第34話 斬首作戦
「敵は三百だと!?」
「味方は五十ぽっちかよ!」
「それも城の中にいるんだろ? 俺たち百で三百を相手するのかよ!」
「やめだ! やめだ! 帰ろうぜ!」
いきなりこれである。
バルバル傭兵軍が休憩している場所に戻って、偵察結果を報告すると、ネガティブな意見が返ってきた。
バルバル傭兵軍は精強だが、ムラっ気が強い。
勝てると思えば強気になるが、勝ち目が薄いと途端にやる気をなくす。
さてと……手綱を握りますか!
俺はネガティブな意見を無視して、結論から述べた。
「今回は斬首作戦で行こう!」
「「「「「斬首作戦?」」」」」
俺の言葉に、みんなが興味を持った。
俺は、一気にたたみかける。
「そうだ。狙いはバートレットの首だ。この戦いはノルマン子爵家の相続争い。だから、一方のバートレットを亡き者にすれば……」
アトス叔父上がハッとして顔を上げた。
「そうか! リオン殿が跡継ぎに確定する!」
「そうです、アトス叔父上。敵を全て倒す必要はありません。バートレット一人を倒せば、勝敗は決します!」
「「「「「ああっ!」」」」」
場の雰囲気がガラリと変わった。
先ほどまでネガティブな意見を述べていた族長たちも、やる気になっている。
「なるほど……! バートレットって野郎を殺れば良いのか!」
「隙を突けば、イケるんじゃないか?」
「つまり、三百対百じゃなくて、一対百ってことだ!」
うーん、惜しい!
最後の頭の悪い発言は大トカゲ族のロッソだ。
微妙に間違っているが、勢いのある意見なので採用!
「そうだ! 究極の話、一対百だ!」
「「「「「おお~!」」」」」
士気がグンと上がった。
ああ、みんながバカで良かった。
「今夜、夜襲をかけるぞ! 今のうちに、何か腹に入れて寝ておけ! 火は使うなよ! 敵に気が付かれる!」
「「「「「おお!」」」」」
*
夜になった。
俺たちバルバル傭兵軍は、無言で起き上がると戦場へ向けて静かに移動を始めた。
ありがたいことに、今夜は新月で暗い。
夜襲には、おあつらえ向きだ。
星明かりを頼りに進む。
バルバルは夜目が利く者が多いので、星明かりがあれば行動するのに十分だ。
戦場が近くなった。
ハンドサインを送るとバルバル傭兵軍が二手に分かれた。
一隊はアトス叔父上が率いる陽動部隊だ。
エルフ族を中心に二十人。
昼間偵察した丘から、魔法で遠隔攻撃をかける。
そして、俺が率いる本隊八十人が切り込み部隊だ。
敵本陣五十に奇襲をかける。
昼間はバルバル傭兵軍を煽り立てたが、数的な不利は明らかだ。
だから、今夜が勝負だ!
混乱に乗じて敵バートレットを討つ!
俺たち本隊八十が、敵本陣五十の南側に布陣した。
ちょっとした丘になっていて、敵の本陣からは丘がブラインドになり、敵から俺たちの姿は見えない。
息を殺し、時を待つ。
スキル『スマッホ』で、敵味方の配置を確認すると、アトス叔父上が率いる味方の別働隊二十も位置についた。
よし!
始めるぞ!
俺は隣にいるエルフ族のジェシカに、合図の火矢を放つように命令する。
「火矢を放て!」
ジェシカはすぐに弓を引き絞り、火矢を放った。
火矢が夜空に向かって、真っ直ぐに登っていく。
すぐに別働隊から魔法攻撃が始まった。
ドン!
ドン!
鈍い爆発音が続けざまに響き、静かだった敵の陣地は、蜂の巣をつついたように大騒ぎだ。
後ろからバルバル傭兵軍の兵士たちのヒソヒソ声が聞こえる。
「始まったぞ!」
「まだだ! 合図を待て!」
「突撃準備だ! 剣を抜け!」
小声だが気合いが入っている。
剽悍なバルバル傭兵軍にとって、夜襲はパーティータイム同然だ。
振り向いて様子を見ると、暗闇の中で男たちがむき出した白い歯が光って見えた。
もうすぐだ……。
俺の横につく案内人に念押ししておこう。
俺は言葉をリング王国語に切り替えて、案内人に再度段取りを説明する。
「今回の目的は、バートレットの首だ。他は目もくれずバートレットだけを狙う」
「ああ、了解している。バートレットを倒せば、この混乱も終る」
「バートレットを倒したら、すぐ大声で周りに伝える」
「バートレットは死んだと叫ぶのだろう?」
「そうだ。リング王国語を話せるのは、俺とアンタだけだ。そして、バートレットの顔を知っているのは、アンタだけだ。アンタは戦闘には加わらずバートレットを探すのと、大声で触れ回ることに専念してくれ。いいな?」
俺は強い口調で念を押す。
バートレットを倒して、敵陣営に周知する。
バートレットの死を敵に周知することで、敵の撤退を促す。
「正面から戦うばかりが、能ではないな……」
案内人は、苦い物をのみ込んだ顔をした。
恐らく正面から戦って雌雄を決したいのだろう。
堂々と正面決戦でバートレットを打ち破れば、リオン殿の爵位継承にケチをつける人間はいなくなる。
まあ、気持ちはわかる。
わかるが……、今回は俺に従ってもらう。
「大事なのはリオン殿の命! そして、爵位を継承すること! そうだろう? 今回はバルバル流の戦いでやる。俺に従ってくれ」
「了解した! 貴殿の言う通りだ。今は、形よりも実に重きを置くべきだ。貴殿の下知に従う」
「よし……構えろ!」
案内人も腰のサーベルを抜いて突撃に備える。
スキル『スマッホ』の画面上で動きがあった。
多くの敵部隊が画面の左方向、別働隊へ向けて動き出したのだ。
敵は、暗い夜の中、突然魔法攻撃を受けた。
攻撃してきた部隊の規模はわからない上に、夜襲を受けてパニック状態だ。
敵各部隊の指揮官は、攻撃を受けた方向へ部隊を動かした……といったところだろう。
だが、敵本陣五十は動いていない。
そして俺たちは、画面の下方向に布陣している。
振り向くと、ムラとした剣気が、バルバル傭兵軍から立ち上っていた。
仲間の気合いが、ピークに達している証拠だ。
よし! 行こう!
敵の腹にケリを入れてやる!
俺は右手に持った剣を振り降ろした。
「突撃!」
「「「「「ウオー!」」」」」
俺たちは、敵本陣に向けて突撃を敢行した。
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