青白くしながら、
「なっ……!? ア、アンタ、何を……!?」
「いい気分だぜ」
問いには答えず、ブレイクは血に染まった顔でこちらを振り向く。ニヤリと笑う歯だけが白い。
「やっと、ここにいるクソエルフ共をぶった斬れる。この瞬間をどれだけ待ち侘びていたことか……。――おい、クソジジイ! 出てこい!」
辺りに怒声を響かせる。と、
「っ!」
こちらへと《ウォーター・レイ》――針のように鋭くした水の弾丸が飛んできて、俺の《属性紋》に衝突して弾けた。
それが飛んできたほうを見ると、少し離れた場所に禿頭の年老いた男が立っていた。
老爺は、筆のように長く白い眉毛の下から鋭い眼光でブレイクを睨む。
「ブレイク……! 貴様、なんのつもりだ?」
「よう、クソジジイ。よくもこれまで散々、俺をこき使ってくれたな。テメエらの言いなりになるのは、今日でもう終いだぜ」
「貴様……血迷ったのか? よもや、自分がどのような状況にいるのか忘れたわけではあるまい。それとも、もう『あれ』を見捨てることにでもしたのか?」
老爺が冷たい微笑を浮かべると、ブレイクの表情に一瞬、険しさが過った。
が、再びその口元に狂気じみた笑みを作り、
「別にそういうわけじゃねえよ。むしろ、返してもらいに来たんだ」
返しに……? 老爺は眉を顰め、それからちらとララを見て、
「その女は……? ああ、そうか、そういうことか。それは、お前があのとき連れ去ったお前の子だな?」
目をぎらつかせて言い、それから左手を中央の大樹へと向けた。
すると、幹の中程辺りに、何かがぐぐぐと内部から押し出されてきた。
琥珀色をした、巨大な結晶。
その中には――軽く膝を折るような姿勢をした一人の人間――いや、よく見ると、どうやらエルフの女性が閉じ込められている。
「あれは……」
ララがハッと息を呑んだようにそれを見る。
老爺は弄ぶような目でララを見て、
「見覚えはあるだろう、お前の母親だ。あの日――お前が『精霊』の生け贄になるはずだったあの日、あの女はあろうことか里を裏切り、ブレイクと共にここから逃げようとしおった。その罪によって、あの女は精霊への供物となったのだ」
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