第24話 礼金の取り立て? いいえ、ご挨拶に伺いました!ました!

 ――一月後、帝都。


 俺たちバルバル傭兵軍は、無事戦地から脱出を果たし、ムノー皇太子たちをヴァッファンクロー帝国の帝都へ送り届けた。


 ムノー皇太子を助けたことで、皇帝への謁見が許された。

 だが、敗戦処理が色々と忙しいらしく順番待ちになっている。


 そこで、俺とアトス叔父上は、助けたボンボンたちの貴族家を回り、礼金を取り立てて……。


 ゴホン! ゴホン! 挨拶回りをしているのだ!


「――という、苦しい戦況ではございましたが、なんとか御家のご子息を連れ脱出を果たしたのです!」


「いやいや、まことにありがたい。当家の当主から、十分な礼をするようにと申しつかっております」


「それは行き届いたことで! お心遣いありがたく!」


 俺は、アトス叔父上と貴族家当主の『弟さん』の会話を、笑顔を作って聞いていた。


 貴族家を訪問する度に聞かされる話とやり取りだが、この後に金が出てくるのだ。

 俺の笑顔は本物だぞ。


 当主の弟さんが手を叩くと、革袋を持った召使いが部屋の奥から現れた。


「どうぞお納めください」


「「ありがとうございます!」」


 俺とアトス叔父上は、ありがたく礼金を受け取り、貴族家を後にした。


 貴族家の外では、護衛として同行してきた大トカゲ族のロッソとエルフ族の美少女ジェシカが待っていた。


「おう! どうだった?」

「儲かった?」


「ほれ!」


 俺は、金貨の詰まった革袋をロッソとジェシカに持たせた。

 ズシリとした重みが二人の腕にのしかかる。


「「おお~!」」


 四人で帝都の町を歩く。

 次の集金先……。

 ゲフン! ゲフン! ご挨拶先に向かうのだ。


 次の貴族家では、当主の叔父が出てきた。


「艱難辛苦を乗り越えて、御家のご子息を守りながら撤退戦を戦い抜き――」


「いやいや、ご苦労をおかけいたしました。これは礼です」


「「ありがとうございます!」」


 次の集金先でも金貨の詰まった革袋を受け取った。

 前の貴族家の時と同じように、屋敷の外に出て、ロッソとジェシカに金貨の詰まった革袋を渡す。


「アトス叔父上。出てくるのは当主の兄弟とか、当主の叔父とか、二番手、三番手の人物ですね」


「うむ。そうだな」


「我々バルバルは、一段低く見られているのでしょうか?」


「たぶん、そうだろう」


 アトス叔父上は感情を押し殺した顔で、俺の質問に答えた。


 彼ら貴族家にとって、俺たちバルバル傭兵軍は、息子や甥の命の恩人に当たる。

 だが、貴族家の当主に応対されたことがない。


 貴族家でも二番手か三番手くらいのポジションなのかなあ……と思える人物が出てきて、貼付いた笑顔で、あまり温かみのない対応をするのだ。


「せっかくトーガを買ったのに!」


「ガイア、似合ってない。ダサイ!」


 トーガというのは、ヴァッファンクロー帝国の衣装で、布を体に巻き付ける服だ。

 このトーガは身分によってデザインが違う。


 身分が高い人物のトーガは、布に色つきのラインが入ったり、金の装飾品を付けたりする。


 俺とアトス叔父上は、下級貴族の一ランク下のトーガを身につけている。

 裕福な商人や平民の中でも知的階級が着ているトーガだ。


 一応、ヴァッファンクロー帝国の習俗に合わせたのだが、それほど好感度アップはしなかったかようだ。


 そもそも俺たちバルバルは、ヴァッファンクロー帝国の人たちに辺境の蛮族として認識されている。

 この認識を改めさせることは、難しいのか……。


「まあ、お金がもらえれば良いけどね。もうちょっと感謝の気持ちとかないのかな……」


 敵アルゲアス王国軍の包囲網から逃げ延びたのは、全軍の三割ほどだったらしい。

 残りは死んだか、捕虜になったかだ。


 だから、俺たちバルバル傭兵軍が、ムノー皇太子と本営にいた将官――つまり有力貴族家からムノー皇太子に付けられた子弟――を守ったのは、相当な功績だ。


 だが、ムノー皇太子は――。


『道中無礼だった!』とか。


『食事が悪かった!』とか。


 色々と文句を言っているらしい。


 あげくに……。


『野蛮人どもに助けてもらってない! たまたま転進した方角が、同じだっただけだ!』


 ――と、皇帝の前で強弁したとか。


 いや、もう、好きにやってくれよ。

 アトス叔父上が、帝国の有力者に袖の下と一緒に報告をあげているので、俺たちバルバル傭兵軍の功績は覆らないけどね。


 アトス叔父上が、愚痴をこぼす。


「やはり支配する側と支配される側の関係なのだ。我々は食料を分け、殿を務め、献身したと思うが……。形だけの感謝に、金か……」


 アトス叔父上が愚痴りたくなる気持ちもわかる。

 苦楽をともにすれば友情が芽生える――なんてことは、ないのだ。


 アトス叔父上の愚痴に、ロッソとジェシカが反応した。


「アトスさんよ。金は大事だぞ! 俺たちゃ、その為に戦ったんだ!」


「そうだ! お金をもらって仲間を買い戻す!」


「ああ。そうだな! 仲間が戻ると思えば、悪くない」


 仲間の話が出て、アトス叔父上の表情が明るくなった。


 俺は、稼いだ金の半分を『仲間の買い戻し費用』にあてることにしたのだ。


 バルバルの諸部族で、奴隷にされてしまった者がかなりいる。

 彼らの買い戻しを、帝都の奴隷商人に仲介してもらうのだ。


 ――仲間を故郷に戻す。


 新たに族長となった俺が行う、これまでにやっことのない事業だ。


「じゃあ、行こうか!」


「「「おう!」」」


 俺たちは、奴隷商人の店へ向かった。

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