第2話 絶世の…

逃げるなら今のうちだぜっ、南の公爵閣下!と、思っていたけれど真面目な性格らしい南の公爵閣下(公爵家は北にもあるので通称でこう呼ばれている)は、律儀に予定通りに私を迎えに王都にやって来た。


持病の腰痛が悪化しまして…とか言って公爵領に帰っちゃえば良かったのにね?


そうして、第一王女の体裁を整えられた私は謁見の間に向かった。


はっきり言って公の場に出るのは実に7年ぶりだ。義母達に嫌がらせで社交界からはシャットアウトされてるしね~いやぁ気楽で良いよ。


そうだ、カヒラ曰く…私は相当の醜女らしいので、あまり人と目を合わせないように気をつけておこうかな。


侍従が開けてくれた扉の先、謁見の間には丸々と肥えたカヒラと義母の国王妃と国王陛下がいた。


私が謁見の間に入ると、皆のざわつきが一瞬で止まった。そして「あれが……」と、言うような声があちらこちらから漏れ聞こえる。


あ〜はいはい、どうぞ噂にしてくださいなぁ


国王陛下の前でカーテシーをしてから宰相閣下に促されて、国王陛下の左側に立った。


「ナノシアーナ、済まない…」


蚊の鳴くようなちーーさい声で陛下…父親が囁いてきた。


謝るんなら、私じゃなくて母の実家のアドヴル侯爵家の親族一同に謝れ! 


あんたの嫁(国王妃)のせいで、伯父様や従兄弟達が閑職に追いやられてるんだからなっ!分かってんのか!?


私は黙って父親を睨んでやった。


そんな父の肩越しにカヒラが、嫌な笑顔を見せてきた。


「あらぁ〜そんな古臭いドレスで着たのぉ?ホントに何を着ても醜いから似合わないわね!」


カヒラめっ!またデカイ声で叫んじゃって、謁見の間にいる方々が急にザワついてますが…カヒラはそのザワつきの中、更に叫んだ。


「醜女のあなたと違って私はこんなに美しいから羨ましいでしょう!オホホ…」


高笑いのカヒラの笑い声だけが謁見の間に響いていた。うるせーおデブだな!


その高笑いが治まった後、謁見の間の外から侍従の声が聞こえた。侍従もカヒラが笑い終えるまで待っていたようだ。空気読んだね。


「ラナイス=ヨード=カイフェザール公爵閣下入られます!」


扉が開くと……公爵閣下ではなく、ミイラが立っていた。もとい…ミイラのような頭から顔全体まで、包帯でグルグル巻きの男が立っていた。


あれ?異世界ではハロウィン真っ最中か?


そんなボケは今はいいか…それにしても本当に全身包帯でグルグル巻きだね?おおっ松葉杖までついているよ。あぁ~謁見の間の赤い絨毯、毛足が長いから足元取られるでしょ?躓きかけてるよ。思わず見ててハラハラしてしまう。


ヨロヨロしている包帯男を、周りにいる軍服のお兄様達3名が支えている。包帯男は玉座の手前で跪いた。


「このような姿で参上致しまして申し訳御座いません、国王陛下の御前失礼致します。カイフェザールで御座います」


ありゃま、包帯男の正体は南の公爵閣下だった。


それにしても公爵閣下どうしたのかな?怪我しているのかな…ちょっと、怪我人を床に跪かせたままにするの?椅子に座らせてあげなよ!


「…っ!」


公爵閣下、大丈夫かな~と思いながら見詰めていると、包帯グルグル巻きの公爵閣下と目が合ってしまった。しかも向こうから凝視してきている気がする…何故そんなに見るのだ?もしかして、予想通りの醜女だな~と確認しているのか?


実はね、この世界の美醜の基準がどうやら私の認識とは違うみたいなんだよね。つまり、ゴマフアザラシ体型の肉厚なカヒラが絶世の美女みたいなんだよね。


カヒラが私って綺麗でしょう!?と、叫ぶとメイド達や侍従も何度も頷いているしね。私付きのメイドのふたりにそれとなく美醜の基準を聞いてみたいけど


「シモブクレが絶世の美女だから!」


と、言われたら私…本当に醜女なんだと落ち込んじゃうから、聞くに聞けないんだよね。


私ね…元の世界基準でいうと、金髪に菫色の瞳のグラマラスわがままボディの結構な美人なんだよね。赤子の頃は容姿に関しては周りから指摘されたことなかったけど、物心付き始めた時にカヒラから、お前は不細工だ!発言をされてから気が付いたんだよね。


カヒラのことを皆が美しい、美しいと褒めたたえているのは、そういうことだったのだ!と目からウロコ…は、なかったけれど納得はしたのだ。


当然と言えばカヒラについているメイドや侍従も皆、ゴマフアザラシか横綱体型だ。


美醜逆転の世界なのか〜と、分かった時はかなり落ち込んだのだが……え~と?そんな物思いに耽っている私のことを、ずーーーっと公爵閣下が見てくるんだけど?


そんなに絶世の不細工が気になりますか?

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