第5話 ダルい……

ベールの下の鼻を掻きたい…腹巻がしっくりこないから一回脱ぎたい…ペットボトルに入った麦茶、ガブ飲みしたいなぁ


しかし、会話が全く無いのも困ったね


あ、馬車内で包帯公爵閣下と完全なる二人きりは避けられましたよ!婚姻前の男女を二人きりにするのは、なんたらかんたらと言ってカイフェザール閣下の部下の方が反対してきたんだよね。


双方一名ずつ同伴者をつけることになったのだ


私は、やった!と思って、同伴してくれるメンバーを選ぼうと思ったけれど、あれ?うちのメンバーって、泣き虫ビビリ(ジリアン)無表情(カレン)乙男(ミツルちゃん)しかいない。


メンバー濃いなあ、おい!しかしこの中からか…


包帯男とサシで向き合っていたら、泣き虫ビビリのジリアンが神経をすり減らして倒れそうだし、乙男のミツルちゃんと一緒なら移動中に


「殿下♡刺繍しましょ♡」


とか言われて、揺れる車内で刺繍針を渡されてチクチク刺している時に、馬車が揺れて刺繍針で眼球を突いてしまいそうになるという、未来しか見えんわ…


となると、無表情会話能力死滅のカレンしか残っていないか…


「…」


という訳で、車内は異様な静けさに包まれております


ベールを被った怪しいどすこい占い師、メイドさん、詰襟の軍人さん、包帯男……完全にハロウィンパーティーに向かう仮装した浮かれた面子みたいになっている。


それにしてもだ、時々カイフェザール閣下からチラチラ見られている気がするんだけど、またもどすこい醜女の確認中なんだろうか?


「閣下、一度休憩を挟みますが…」


閣下の横に座っている神経質そうな軍人がそう告げると、包帯閣下はそうか…とだけ答えた。


休憩か…さっきからお腹の腹巻がズレてきて気持ち悪いので、脱いじゃおうかな?


「カレン、お花摘みに行こうかな」


「はい」


以下…馬車の中でのカレンとの会話終了ーー!2時間に、二言しか聞けなかった…


「あとどれくらいかかるのかしら?」


「後、一刻ほどです」


軍人のお兄様がすぐに答えてくれた。一刻…大体一時間半くらいかな?この世界は時間が24時間より長いみたいなんだよね。30時間あるんだよね…この世界?星、惑星って太陽?とか引力ってどうなってるんだろう。


そもそも惑星なのかも怪しい…もしかして平面世界?それはそれで面白そう


馬車が止まったので外に出ると、街道沿いに建つ道の駅みたいな店舗と、その横に食堂、雑貨屋が数件ある感じの場所だった。郊外のショッピングモールみたいだ。


キョロキョロと辺りを見ていると背後から声をかけられた。


「公爵領の周りは魔獣が頻繁に出ますので、自然と討伐目的の冒険者が集まりますので、休憩所としてここを使っています」


びっくりした…包帯閣下がいつのまにか背後にいた…いやいや?ここでも全身包帯男で、皆から注目浴びてない?私も包帯の仲間だと思われてしまうよ!


まあ…私も怪しいどすこい占い師みたいだけどさ


「姫様、こちらですよ」


ジリアンがトイレの前で呼んでいるので、素早く包帯閣下の前から逃げた。


「腹巻はまだ早かったわ~汗かいちゃったわ」


と、ジリアンに言うとジリアンは…そうでしたか~と笑顔を向けてくれた。


「じゃあローブだけ羽織られます?」


うん、そうだね。寒くなったらケープを追加で羽織ればいいもんね。


トイレの個室の中で腹巻と肌着を脱ぐと、トイレの前でケープも脱いでローブだけ羽織ってみた。


「もう南の公爵領でしょ?ローブだけで全然大丈夫ね」


そう言って笑いながら、仮装ハロウィンパーティーメンバーの待つ馬車の前に戻った。包帯閣下がこちらを見たので、少し微笑みを浮かべて軽く腰を落とした。


「お待たせし…」


「お前は誰だっ!?ナノシアーナ殿下はどこだ!?」


「は?」


この包帯は何を言ってるんだ?

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