第3話 取り敢えず、行くか…

包帯男…南の公爵閣下に国王陛下は声をかけた。


「おおっ…公爵には大儀であったな。無理をせぬように養生いたせ、ナノシアーナを宜しく頼むぞ」


私の名前が出て、思わず俯いてしまった。


「…賜りまして御座います」


あ〜ぁ賜っちゃったよ。いらねーよ!と言ってくれるのをちょこっとは期待したんだけどな…


まあ、いらねーよ!はこんな所では言えないか…不敬だもんね、公爵閣下はまた軍人達に支えられて退出されて行った。


おいおいっちょっと待ってよ?なんかさ〜ここであるでしょ?公爵閣下と話しくらいさせてくれないの?後は若い二人で…とかないの?


気が利かねぇおっさんだな!


気の利かないおっさんの国王陛下(父)をジロリと見ると、慌てている…すると何故かカヒラがボヨ〜ンと父の前に躍り出て、私を扇子で指し示した。


「カイフェザール公爵閣下は魔獣討伐で深手を受けて、顔も体も醜く爛れてしまったんですってぇ!醜いお姉様にお似合いの方よね!オホホ!」


魔獣討伐で負傷された閣下を醜いだなんて…身を呈して戦った名誉の負傷でしょうよ?私の元々の不細工とは訳が違う。


私は国王陛下にカーテシーをしてから謁見の間を出ようと動き出した。


周りにいる大臣や役人…高位貴族の夫人方を目の端に入れながら溜め息が漏れる。皆ふくよかだな~でも、どすこい体型の人はそれほどいないけどね。思っていたより私に悪口を言って来る人(どすこい妹一名は除く)はいなかったな…


私の前で扉を開けようとしてくれた、近衛が小さな声で私に話しかけてきた。


「殿下、大丈夫でございますか?」


優しい声色に顔を上げると、精悍な顔立ちでがっしりした体つきの…けしてお太り様体型ではない普通のイケメン近衛がいた。


この人もブサイクブサイクって言われてるのかな?お気の毒…


私は私的イケメン近衛に微笑み返した。


「ありがとう、大丈夫よ。お勤めご苦労様」


「!」


イケメン近衛は驚愕みたいな顔で固まってしまった。


しまった…笑い顔が醜女過ぎてビビらせてしまったのかもしれない、なんて言っても絶世の不細工らしいのでね…


慌てて俯くと足早に廊下に出た。廊下に出ると、私付きのメイドのジリアンとカレン

と共に侍従のラミツル…私はミツルちゃんと呼んでいる、がっちりとした男の子が立っていた。


このミツルちゃん…この世界でいうところの、ブサメンに入る感じの顔立ちな上に、趣味がなんとレース編み!手芸全般が得意みたいで、その乙男なところがメイドや侍従から気味が悪いと言われていたらしく…裏庭の木陰で自作のレースのハンカチを握りしめて泣いていた所へ私が出くわしたのが、ミツルちゃんとの出会いだ。


まあ私が何故裏庭を歩いていたかというと…嫌がらせの一環でお母様の形見のネックレスをカヒラに投げ捨てられたから探しに行ったんだけどね。


ジリアンは泣きながら、カレンは相変わらずの無表情で一緒に探してくれた…二人はカヒラが私の部屋に入って来て宝石箱を投げ捨てても、追い出すなんて出来ないもんね。


その時にミツルちゃんも裏庭を一緒に探してくれて無事、お母様のネックレスは見付かって私はミツルちゃんと仲良くなれたという訳だった。


そのミツルちゃんがどうしてここにいるの?


「殿下、カイフェザール公爵領に参られる時は私達もご一緒します」


カレンがカーテシーをしてそう言うと、隣のジリアンも同じくカーテシーをした。


「私も一緒に参ります!」


ジリアンは既に泣きそうになっている。そしてもう泣き出しているミツルちゃん…


「私もご一緒しますぅ!」


男泣き…違った乙女泣きのミツルちゃん、自作のレースのハンカチで涙を拭いている。


「ミツルちゃんはどうして一緒に来てくれるの?」


ミツルちゃんはハンカチを握りしめて叫んだ。


「殿下の為の婚姻衣装の縁飾りのレース、私が作ったのを着て貰いたいのです!」


そっちかい!!!


まあミツルちゃんのレース刺繍は凄いから、それは有難く受け取っておきましょうか。


メイドと侍従(乙女)の三人が付いて来てくれるというので安心したけれど…あの包帯男と一緒かぁ、不安しか無いわ。

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