うろうろ放浪記

枯れた梅の木

第1話 神社探索(1)

 17年間つき合った原付バイクが廃車になったので、このたび新車を購入。


 とうぜんだが私は初期高齢者のくせに無職なので、購入代金は家主様が全額だしてくれた。ありがたいと言うより、頭があがらないのはいつものことなので、気にせずバイクであちこち行ってみる。


 2021年10月10日午前11時36分ごろ、そうろうの自宅をでて、大阪から山をこえ京都府精華町の神社にいく。


 半袖ポロシャツ姿におなじみのナップザックには、常温水ペットボトルが1本。10月中旬といえど日中30度をこす残暑のため、水はかかせない。


 ナップザックの中には他にも耳かきや買い物用のビニール袋、スーパーで無料のナイロン袋に予備のビニール袋がなん枚か。


 ナイロン袋は買い物したときに無料でいただき、そのまま抜き忘れて入れたままのやつ。耳かきは耳の穴が痒くなったら使用。


 ナップザックのサイドポケットにマスク2枚、これがないと同調圧力で施設利用が不可能になるので、今や無いと死ぬレベルの必需品となる。



 準備はととのった、バッテリーも新品なのでエンジンスターターは1発始動し、走りだすと残暑の風もここちいい。


 さすがは新車、坂道でもスースーのぼるり快調に安全運転。3分の1ほどワタ雲におおわれた青空の下、中距離ツーリングは気分転換にもってこい。


 とちゅう生駒いこま山の山間住宅街ふきんで信号まちをしていたら、渡り鳥のコムクドリの鳴き声がハーフヘルメット越しに聞こえてくる。


 本当にコムクドリかどうかは知らんが、特徴的な鳴き声なのでそうだと決めつけた。


 バイクは奈良と京都の境界を入ったり出たりしながら、遠回りして木津川の泉大橋をわたり、国道からワザと外れて稲かりまっ最中の田園風景へ。


 モミを乾かすのは乾燥機が主流の昨今、ここより田舎でもめったにお目にかかれない、天日乾燥のハサ干しの柵に癒やされつつ、●橋を通過してすぐの目的地の神社に到着。


 午後12時45分着、30・5キロの道のりだった。


 

 なにごとも信心深い私は、他宗教でも神仏に対する祈りは忘れない。


 少し大きな幼稚園より小さい境内けいだいをズケズケ進み、うす暗い拝殿の賽銭箱に1円をほうり投げ、手を合わせる。


 願いは、神社を調査メモしているあいだ、彗星の落下がありませんように。


 とりあえず他宗の神様に仁義をきったので、心おきなく参道の入り口までもどり、立てられた御由緒ごゆいしょ書きをチェック。


 社伝によると崇神すじん天皇の時代に討伐された、武埴たけはに安彦やすひこの亡魂をしずめるため、奈良時代に春日大明神を勧請かんじょうしたのが始まり、だと書いてある。


 崇神天皇はかすかに聞いたことがあるけど、武埴安彦?


 検索して初めて知った名だが、皇族同士の争いで敗れた哀れなお人らしく、神社の創祀そうしも奈良時代とずいぶん過去のはなしで、ナマ物が腐る時間よりはるかに昔なのは確か。 


 他にも平安初期の延喜式えんぎしき神名帳じんみょうちょうに記載される式内社とある。


 延喜式と式内社については最近はやりの専門家に任せるとして、アマチュアは専門家が興味をもたないような、どうでもいい事をさぐってみよう。



 鎮守ちんじゅの森っぽい雑木林にかこまれた、とことん目立たない境内は京都府の無形民族文化財に指定され、まあまあ有名な祭りもあるらしい。


 糸トンボが止まった立て札に書いてあるので、嘘じゃないと信じたい。


 糸トンボがどっか行ったので、参道をじゃりじゃり音たてて数歩すすむと、日露○記念樹と刻まれた石碑が参拝客をおで迎え。


 ○の部分は漢字が読めないから○でごまかす。


 たぶん日露戦じゃないだろうか、石碑の裏に明治39年青年会と書いてあったので。


 ちなみに記念樹は左の紅葉か右の桜か、どっちなのかは知らんけど、どっちでもいいような気がする。


 

 オレンジ色に近い朱色の鳥居を拝礼してからくぐり、鳥居が建立されたのが何年だか調べたが、なにも書いてはおらず、好奇心を浪費して腹がへった。


 参道には献灯けんとうされた新旧の石灯籠がならび、古い灯籠が何年まえに献灯されたのか入念に調べてみるも、酸性雨にやられたのか古すぎて文字が解読できない。


 このとき考古学者なみの好奇心は一瞬で消えさり、つづいて表門に移動。


 表門から中に入ると、ど真ん中に常夜灯がつっ立っている。


 明かりのともらない灯籠、人はそれを石のかたまりと呼ぶ。


 石のかたまりの左右にペロンとした葉っぱの樹木。おそらく猛毒の果実をつけるというシキビだと推測するが、植物に詳しくないので椿ツバキでもいいかもしれない。


 まっ白い雪の上に落ちる赤い寒椿なんかもいいと思うが、さてどうだろう。


 こりずに古そうな灯籠の年代を測定すると、大正時代がかろうじて読めたので、灯籠調査はもうじゅうぶんお腹いっぱいになる。


 

 社殿に付属する建築物に歴代の神主さんらしき写真がずらり。


 社殿は全体的に暗いので、遺影かも知れないと思うと、チビっと薄きみ悪い。遺影じゃないことを祈る。


 参拝時に鳴らす鈴にたれさがる、紅白のでろんとした大量の布も不気味と言えば不気味。これにプラスして狛犬が威嚇してくるから、夜中に訪れるには少々勇気がいりそう。


 ときどき蝉の絶叫にビビることもある私には、怖いものなどないが、さっさと調査を終わらせるため拝殿の裏側にまわる。


 小さな賽銭箱が付いたほこらが合計9社、参拝客の財産をお持ちしております。


 

 拝殿に投げ入れた1円以外はビタ一文賽銭しなかったので、祠の数だけお願いごとをした。


 金と名誉と家と車と宝石貴金属をお願いして、あとセレブと言えばドーベルマンの印象なので、それを飼うことを祈願。


 いや。


 ドーベルマンは凶暴だし世話が大変だから、やっぱり取り消す。噛み合いになったら負けるし。


 

 裏から拝殿にもどると、なぜか灯籠とうろうの照明が灯っている。


 不審に思うが、暗くなると自動でつくタイプらしく、いかに社殿が暗黒かを物語る怪現象だった。


 太陽がカンカン照りでも常識を超えたこの暗さ、しかし、今ではそれもローカルスポットとして有りだと思うように。


 

 社殿を抜けようと上を見れば絵馬やらシールやら、いろいろあったが、特別芸術性の高い物品は確認できなかったので、暗いし早く帰ろうと社殿をでる。


 帰ってから暇つぶしに絵馬に載っていた作者名を検索すると、一致する情報はなかった。ついでに夜店で売られてそうなシールについても検索しようとしたが、面倒になり断念。


 これ以上ここにいても何もない、そう思った矢先、鳥たちが鳴きわめきうるさい状況に。恐怖系の映画やドラマなら、このあと見えない者が見えたり、低音ボイスの女性の声が耳元でささやいたり。


 非科学的なことはことごとく論理的に粉砕してきたが、見えない存在が本当に現れたとき、論理はなんの役にも立たないので、嫌な予感にしたがってとっとと帰ろう。



 だが学校の先生を質問攻めにする餓鬼ガキンチョみたいに、探究心が旺盛なおっさんの視界に竹林が見えたので、ここが最後だとさぐってみる。 


 L字型の突きあたりを曲がれば、そこには石のほこらと井戸が陽の差し込まない場所で、ひっそりと落ち葉にかこまれていた。


 井戸の底には水質基準をクリアできなさそうな水がたまり、鏡のように井戸の上空を映しだす。


 ざっくり感想をのべると、井戸からはニラまれたら心臓が止まる黒髪の女性がい出てきそうだし、石の祠は漫画のように強力な妖怪が封印されている。


 そんなイマジネーションを受けるほど、どちらも良くできた民俗学的に貴重なブツだ。

 


 実際にニラむ女性や妖怪が出てくると、話し合いが通じそうもないので、こんどこそ帰ることにする。


 参道の入り口に止めたバイクのキーを回すと、メーターの時計は1時27分をさし、太陽の熱とヒカリが体に打ちつけ、じんわり汗が出たのでタオルでふきとった。


 帰りの大通りでは、うっすら紅葉したトチの木を眺めながら、トイレに立ち寄るためだけにホームセンターを利用。


 なにも買わずにセンターを出て、10年来気になっていた個人経営のパン屋で4つのパンを購入。次の日のブレックファーストにしたら、値段のわりに味は普通だった。


 これにより10年越しの思いは冷め、外から美味うまそうかもと想像する方が幸せかもしれない、そう痛感する。


 帰宅時刻は2時37分、54・9キロの神社探索は終了した。

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