第33話 現着! ノルマン子爵領

 ――一月中旬。


 俺たちは年末年始も歩き続け、ようやくノルマン子爵領に到着した。

 俺のスキル『スマッホ』の情報画面によると、もう、戦いは始まっているようだ。


 バルバル傭兵軍を離れた場所に待機させて、俺、大トカゲ族のロッソ、エルフ族のジェシカ、案内人を連れて偵察に出る。


 案内人は、ノルマン子爵の嫡男リオン殿から派遣された男だ。

 この辺りの地理に詳しい。


 案内人と相談しながら、慎重進む。

 いくつかの丘や林を越えて、戦場が近くなってきた。


 俺はスキル『スマッホ』の画面を見ながら、辺りの地形を確認する。

 ちょっと先にある丘を抜けると戦場だ。


 おあつらえ向きなことに、丘には木が沢山茂っている。

 俺は案内人に聞いてみる。


「あの丘から偵察しようと思う。どうだ?」


「良いですね。あの丘なら茂みに隠れやすいし、見つかっても逃げやすいです」


「よし! 行こう! 静かにな!」


「「「おう!」」」


 四人で慎重に丘を進む。

 丘に人がいないのは、スキル『スマッホ』の画面で確認済みだが、近くの敵に察知されないように気をつける。


 大柄な大トカゲ族のロッソだが、隠密行動は得意だ。

 トカゲのように地面を静かに這って進む。


 エルフ族のジェシカも森の中で行動するのは得意だ。

 エルフ族は森の中に住んでいて、木の上に家を建てている。

 スルスルと音を立てずに木に登る。


 俺と案内人の方が、ガサガサと木をかき分けて目立ってしまう。


 それでも何とか、丘の頂に登ることに成功した。


「ありゃ? 城が包囲されちまってるぜ! 遅かったかな?」


 大トカゲ族のロッソが、ヒソヒソ声を出す。

 俺も木々の間から、そっとのぞき見る。


 すると平地のただ中にポツンと小ぶりな城があり、その周りは軍に包囲されている。

 ロッソの言う通り、遅かったか?


「いえ……。リオン様はご健在です! 旗が見えます! 青地に金色獅子の旗は、お世継ぎリオン様の旗です!」


 城の上に旗がなびいている。

 だが、遠くて俺には判別できない。


「ジェシカ! 旗はどうだ?」


「その人の言う通りね。青地に金色獅子の旗が、尖塔になびいている。あと、青地と赤地半々で、金色獅子が二頭いる旗も見えるわ」


「それがノルマン子爵家の旗です!」


 俺は裏を取るためにスキル『スマッホ』の画面を操作した。


 拡大すると……いた!


『リオン・ノルマン 子爵家嫡男 普通の能力』


 よかった!

 リオン君は、まだ、生きている。

 それに普通の能力らしい。

 味方が無能だと本当に辛いからな。


 敵方の人物も確認すると、気になる人物が二人出てきた。


『バートレット・ノルマン 子爵の弟 やや無能』


『ヤーナ伯爵 伯爵家当主 無能』


 やや無能と無能だ。


 続いて、兵力をチェックする。


 リオン君側   歩兵五十

 バートレット側 歩兵三百


 バートレット側は、北、東、西の城壁前に五十人を配置し、南の門側に百人を配置している。

 残り五十人は、城から離れた位置に布陣している。

 バートレットとヤーナ伯爵がいるから、離れた位置にいる五十が本陣だ。


 うーむ……。

 籠城しているとはいっても、リオン君側が不利だ。


 敵の指揮官が、『やや無能』と『無能』なのは救いだが、この世界の偉い人は無能になる呪いでも受けているのかね?


 スキル『スマッホ』の画面と、実際の位置を比較するために、視線は手元と正面を行ったり来たりしている。


 忙しく視線を動かしていると、あることに気が付いた。


(これ……ノルマン子爵は生きているよな?)


 画面を拡大すると、ノルマン子爵の情報が出てきた。


『ノルマン子爵 子爵家当主 普通の能力』


 俺はてっきりノルマン子爵が亡くなって、リオン君と叔父のバートレットが争いだしたのだと思った。


 だが、ノルマン子爵が生きているとなれば話は別だ。


 俺の隣の案内人に、リング王国語で尋ねる。


「なあ。この状況って、どうなんだ? ノルマン子爵は、どうなった?」


「ご当主様は、お亡くなりになったのでしょう……。それで、バートレットが兵を率いて城を包囲したに違いありません!」


 案内人は、ノルマン子爵が亡くなったと思い込んでいるようだ。

 だが、俺のスキル『スマッホ』の情報では、ノルマン子爵は生きている。


 どうやって伝えよう?

 俺は必死に頭を回転させて、前世日本で偉い人が亡くなった時のことを思い出した。


「本当にそうか? ノルマン子爵が亡くなったなら城の様子が違うのではないか? 例えば、半旗を掲げるとか、黒い布を垂らすとか……」


 案内人は、ハッとして顔を上げた。

 そして、城の方をジッと見ている。

 どうやら伝わったらしい。


「そうですね……。ご当主がお亡くなりになったのなら、半旗を掲げるはずです! しかし、城にはいつも通りに旗がひるがえっています! ご当主は、まだ、無事です!」


 そこまで、分かれば十分だ。

 敵の陣形も分かったし、地形も目にした。


「一旦戻るぞ……」


 俺たちは音を立てず静かに丘から立ち去った。


 当主のノルマン子爵は、まだ生きている。

 そして、雇い主のリオン君も生存。


 城は囲まれていて、味方の旗色は悪い。


 さて……。

 どう逆転するかな?

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