第49話 招待状
アルゲアス王国の商人カラノスと商売の話は終った。
カラノスは話題を変え、俺たちの海での活動について話しだした。
「ところでガイア様たちバルバルの船が、交易都市リヴォニアに出入りしていると噂を聞きましたが?」
「ああ。夏の終わりに何度か商用で立ち寄った」
「驚きましたな! どうやったのですか?」
俺はカラノスにブルムント族の本村落から北東方向へ領地を広げ、海まで到達したことを告げた。
カラノスは心底驚いていた。
「本当のことだったのですね……。交易都市リヴォニアにバルバルの船が立ち寄ったと聞いた時は、耳を疑いましたよ。早く言って下さいよ! 便宜を図りますから」
カラノスは、丸められた羊皮紙を二巻取り出した。
「これは?」
「一通はアルゲアス王国のアレックス王太子直筆の身分証明書です。ガイア殿の身分をアレックス王太子が保障します。交易都市リヴォニアで取引する一助になればと」
交易都市リヴォニアの商人との取引は、上手くいっていない。
新参者には、厳しい土地柄のようだ。
だが、アレックス王太子の身分証明書があれば、大分事情が違ってくるだろう。
アレックス王太子が後ろ盾になるとの書類だからだ。
俺はうやうやしく、アレックス王太子直筆の身分証明書を受け取る。
「ありがたくもらっておく。感謝する!」
もう一つの羊皮紙を開いてみる。
アルゲアス王国語で書かれていて……、これはアルゲアス王国の公文書だ!
「もう一通は招待状です。アレックス王太子が、ぜひ王都に来て欲しいと」
「なに!?」
「バルバルの長として、おいでください」
俺は注意深くアレックス王太子からの招待状を読む。
そして、アトス叔父上にアレックス王太子からの招待状を見せ、文章を翻訳して聞かせた。
アトス叔父上は、首をひねった。
「我らは一度アルゲアス王国と戦っているが、これは罠か? 偽書ではないのか?」
「偽書ではありません。ここに王太子の印章が押されていますから、これは本物の公文書ですよ。罠なら公文書を送ってこないでしょう」
「なるほど。確かに! 罠ならわざわざ公文書など使わぬな」
問題は罠かどうかではない。
商人カラノスは、バルバルの長として訪問しろと言った。
それは、アルゲアス王国が、バルバルを一つの国、少なくともある程度まとまった集団として認める準備があるということだろう。
俺は商人カラノスに向き直った。
「カラノス。この招待状はアルゲアス王国の公文書だな?」
「左様でございます」
「王太子からの招待とのことだが、国王にも話は通っていると考えて良いのか?」
「はい。国王陛下もガイア様をお招きしたいと申しております。アレックス王太子が戦場でまみえているので、アレックス王太子がお招きするのが良いだろうとおっしゃったと聞いております」
アルゲアス王国の国王も承認済みか。
「つまり、前回戦ったことは、気にしていないと?」
「左様でございます。むしろアレックス王太子は、ガイア様たちバルバルの戦いぶりを見て、大いに感心されておりました。ガイア様たちは、思うところがございますか?」
「いや、ないな」
傭兵として仕事をしただけだ。
俺たちバルバルがアルゲアス王国に恨みを持つことはない。
「で、あれば招待をお受けいただけませんか?」
「バルバルの長としてか?」
「左様でございます」
「わかった。アルゲアス王国の王都へ行こう!」
ヴァッファンクロー帝国皇帝の健康が大いに損なわれ、医師は余命が一年程度だという。
時期を同じく、アルゲアス王国がバルバルの長として俺を招待した。
この事象はつながっている。
アルゲアス王国は、ヴァッファンクロー帝国内で後継者問題が起った際に、ヴァッファンクロー帝国を挟んで反対側にいる俺たちバルバルと連携したいのだ。
先を見越して準備しておくのは賢明だ。
「王都までのルートは?」
「交易都市リヴォニアから、ダルバ川を遡上して下さい。ダルバ川は大河ですので、船の航行が可能です」
俺たちの船、ロングシップなら喫水が浅いので川での運用も可能だ。
問題はない。
「いつごろお越しいただけますか?」
「すぐに出る!」
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