第32話 家政"夫"のFLOWERが咲く

 康太はいつものように朝食の準備をする。時折、胸に手を当てて、服の下にあるネックレスの確認をする。


「今日もちゃんとある。夢じゃないんだよな」


 先日、京介からのプロポーズを受けて数日が経った今でも夢見心地で、現実味が無かった。



 朝食を食べ終わると京介が口を開いた


「母さん、話がある。康太もここに座って」


 ついにきた。洗い物を済ませ康太は京介の横に座った。

 そんな2人をじっとみる和子。

 康太は緊張が一気に訪れ、震えそうになった。その手を京介は握った。


「俺たちのことなんだけど……」

「フーー……… 」


和子は大きなため息をつきうなだれ


「聞いてるから続けて……」


「俺たち、付き合ってる。康太と結婚したいと思ってる。

 どうか、わかってほしい許して欲しい、母さんには認めて欲しいんだ。」


天を仰ぐ和子。


「康太さん、最初に来てくださった日に話したことを覚えてる?『恋心はクビ』とね……」


「母さん!!」

和子の言葉に慌てて立ち上がる京介


「京ちゃんは、黙ってて!いま、康太さんと話してるのよ!」


和子が怒った。


「もちろん覚えています。覚悟は出来ています。」


「そう……ならば辞めてもらいますね。」


和子は静かに言った。


「母さん!!康太の雇い主は俺になってるはずだよな?

 俺は絶対にクビになんてしない!康太を手放すなんてしないからな!

 母さん、わかってくれよ!

 たしかに、母さんの思うように女性と一緒になれたらよかったもしれない。

 

 けど俺無理なんだ!康太じゃなきゃダメなんだ!


 それに、恋心でクビっていうなら好きになったのは俺だ!俺に責任があるんだ!康太じゃない!

 康太は俺に口説かれてその気になったんだ。悪いのは俺なんだ!康太じゃない!」


京介は声を荒げて熱弁した。


「京ちゃん、もういいかしら?あなたの言いたいことは分かっています。

 そもそもあなたたちがそういう関係だということは、前から知っていましたよ。

 いつだったか、昼間に帰ってきたことがあってね。

 家に入ったら、まぁ、そういうことになってて。


 母はこれでも遠慮してきたんですよ。

 それなのに康太さんの身体にはあちこちに何度もキスマークはついてるし。

 だから、昼間はむやみな出入りやめてたんです。お出かけも増やしてあげてたわ。変な時間に帰らないように。帰っても10階には行かないようにしてたんですよ。

 ましてや夜なんて……

 そして覚悟もしてたわ。いつかこんな日が来るかもしれないって。

 私はね、康太さん。本当にあなたのことが大好きなんです。

 ずっと我が家で働いて欲しかった。本気でそう思ってたんですよ。

 でも、あなたの希望は家政夫ではない道で、我が家との関わりを持ちたいということなのよね?

 京介の……奥様になるのかな?旦那様?良くわからないけど、結婚相手として我が家と関わりたいということなのね? 

 それが本当にあなたの望みなの?そうなの?」


うつむく康太……

 意を決して和子をまっすぐ見て話す


「和子様、僕は京介さんのことも、和子様のことも大好きです。お二人のことが本当に大好きです。

 もちろん、恋心を抱いたら辞めさせられるということは分かっていました。

 だから最初は本当に悩みました。

 でも……


 でも僕は、家政夫を辞めさせられることよりも、京介さんの隣に他の誰かがいると思う方が嫌だったんです。

 だから僕は、家政夫を辞めてもいい覚悟でつきあってきました。それが僕の答えです。望みです」


 康太のその言葉を聞いた京介は、満面の笑みで抱きしめる。

 そんな2人をみていた和子も笑顔で話すのでした。


「私はね、反対なんてしませんよ。相手が男性だろうと女性だろうと、京介が選び、京介を幸せにしてくれる相手ができたならそれは性別なんて関係なく喜びますよ。


 ただ、約束は約束なので、家政夫は辞めてもらいますね」


「母さん!」


「京ちゃんは黙ってなさい!いつも無口なのに、困った人ね。

 家政夫を辞めてもらうのは、康太さんのためであり、私のためであり、京介のためなんですよ。

 前から思ってたのよ。

 お嫁さんができたら、一緒に習い事行ったり、お買い物やランチなんかも行ったりしようって。

 京介がしっかりと稼いでくれるから、私の老後はお嫁さんと贅沢しながら楽しく過ごしたいって思ってたの。


 だから、お嫁さんには我が家にいてもらって、労働ではなく楽しく生活して欲しいの。家事は他の方にお願いして、私たちのそばにもっともっといてもらおうと、そういうことを言いたいのよ。


 ね?康太さん。お仕事はやめてそばにいてくださらない?

私はあなたをうちの嫁として迎え入れたいと思ってますよ」


「ありがとうございます!」

康太は立ち上がりお辞儀をした。


「よっしゃー!」


京介は大きな声で叫び、両手の拳を突き上げた、そして康太にキスをした。


「あらあら京ちゃん!もう!目の前で、もう」


「康太、幸せになろうな!世界一、幸せな夫婦になろうな!」


「はい、京介さん。でも……」


和子も京介も笑顔だが、康太は浮かない表情。


「どした?」


「和子様、覚悟は出来てたんですが……家事やっぱり僕は好きなんです。僕がしてはダメですか?洗濯とか部屋の掃除を他の人にされるって言うのが、ちょっと……」


「康太!お前さ、やっと認められたのに……」


「さすが康太さんよね。そう言うとも思ってました。じゃ、これはどう?家政婦さんを1人雇う。それは私の面倒を見てもらうためにね。10階の掃除や京ちゃんの世話はこれまで通り康太さんがやればいいわ。

 あ、あと寧々さんの先生は続けるの?」


「いいんですか?ありがとうございます、それが1番僕は嬉しいです。

 寧々さんの先生ですが、それも続けれたらと思ってます」


「働き者ねー。可愛くて、よく出来た嫁で。この調子なら、康太さん子どもも産めたりしないかしら?」

「え?子どもですか?」

「なんだよ、母さん。変なこと言うなー。でも、康太なら確かに、産めるかもしれないな」

「無理無理無理無理無理!そんなこと出来るわけないじゃないですか!」

「アッハッハ!冗談だよ!よし!

 これで本当に決定だな!母さんも康太もいいな?」

「はい」

「ええ。いいわ」


2人とも頷く


「俺は康太と結婚するぞー!」


京介は大声で叫んだ


「まぁ京ちゃんったら!」


和子も康太も、京介もみんな幸せな顔になりました。



ここに、ひとつしあわせなYやおいの花(FLOWER)が誕生したのでした。

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FLOWERs 〜恋する家政"夫"編〜 兼本 実弥 @miya_san

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