第2話 城跡めぐり(1)

 家を出ようとすると家主様から声をかけられ、牛乳を買ってきて欲しいと頼まれ、原付バイクでノープランツーリングの帰りに購入すると約束。


 最初それをメモしたとき乳牛と書きまちがえ失笑するも、これはこれでネタになるとメモは書き直さずにそのままにした。仮に乳牛だとすれば、ジャージー牛かホルスタインか悩むところだが。


 一般の民家で乳牛を飼うと私生活は崩壊するので、とうぜんその案は却下。



 2021年10月11日午前9時18分ごろ、バイクで自宅を出発。


 昼間は30度前後に上昇する毎日だったが、半袖だと肌寒さを感じる時間帯、ナップザックには凍らせた麦茶のペットボトル1本と、座席の下にタブレットとポケットワイファイを収納し、原付バイクは軽快にすすむ。


 一応ノープランですすむつもりでいるが、なにも発見できない時の保険として、検索用のタブレットを持っていく。


 もともと携帯は契約してないし、時計すら持っていかない無計画ツーリングでも、利用できる物は利用しないと、通信料金がもったいない。だから普段は持ち歩かないタブレットを用意した。


 地図も見れるしね。あと時計はバイクのメーターについている。



 山越えの道路には国土交通省の温度計が25度を表示。


 山は平地より気温が低いのが常識だが、そのうち暑くなるので今は気合いで乗り切るつもり。


 山道を走行しているとときどき感じる、かすかなハッカっぽい草木の香りが鼻腔をくすぐる。あれはハッカなのかどうなのか、現在のところナゾでも気分がスッとするので、奇怪な生物のフェロモンだとしてもかまわない。


 

 山の頂上付近で、左折のウインカーを出しながら信号待ちをしていると、警察のものものしいボックスカーが停車しているので、運転席を上から下まで観察してみる。


 これから違反車両の取り締まりに向かうらしく、日常的に国家権力に抵抗する私は警察官から眼をはなさず、バイクで横を通り過ぎるまでベロベロと見つめた。


 もちろん断固権力とは戦うつもりでいるが、警察官がチョロっと拳銃を見せびらかしたら、ケロッと目をそらして逃走するつもりでいる。その覚悟はいつでもできているので。



 バイクはゆっくりと下り坂を走行し、秋にはイチョウの銀杏ぎんなんがボトボト落ちて、ブチブチつぶされる並木道をゆく。


 山を越えてもこの地域は大阪府だが、いずれ奈良県の〇〇市に吸収合併されるって噂を、空耳で聞いたような。大阪府と奈良県の土地をめぐる綱引きが続いているので、それをハサミで切るのが私だ。


 そして世界一小さい独立国を建国する予定でいる。


 どの人種でも審査不要で入国可能にし、大阪と奈良の県境を人口増加でパンパンの土地にしようと思う。



 たまには別の道を走行するためルート変更。


 大きな道路から小さな脇道をすすむと、山里の住宅街にでたので家屋の間をぬって、さらにほそ道に侵入。


 注意深くさぐることなく、城跡の矢印を確認。


 無計画でノープランでも適当にうろちょろすれば、何かは見つかるのもだと再認識する。


 車だとミニカーぐらいなら駐停車可能の小道にバイクを駐車し、まずは案内板も横目で流すだけで、小高いやぶ道を遠慮なくすすむ。


 ドングリの転がる悪路のさきに城跡を見つけ、あらためて下に降りバイクのキーを抜いてから案内板を読む。


 わざわざ登って降りた理由は、知らない土地で目的地までゆく場合、下調べをしないと、とんでもなく険しい遠距離に遭遇するときがあり、そうなるとドッと疲れるので調査は必要。


 ネットで調べれば簡単だけど、行き当たりばったりも探索のだいご味。


 しかし登って降りるのは体力を浪費することに気づき、これからは遠慮なく文明の利器に頼ろうと思う。


 こだわりはポイっと捨てるのが信条なので、ガンガンネット検索。



 築城者は田原たわら対馬つしまかみで、戦国時代には三好長慶みよしながよしにへーこらしてた荘官しょうかんであった。


 一説には自爆武将『松永久秀』の部下だったとか、最後の城主はキリシタンだったとか、織田信長の「潰しちゃいな」の一言で廃城はいじょうになったとか。


 文献が少ないので適当に妄想してんのか、ってぐらい諸説ある。


 

 案内板の後ろには枯れそうなモミジが水を欲しそうにして、モミジの背後には青紫あおむらさきのアサガオが、みずみずしく咲きほこり、その周辺をモンシロチョウが飛び交っていた。


 楽することを覚えた私は案内板を簡単に読みながし、あとでネット検索するつもりで丘を上がってゆく。


 しばらく畑の中をすすみ、いずれ土の養分になるであろう朽ちかけた樹木をよけながら、あっという間に城跡へ。


 土がむき出しの場所には城跡の資料が横ならんでいたが、小さな神社に興味がわいて、頭を下げてから調査を開始。


 ぼろぼろの神社でお座りしていたのが、ユーモラスな狛犬2匹。どこか愛嬌あいきょうのある表情で、めったに人が訪れないであろう城跡で、お賽銭を待っている様子。


 私は財布の中をみて、財布をそのまま後ろポケットに戻し、頭だけ下げた。


 無料のお願いごとは、徳川埋蔵金を独り占めできますように。


 

 神社の裏側にまわり、指先で押せば倒れそうな電柱ポールを見つめたあと、瓦の散乱する廃棄物の中に、カラのペットボトルや空き瓶を発見。 


 2リットルペットボトルはコカ●ーラで、空き瓶はウィスキーらしく、今では水がたまっている。なぜペットボトルや空き瓶がここに放置されているのか、2・1秒ほど考えて、限られた命の時間を無駄にしないため、急いで城跡の資料まで移動した。


 板にはられた資料は全部で14枚。


 特定非営利活動法人のご尽力により、製作編集されたその資料に感謝でいっぱいになり、1枚ほど眼をとおしたあと後日ネット検索を心に誓い、見晴らしのいい展望ポイントへ逃げるようにたどりつく。


 

 立て札によると、ここからお殿様が石ころめがけて矢を放つ練習をしたとか。


 どの石ころか見ようとしたが、竹が邪魔で現在は見えない。あとでバイクで拝見するとして、他にめぼしい物がないかと周囲を物色。


 ベンチが3つ、うち2つは大手飲料水メーカーのダ●ドーのプリント。たまにしか値引きをしない自販機中心の販売戦略をつきすすむ、ダイド●がこんなところにまで勢力を拡大しているとは、これも業界2位のコカコ●ラに対抗する戦術だろう。


 ベンチに情報源を求めるあたりで限界を感じ、突然わめきちらした不吉なカラスの鳴き声に背中をおされ、丘の上からおりることを決意。


 カラスにまじって遠方からフライドチキンなニワトリも鳴くので、ますます不吉。足早にバイクまでたどりつく。


 言い忘れたが、城跡は吸血昆虫がぶすぶす刺してくるので、虫除けを用意することをおすすめして、私は城跡を立ち去った。


 午前10時に城跡着、自宅からの移動距離10キロ。


 午前10時22分に城跡出発。


 22分の短い滞在時間だった。



 城跡を堪能たんのうしたような気分になったら、さっそく矢を当ててたとする石ころまで移動。


 ファミリカーほどの巨大石ころはすぐに見つかり、民家の庭先で樹木に包囲されながら障害物となっている。


 石ころも見たことだし、次はどうしようかと思案するなか、ふと目の前にサボテン。サボテンの上にはアマガエル。


 アマガエルはサボテンの上でじっとしているので、私もじっとする。


 限られた命の時間を無駄に・・



 アマガエルに23秒でお別れを告げ、バイクを数メートル前進、そして歴史散策道の案内板の前で停止。


 旧街道や史跡の情報をゲットして、1分ほどで出発。


 帰る途中に路肩から伸びる雑草が、ハンドルをにぎった手にバシバシ当たり痛い思いをする。


 しかも生意気な白いポルシェに追い抜かれ、昨日はオープンカーのポルシェにブッちされた。


 別に悔しくはない、ポルシェを3台見たら1つだけ願いが叶う、そんな都市伝説を信じて、真っ赤なフェラーリかもしくは燃費のいい軽自動車を、どこかの金持ちボンボンにお願いするから。


 

 帰りに頼まれた『おいしい乳牛?』と、『3種のチーズパン』、クリーム系菓子パンの『ダブルメロン』に『ダブルバナナ』、けっこう好きな未上場メーカーオイ●スの『北海道チーズ蒸し』パンを、近所のスーパーで市の地域商品券を使い購入。


 その日の夜、ベストフードアワード総菜パン部門1位の3種のチーズパンを食べたら、ストロングに美味うまかった。


 賞味期限ぎれ間近のおつとめ品でワゴンセールだったので、期待せず、チーズだから買ったていどの物だったが、本当に美味かった。


 さすがはなんちゃらアワード1位、また値引きされてたら買おうと思う。 


 帰宅時間午前11時50分、総移動距離34キロ。


 3種のチーズパンが意外に美味い、お気楽ツーリングだった。

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