第50話 アルゲアス王国の王都クインペーラ
アルゲアス王国の王都を目指して、俺たちバルバルは出発した。
ロングシップを二隻増産したので、三隻で艦隊を組む。
交易都市リヴォニアから、ダルバ川を遡上する。
ダルバ川は南へ向かっているので、俺たちは北の海からダルバ川を使って内陸部を南下しているのだ。
ダルバ川は、川幅が十キロはありそうな大河だ。
バルバルの近くにはないスケールの川で、多数の船が行き来している。
水運が発達した地域だ。
俺たちは海から吹く風を帆に受けて、ダルバ川を悠々と南へさかのぼった。
海のような大きな揺れがなく、快適な船旅だ。
暇になった大トカゲ族のロッソがからんできた。
「よう、ガイア! アルゲアス王国と戦争するのか?」
「しないよ!」
「でも、兵士を連れてるだろ?」
今回の旅では、陸戦要員を多数乗り込ませた。
定員二十五人のうち、陸戦要員が二十人、残り五人が船乗りだ。
これからアルゲアス王国の王都に乗り込んで、アレックス王太子と面談する。
だが、俺は友好親善大使としてアルゲアス王国に行くのではない。
今後、ヴァッファンクロー帝国に対して共同戦線をしく同盟国の長として、俺はアルゲアス王国に行くのだ。
面談、交渉の前段階として、バルバルの武威を見せつけたい。
そこで、三隻計六十人のバルバル兵士を連れて来たのだ。
ロングシップは少ない人数でも操船が可能な船に仕上げたのが、今回功を奏した。
俺は大トカゲ族のロッソでも、わかるように説明をする。
「アルゲアス王国のアレックス王太子と友好を結ぶのさ! だが、こちらの力を見せつけなくちゃ、対等な関係にはなれないだろう?」
「違いねえな!」
アトス叔父上が、ニヤリと笑いながら話に入ってきた。
「おい! ガイア! 儲け話もしっかりと頼むぞ!」
「もちろんですよ!」
直近で俺がしたいのは、航路開拓と交易だ。
アルゲアス王国の王都へ至れば、大陸東部内陸の産物を、北の海を経由してバルバルまで運ぶ交易ルートが出来上がる。
北部海運では新参者のバルバルが、成功するチャンスだ!
――出発して二週間で、アルゲアス王国王都クインペーラに到着した。
アルゲアス王国王都クインペーラは、ダルバ川に面した平地に広がっていた。
川に近い平地部分に平民が住む町が広がり、川から少し離れた丘陵に王宮があった。
アルゲアス王国人は、彫りが深く、男性はヒゲが濃い。
髪の毛は、黒、茶、金髪が入り交じっている。
体は、それほど大きくなく、ヴァッファンクロー帝国人と同じくらいで、俺たちバルバルよりも小さい。
俺たちは王宮内にある客人向けの建物に宿泊することになった。
そして、アレックス王太子は、すぐ俺に会うという。
話は早いほうが良いので、俺はアレックス王太子の即日面会依頼を受けた。
俺は王宮にあるアレックス王太子の私室に招かれた。
この会談は、国王に会う前の事前交渉、地ならし会談なのだろう。
戦場で交錯して以来に会うアレックス王太子は、相変わらずのイケメンだ。
アレックス王太子は、アルゲアス王国語で俺に親しく語りかけた。
「やっと会えたな! ガイア殿!」
嬉しそうだ。
俺もニヤリと笑いながら、アルゲアス王国語で言葉を返す。
「そうだな。この前の戦では、コテンパンにされたからな。アレックス王太子殿」
「何を言うか! 貴殿らは、ヴァッファンクロー帝国のムノー皇太子を連れて脱出したではないか! 私が敷いた包囲陣を突き破ってな!」
どうやらアレックス王太子は、俺たちバルバルの戦いぶりを高く評価しているらしい。
俺は肩をすくめて、おどけて見せた。
「あと、一歩遅かったら死んでいたさ。まあ、戦に勝ったのは、あんたたちアルゲアス王国だよ。おめでとう」
「ハッハッハッ!」
アレックス王太子は破顔し、俺をバルコニーに設えたテーブルへ案内した。
「まあ、かけてくれ!」
俺は遠慮なく高そうな椅子に腰掛ける。
「ほう! 良い眺めだな!」
バルコニーからは、王都クインペーラの町が一望できた。
丘陵から平地にかけて、町が広がり、ダルバ川が見える。
この町の広さに、アルゲアス王国の国力を感じられる。
俺はアレックス王太子に視線を移す。
アレックス王太子は、ゆったりとした上質な服を身にまとっている。
ウール、羊毛かな?
俺は、まず交易の話から始めた。
「こうしてバルバルはアルゲアス王国の王都クインペーラまで達した。これを機に交易をしたいが、どうだろうか?」
「うむ! 望むところだ!」
「アレックス王太子が身にまとっている服は、ウール、羊毛で出来ているのか?」
「そうだ。我が国の東部は平原が広がっていて、羊飼いが多い」
羊毛は欲しいな。
冬場はバルバルのテリトリーも寒くなる。
これまでは、魔物の毛皮を羽織っていたが、ウールのセーターやズボンを中に着れば、かなり暖かく過ごせるだろう。
さらに、今後、冬の海で活動することを考えると、防寒着としてセーターが重宝する。
俺はアレックス王太子にウールが欲しいと申し出た。
「おお! 羊毛は、我が国の主要産物だ! 買ってくれるならありがたい。こちらは岩塩とブランデーが欲しい」
「よし! 決まりだな!」
岩塩が売れるのは嬉しい。
交易はWin-Winになりそうだ。
細かい条件は、実務者同士で詰めさせよう。
俺とアレックス王太子の前に、ワインの入った銀の杯がおかれた。
アレックス王太子が、ワインを掲げる。
「では、我ら益々の発展を願って!」
俺もワインを掲げ、エールを返す。
「両国の友好と発展を願って!」
「「乾杯!」」
俺は意識して『両国』と言い切った。
バルバルを『国』として扱えよと、アレックス王太子に念を押したのだ。
杯が空になると、アレックス王太子は人払いをした。
バルコニーには、俺とアレックス王太子の二人だけだ。
「さて、ガイア殿。表向きの話は終った」
「そうだな」
アレックス王太子が、声を潜めた。
「そろそろ、陰謀について語ろうではないか!」
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