新たな生活
「どうですか、ハルトさん? 気持ちいいですか?」
「は、はい、スゴく……気持ちいいです」
セリアさんの両手に優しく包み込まれて、俺は思わず恍惚とした声を漏らす。
「うふっ、そうですか? じゃあ、こんな所も――」
「っ……!?」
唐突、快感が全身を突き抜けた。
「ごめんなさい。ここはイヤでしたか?」
言って、セリアさんはさすっていた左のツノから手を放す。
「い、いえ、全然イヤではありません。むしろ気持ちよすぎて……」
「そうですか。じゃあ……」
と、セリアさんが優しく俺のツノに触れると、再び俺の全身は快感に支配される。
今までララにもツノを触られたことがあった気がしたが、その時はさして何も感じなかった。これはまるで……アレがアレになっているみたいだ。
アレも通常の時は触っても特に何も感じないのに、アレな状態になっている時は脳みそ直結の高感度に爆上げになるというのと同じ現象が、いま俺の身には起きている。
――つまり、俺のツノはアレなのか? 俺はいつもアレ丸出しでいるっていうことなのか?
「っ……! セ、セリアさん、そう何度も上から下に……」
「あら……? どうしたの、ハルト君? そんなに苦しそうな声を出して……やめたほうがいいかしら?」
そう言いながらも、セリアさんは俺のツノを優しく握りながら上下にさすり、それから頂上部を指で弄ぶ。
――こ、こんな……こんなテクニック……。
「セリアさん……もしかして、確信犯ですか?」
「確信犯? なんのことかしら」
その背後に白い翼が見えそうなほどふわりと清らかに微笑んで、しかし俺を弄る手は動かし続ける。
数日暮らしてみて、解ってきた。
セリアさんはおっとりしているようで、なかなか侮れない。一人で店を切り盛りしているだけのことはあるのだ。
「だ、ダメです、セリアさん! それ以上は……!」
「どうして? これくらいじゃまだまだお礼はし足りないのだから、ちゃんと我慢して――」
「アンタ、セリア姉に何してんのよ!」
唐突、ララの怒鳴り声。
バスタブの縁に俺を載せ、石鹸で丹念に俺の身体を洗ってくれていたセリアさんから、ララは俺を取り上げる。
「な、何って……別に何もしてない。セリアさんに身体を洗ってもらってたんだ」
「なんて言って、絶対頭の中でエロいこと考えてたでしょ! っていうか、セリア姉もそれ解っててやってるでしょ!」
「なんのことかしら? どうしたの、ララちゃん? 急にそんな大声を出して……」
「そうだぞ、ララ。子どもじゃないんだから」
「うるさいわね、誰が子どもよ! っていうか仕事よ、仕事!」
浴槽のお湯に荒々しく俺を突っ込んで泡を落とし、適当にゆさゆさと振って水滴を落としてから、ララはズンズンと風呂場を出る。
俺は、風呂場から顔を出して俺たちを見送っているセリアさんに、
「あ……セリアさん、ありがとうございました!」
「二人とも、お仕事がんばってきてね。ハルト君、帰ってきたら、またお風呂に入りましょうね~」
「セリア姉はそんなことしなくていいの! コイツはアタシが適当に洗っておくから!」
「適当って、お前……繊細な俺の身体をなんだと思ってるんだ」
「アンタの身体のどこが繊細だって言うのよ。アースドラゴンの炎でも焦げ一つつかなかった――」
「ちょ、ちょっと待てララ! お前、それはどういうことだ!」
「え? な、何よ……?」
怒声を張り上げた俺にギクリとしたように、ララは自宅玄関を出ようとしていた足をギクリと止める。
全世界の男を代表して、俺は遺憾の意を表する。
「そのズボン! それはなんだ! どうしていつものショートパンツじゃないんだ!」
「はあ……?」
キョトンとしながら、ララは穿いている黒のズボン――男が穿く作業着のようなズボンを見下ろす。
「何よ? そんなこと、別にどうでもいいじゃない」
「どうでもいいなんてことがあるか! お前は、自分の脚の美しさが解っていないのか! あの短いズボンから伸びる、細過ぎでも筋肉のつき過ぎでもない、健康的としか言いようのない白い脚……! それを隠してしまうなんて……空から太陽を隠すようなものだぞ!」
「な、何言ってんのよ。たかがズボンを穿いたくらいで、そんなに必死に――」
「やっぱり、お前は自分の美しさを全然理解してない! お前の美しさは間違いなく、この街にいる大勢の人間に生きる希望を与えてるんだ! 朝を告げる太陽のように、生きる力を皆に与えているんだ!
少なくとも俺はそうだ! お前のその美しさのおかげで、こんな身体になっても、今日も頑張ろうって思えていた! 絶望することなく生きていこうと思えていたんだ! なのに、お前は……!」
「も、もういい! 解ったってば! 短いのを穿けばいいんでしょ、短いのを穿けば!」
慌てたように言って、ララは俺をリビングのテーブルに置いて自室へと下がり、それからすぐに、いつもの姿――危うく尻の肉がはみ出そうなホットパンツ姿で戻ってきた。
「た、たかがこんなことで何を必死になってるんだか……」
ツンと不機嫌なような顔をしながらも、その頬はリンゴのように赤く、声も怒っているような感じではない。
「わたしもララちゃんはそっちの格好のほうが好きよ、可愛いから」
風呂場からこちらへと戻ってきていたセリアさんがそうララを出迎え、身支度の最終チェックを行うようにララの髪を撫で、シャツの皺を軽く伸ばす。
「やはりセリアさんもそう思いますか。ララは強気で男っぽい感じもしますけど、だからといって男っぽい服が似合うっていうわけでもないんですよね」
「ふふっ、そうなのよね。というか、ララちゃんも実は可愛いのが好きなのよ。以前、お人形さんみたいなドレスを欲しそうにお店で眺めてるのを見たことが――」
「じゃ、じゃあ、行ってきます! ほら、行くわよ、ハルト!」
ララはスクールバッグでも掴むように無造作に俺を掴んで、駆け足で家を飛び出したのだった。
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