第6話 本人ですが?

「お前は誰だっ!?手洗いで入れ替わったのか!?」


「はぁ?」


何を言ってるんだ?包帯閣下…


ジリアンとカレンとミツルちゃん3人に目を向けると、3人共に首を捻っている。そうだよね?何言ってるんだろう?


「名を名乗れ!」


まるで侍だな…私はドラキュラ伯爵であるっ!とか言っちゃおうかな?


「ナノシアーナで御座いますが?」


つい疑問形で答えてしまう。いや、ホントなに?


包帯閣下は私の正面から右側に移動したり、左側に移動したりして私を視姦?している。ていうか、松葉杖どうした?もはや手に持ってるだけのただの棒になってないか?もしかして足は痛めてないとか…うむむ。


「さっ…さきほどより厚みが無いっおかしいじゃですか!」


厚みって!言い方っ!


「あ、もしかして肌着と腹ま…ゴホン、を脱いだからでしょうか?」


「え?」


私はジリアンが持っているケープ(腹巻等は鞄に入れた)に目をやった。包帯閣下はジリアンを見て、私を見て…を繰り返している。


「脱いだ…?」


「はい、南の公爵領は寒いと聞いていましたので、肌着を重ね着していたのですが、暑くなってまいりましたので脱いだのです」


包帯閣下は暫く私を見詰めた後に


「本物の殿下ですか?」


と聞いてきた。


「本物です」


それ以外になんと答えりゃいいんだよ。


閣下は更に踏み込んできた。


「そのベールを取ってお顔を見せて頂けますか?」


なんだと!?醜女フェイスで皆をビビらせてしまうから隠しているのに、見せろとな?


「…」


閣下の包帯の奥の瞳が猜疑心に溢れている気がする…仕方ない。


私はなるべく顔面を晒さないとように気を付けつつ…包帯閣下の方にだけ見えるように、ベールを上げた。


「!」


私の顔を見て、包帯閣下が驚愕の顔を浮かべた。


ほら見ろ、やっぱりだ。だから嫌だったんだ…私の顔を見て二度見、三度見されるのは昔から当たり前だった。


私は急いでベールを深く被り直すと


「驚かせてしまって申し訳御座いません…」


と早口で謝罪を述べた。


閣下は暫くフリーズした後、ロボみたいな硬い動きをしながら


「こちらこそ失礼致しました、殿下」


と呟くと、なんと松葉杖をついて歩き出した。


あれ?さっき明らかに杖を棒みたいに振り回してませんでしたっけ?また足を負傷してるのか?


そして馬車内に戻って再び公爵領に向けて出発したんだけど…


「ハァ…」


さっきからさぁ、包帯閣下が下向いて溜め息ばっかりついてるんだよね~


ん?溜め息なのか?もしかして具合が悪いのかも…そうだよ!包帯でグルグル巻きにしているから、胸とか喉とかが絞まって苦しいんじゃないかな?


気のせいか、閣下から聞こえるハァハァの音が大きくなっている感じがしたので、思い切って俯く包帯閣下に声をかけた。


「あの…御加減が宜しくないので?包帯を緩められた方が良いのでは?」


包帯閣下が勢いよく顔を上げて私を見てきた。


あれ?閣下、結構勢いよく体が動いてるね?具合が悪いわけじゃないのかな? 


でもな…王都から長い時間、馬車に揺られてたし疲れは溜まってるかも?


「あ…えっと、横になられます?そうだ、それでしたら私とカレンは別の馬車に乗りますので、閣下はここで横に…」


「止めて下さい!」


こんな時だけカレンが素早い動きをする。御者に鋭く声をかけたので馬車は急停車をした。


車内で怪しい占い師と包帯男と詰襟軍人が、急停車のでせいで馬車の中で体をバウンドさせてしまった。勿論、不動のカレンはビクともしていない。イエーイ!ハロウィンパーティー!……ふざけるのは心の中だけにしておこう。


「殿下」


カレンが先に降りて、手を差し出してくれた。私はその手を取ると外に出た。


「では閣下ゆっくり横になって下さいませ」


「え?あっ…」


カレンが馬車の扉を勢いよく閉めたので、何か言いかけていた包帯閣下の言葉は最後まで聞こえなかった。


「閣下、疲れてたみたいよね?公爵領に着くまで横になってたら少しは楽になるかな~」


「そうでございますわね」


私とカレンはジリアンとミツルちゃんが乗っている馬車に乗せてもらうことにした。


道中、ミツルちゃんに何度も刺繍針を渡されそうになったが、眼球を突いてしまう!と断固として拒否しておいた。


リアル血糊が目から飛び出してしまうではないか…ハッピーハロウィン!


ふざけるのは…以下省略


そうして私達は一時間半後、無事にカイフェザール公爵領に到着したのだった。

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