第4話 包帯男とブサイク王女

この馬車の中だけハロウィン真っ最中じゃね?


こんな状態になったのは今より数時間前のことだ。


荷造りを済ませて、そろそろ行こうか…という時に窓ガラスに映った私の顔を見て、気が付いた。


私の恐怖を呼ぶ顔面が晒されてるじゃないか!


「姫様〜南の公爵領は随分と冷えるようですよ?ローブの中にケープを重ねますか?」


ジリアンに言われて、南の公爵領の気候を考えた。この世界は北も寒いが南の方も寒いのだった。春夏秋冬があるのは大陸の中心部、主に王都の周辺だけなのだ。


「そうか、寒冷地だったわね…冷え症だし肌着を重ねておきましょうか」


ローブの下にケープ、その下に肌着を重ねた。冷え症なので腹巻を装着した。元々ローブもズドーンとした見た目だけど、着膨れて…私ってば、どすこーい体型になっている。


まあいいか、寒いよりは全然いい。


「そうだ〜顔も隠したいんだけど…ホラ、私の顔で皆怯えちゃうでしょ?」


カレンが私を見ながらオロオロしている。


どうしたんだろう?


すると、衣服を詰めたトランクを運んでいたはずのミツルちゃんがすっ飛んで来た。


「それなら、良いのがありますよ!私が刺繍を刺しましたベールが!」


ミツルちゃんがどこから出してきたんだ?な、半透け素材の紺色のベールを取り出してきた。


「流石、ミツルちゃん。刺繍綺麗ね〜」


手触り抜群のミツル製の怪しさ満点の占い師ベールを頭からズッポリと被った。


鏡でチェックして見た。


「いい感じね!薄っすらと透けてるから、視界は大丈夫そうだし」


私はどすこーいと、体を動かすとそのまま部屋を出た。


そうそう一応…一応、私達はラナイス=ヨード=カイフェザール公爵閣下の帰郷にご一緒することになったのだ。


ドナドナ〜


馬車寄せまでドスドス…と歩いて行くと、異彩を放つ存在、包帯男ことカイフェザール閣下が松葉杖をついて立っていた。


いや、閣下怪我してるんでしょ?座らせたげてよ


私が閣下の方に近づくと、閣下のお付きだと思われる軍服を着たお兄様達が、閣下と私の前に立ち塞がった。


な、なんだ?


「それ以上はお近付きなられませんように、お願い致します」


閣下はパンダかっ!!


その例えもおかしいか…まあ、醜女の私に側に寄られるのもキモいとか思ってるかもしれないやね。


「ねえ、閣下を立たせたままにされてるのは何故?お体、負傷されているのでしょう?そちらのソファに座って頂いては?」


私が、馬車寄せの待合室に設置されているソファを指し示しながら、手前にいる軍人に告げると軍人さん達は一斉に、カイフェザール閣下の方を見た。一斉に見られたカイフェザール閣下は少し視線をこちらに向けた。


「…大丈夫です」


素っ気なっ!!!


しかし、カイフェザール閣下の声は低音の美声だった。そう言えば閣下は、全身包帯で包まれているとはいえ、体は下膨れでは無い感じだ。


もしかしたら、体型は普通の細マッチョかややマッチョなのかも知れない。この世界の美の基準らしい、ゴマフアザラシや横綱体型じゃないだけでも、私的には好感度が高い。


「…では馬車に」


カイフェザール閣下に促されて、ん?と思ったぞ?ちょっと待て、公爵領に行くまで狭い馬車の中で包帯男と二人きりなの!?


いやいやいや?馬車の中ではベールを取りたいし、なんなら靴も脱いでローブと腹巻も脱いで、お菓子をバリボリ食べながら道中楽しみたいし?


包帯男は邪魔だから!


「…」


と、言いたかったけど宰相やら軍の将軍とか…おまけに母の実家の親戚一同が見送りに来てくれてるのよ〜嬉しいけど、包帯男とのっけから不仲を宣言するのも難しいよ〜!


ああっ!伯父様と伯母様、従兄弟達総勢8名が一斉にこちらに駆けてきた!


「ナノシアーナ殿下!」


「ナニィ!」


親戚一同に囲まれた。皆、泣いている…


「伯父様、伯母様、ジュニー…サラ、ロン…、ノー、メル伯母様、ヨヒア叔父様、皆ありがとう。私のせいで皆に苦しい思いをさせてごめんね」


伯父様が泣きながら首を横に振った。


「王都では自由に動けないが…私達は大丈夫だ」


「そうだよ、ナニィのお陰だ」


ヨヒア叔父様は力強く頷き返してくれた。


そう…親戚一同には異世界の知識(金儲け)が詰まった私が作った虎の巻を渡している。


これを元に発明や自領運営に役立てくれればいい。


「元気でね〜お手紙頂戴!」


号泣しているサラ11才に手を振り返して、ミツルちゃんお手製のレースのハンカチで目頭を拭きながら馬車に乗り込んだ。


「……」


包帯男が馬車で座ってた!


全然問題は解決してねぇ!?包帯男と馬車に二人きりじゃないか!うっかり感動のお別れに浸ってる場合じゃないじゃない!


そして冒頭のアレになったのである。

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