第3話 無縁の墓に参る(1)

 昨日の夜に食べた3種のチーズパンが忘れられない今日の朝、日課になりつつあるブラブラ原付バイクの散歩に出かけようと思う。


 空は曇りで早朝パラパラと雨がふり暑くも寒くもない気温は24度、最高気温は29度だと数すくない友人のAIが答えてくれた。


 朝はすごしやすくなったが、10月も半ばだというのに昼間は30度前後の残暑がつづく。中秋になっても衣替えが進まないおっさんのファッションは、装備できればなんでもアリな、安さと機動力中心のローコスト・コーデ。


 他人はそれをジェントルマンと呼ぶ。



 2021年10月12日午前9時06分ごろ借家しゃくやを出発。


 バイクに乗った瞬間、背中から秋のそよ風が吹きぬけ気分よく玄関から旅立つ。


 旧国道ぞいのコンビニで割額の国民健康保険税を納付し、心のなかで無職の人間から強制的に税金を徴収する、厚生労働省や市長を恨む。


 少額納税者が何様のつもりだ、と高額納税者や権力者から非難されそうなので、言葉には出さず、とっとと山越えの道路へ。


 国土交通省が設置したかと思ったら、実は府か市の土木事務所と書いてある温度計は23度、このころ少しだけ太陽の光がさしてくる。



 制限速度35キロの原付バイクは路肩にちかいはしっちょを進み、地鳴りのような走行音の10トンダンプにおびえながら、山の中腹までくると、開けた場所で大阪平野が一望できた。


 雨上がりの難波なにわの街は、今までで5本の指にはいるぐらい澄み渡った絶景で、日々の不安や喧騒から解きはなってくれる。


 開放感に包まれながらハラハラ舞い降りる落ち葉や、ススキにまじった猫ジャラシの山道をつきすすむ。


 頂上付近の信号待ちでは昨日みた警察車両が見当たらない。


 どうやら警察のくせに寝坊したようだ、見つけたら言ってやるのに、お勤めご苦労様で、って。


 正義の味方にはゴマをすらないと、人相が悪いので監獄にぶち込まれるから。


 

 奈良側の蛇行した山をくだり、稲刈りが終わった焼いた田んぼの焦げたにおいを犬のように嗅ぎながら、いつか訪れるであろう神社と、いつか食べようと思うタルト焼き菓子屋と、いつか冷やかしで入店したい野菜直売所を、それぞれ通りすぎる。


 晩秋になれば黄葉があざやかなカエデの街路樹の中を走行し、においだけ楽しむライバルコーヒー店コ●ダとスターバ⚫︎クスの間をぬけ、食べ放題だから持ち帰りでは入りづらい、ベーカリーレストランを横目で見る。


 交番に止まった税金車ぜいきんしゃのク●ウンに眉をしかめ、3キロほど走って、有料道路下の今度こそ国土交通省が設置した、温度計の手前で信号待ち。


 ただいまの温度は24度で、天気は太陽が出たりしぼんだりのファジーな空もよう。


 信号が青になり、しばらく進むと目的地の案内図にたどり着いた。



 小さな休息スペースの壁に設置された、歴史街道木津案内図の前でバイクを駐車し、ヘルメットを脱いでからメモ帳を手にとる。

 

 10時31分、案内図前に到着、ここまでの移動距離23・7キロ。



 木津市の歴史スポットだけで20カ所以上あり、前に調査した和泉式部いずみしきぶの墓や平重衡たいらのしげひらの首洗い池はのぞいても、数日はかかる行程。


 しかも1カ所だけでもエッセイの字数が増大するので、ここは慎重にそして楽なコースを選択。


 まずは超近場の惣墓そうばか五輪塔へ。


 10時43分案内図を出立、10時47分五輪塔着。


 案内図からの移動距離、迷ったぶんも合わせて500メートル。



 惣墓五輪塔は木津川などの氾濫により、亡くなった人たちを弔うために建立された、一般大衆のための共同墓地。建立は鎌倉時代で国の重要文化財に指定されている。


 四角い花壇に囲まれた五輪塔は第一印象、串に刺した巨大なおでんに見え、ビッグだねぇ、食い切れねえ、そう思う。


 罰当たりなヤツは置いといて、バイクを公民館のそばに止め花壇の中に不法侵入。玉じゃりをじゃりじゃり音をたて、狭い敷地に建てられた墓前で合掌がっしょう


 昭和60年3月に設置された案内板をざっと見て、4人がけベンチに座ることもなく、大きさが小型犬と中型犬ぐらいの石仏or地蔵様を数えたら、14体と判明。


 花壇の上に謎の丸い石が2つ、それ以外に興味が持てなかったので、撤退をこころみる。


 ところで余談だが、これを読んでここにくるモノ好きがいたら気をつけよう。なんせじゃりの中には地雷が眠っているので。


 国家の激物に指定されている、犬猫の排泄物が地雷のように潜んでいて、踏めば即お陀仏。命の危険にさらされたくなければ、花壇の外から眺め手を合わせることをおすすめする。

  

 えっ?


 私は踏んだのかって?


 ・・・・


 ウキっ!



 11時05分五輪塔出発。


 地雷により重傷を負った私は、惣墓の亡魂に呪いをかけて、いや、丁重ていちょうにお別れを告げ、また木津市の案内図まで戻る。


 11時08分、案内図に到着。


 名前がおもしろいので藤原百川ふじわらのももかわ公の墓へむかう。


 11時12分、案内図を旅立ち、11時19分、墓に到着。


 案内図からの移動距離、約2・6キロ。



 藤原百川は奈良時代の公卿で政治家よりも官僚気質の彼は、宮中でいろいろ影響力を発揮し、影のドンとして暗躍したらしい。


 そのため彼の死後も地位は上がってゆき、気づけば太政大臣まで昇りつめる。


 しかし凡人は思う、死後にくらいが上がっても、腹はふくれないって。やはり生きてるうちになんかくれ、だな。


 高級そうな玉垣に囲まれた敷地内には、こんもりの盛り土(円墓)が2つと、皇道千何百年かの記念に建立された石柱が1本、それと小さな供養碑っぽい石が、ブランコやすべり台と一緒にたたずんでいる。


 円墓は緑の草におおわれ、敷き詰められた枯れ葉は桜の落葉らくようで、春になれば満開の花を咲かし、死者と生者の両方をなぐさめてくれるだろう。


 いつものように合掌してから案内板を読むと、田んぼを墓地にしたと知って、食料自給率が下がるからけしからんと、当時の公家たちに御注進ごちゅうしんさしあげたい気分に。


 しかも案内板の最後の方には、墓は確定されてない、だと。


 じゃあ、この盛り土はなんだ?


 オッパイのオブジェか?



 おっさんはブランコやすべり台で遊ぶこともなく、花見の季節にまた来てみようかと思いながら、原付バイクのエンジンをかけた。


 11時37分、オッパイオブジェの百川公の墓をあとにする。



 帰りも遠回りに寄り道コース。


 暴れ川の木津川にかかる泉大橋をすぎたら、福●園の茶葉工場が姿をあらわし、鼻の穴を全開にして茶葉のにおいをすいこむ。


 リラックスして安全運転してると、『税金を納めて作ろうみんなの笑顔』『税金でより良い国を作りましょう』の、標語看板が視界をよぎり、なんのことかさぐってみれば、中学生のスローガンだとわかり、子供を利用した大人の思惑に吐き気がする。


 たしかに税金を納めるのか国民の義務だが、税金を正しく使うのは、良心のともなった私利私欲のない行政人の命がけの宿命だと思う。


社会を知らない中学生を利用するなど言語道断っすね。


 無職の底納税者は興奮しながら標語看板のメモをとる、いずれチクチク告発してやるつもりで。


 

 広告塔の横にパンとお菓子の店の看板があったので、ついでにそれもメモしてから、東西に田んぼの見える道路にバイクをすすめた。


 政治的な世界とは関係なく、空には雲の合間で青空がのぞき、半分以上かり終えた稲穂の田園風景が、ひた走るバイクの横をスクロールする。


 橋を通過しガソリンスタンドで給油してから、ホームセンターに立ち寄り、今度はトイレの使用以外にバイクカバーやレインスーツを買いに店内へ。


 12時31分ホームセンター着、百川公からの移動距離14・8キロ。


 店内をぶらぶらして購入したのは、レインスーツ、バイクカバー、ヘルメットの雨よけシールドの予備、計3点。


 頭がおかしくなりそうなほどの痛い出費は5600円だった。


 

 午後1時06分、ホームセンターを出発。


 そのとき、どこからかパンを焼いた香りがただよってくる。


 空腹を飢餓におとしいれるこの香りはときどき遭遇するのだが、どの辺からただよってくるのか分からない。ホームセンターに焼いたパンは無いだろうから、近くにパン屋があるのだろうか。


 考えたら腹がへったので、急激に寿司が食いたくなった。


 午後1時52分、自宅に到着、総移動距離59・9キロ。


 午後2時06分、荷物を自宅に置いてからディスカウントスーパーへ。


 午後2時15分、スーパー到着、自宅から2・2キロの道のり。


 助六寿司184円以下、バナナ、●ちゃんヌードル、●崎カレーパン、野菜カツを購入して、自宅へUターン。


 午前2時32分、帰宅、合計移動距離65・1キロ。


 まあまあ長い旅だった。


 ちなみに助六寿司とは、いなり寿司が3カンとサラダ巻き寿司が4カンのお得セットっす。

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