第22話 さあ! 急げ! 森へ逃げ込め!

「森だ!」

「森へ逃げ込め!」

「行け! 行け!」


 包囲を脱出したバルバル傭兵軍兵士が、次々と森に駆け込む。


「ちょっと! この方角で良いのですか!? ピュロスへの街道は西です!」


 ヴァッファンクロー帝国軍の将官ポンコッツが、俺の側に馬を掛け寄せてきた。

 俺はロバのドンキーが牽く荷台の上で指揮を執りながらポンコッツの相手をする。


「これで良い! 森なら敵の追撃も鈍る! 街道に出て騎馬をけしかけられたら、逃げる間もなく全滅だぞ!」


「しかし――」


「それに西を見ろ! 包囲が分厚い! 敵が多い!」


 ヴァッファンクロー帝国軍の兵士が包囲の西側に殺到しているが、街道へ続く西側は包囲が厚く苦戦している。


 包囲を抜けられたとしても、多数の敵に追撃を喰らうだろう。


「確かに……! 敵が多いですね!」


「俺たちは北西の森に入って、追っ手をかわす。森を抜けてピュロス方面へ向かう」


 俺は北西の森を指さした。

 バルバル傭兵軍の野営地から近く、逃げ込むにはもってこいだ。


「大丈夫なのですか?」


「大丈夫だ! あの森に魔物はいない。それに森は、俺たちバルバルにとって庭同然だ!」


「わかりました! お任せします!」


 大トカゲ族のロッソやエルフ族の美少女ジェシカと事前に調査して、森の安全は確認してある。

 それにスキル【スマッホ!】のマップ画面を見ていれば、方角を見失うことはない。


「急げ! こっちだ!」


 敵アルゲアス王国軍の包囲から、次々と兵士が抜けてくる。


 バルバル傭兵軍は全員抜けた。

 ヴァッファンクロー帝国軍本営の将官や護衛の兵士たちも次々と包囲を抜けてくる。


 最後の一人が抜けたところで、敵が追撃に移ってきた。


「待って! 待ってくれ! 俺も連れて行ってくれ!」


 味方は、まだ、全て森に入っていない。

 ヴァッファンクロー帝国軍の兵士が、必死で俺たちを追ってきている。


 見捨てるわけにもいかない!


「時間を稼ぐぞ! ロッソ! 何人か連れてこい!」


「わーった! ほりゃ! 大将のお声掛かりだ! 野郎どもついてこい!」


「「「「「おう!」」」」」


 ロッソが五人連れて来てくれた。

 俺を先頭にして、敵アルゲアス王国軍の追っ手に突撃を敢行する。


「どりゃー!」

「うりゃあ!!」


 追ってきた敵歩兵が、味方の槍に突かれ、盾に弾き飛ばされた。


「気をつけろ! 殿は強いぞ!」


 馬に乗った敵の将官が、塩辛声で敵兵士に注意を促す。

 敵の足が止まった!


「退け! 退け!」


 俺は、すかさず指示を出した。


 逃げ遅れていた帝国軍兵士に肩を貸して、引きずるように退却する。


「す、すまない!」


「気にすんな! 森だ! 森へ行け!」


「わ、わかった!」


 気が動転しているのだろう。

 兵士は足をもつれさせながら、森へ向かって走って行った。


「ガイア! そろそろやるぞ!」


「おう!」


 大トカゲ族のロッソから声がかかる。

 振り向き敵の追撃部隊と相対し、一合二合と剣を合わせ時間を稼ぐ。


 まだか?

 まだ、全員森へ入っていないのか?


「オイ……ガイア……何かモメてるぞ……」


「えっ!?」


 森の入り口で味方のヴァッファンクロー帝国軍が渋滞を起こしている。

 何があった!?


「ガイア! ここは任せろ! 適当に時間を稼いで後退する! 行ってこい!」


「ロッソ! 頼んだ!」


 殿をロッソたちに任せて、森の入り口に走る。

 ヴァッファンクロー帝国軍の軍馬が密集しているのはわかるが、一体どうした?


 言葉をヴァッファンクロー帝国語に切り替えて、大声で話しかけた。


「一体どうした? 早く森の中に入れ! 森に入れば、敵の追撃がゆるむ! 急いでくれ!」


「バルバルの! 馬が入れないではないか!」


 返事をしたのは、ムノー皇太子だ。

 どうやら馬で森へ乗り入れようとしたのだけれど、枝や木の根が邪魔で馬を進められないらしい。


「馬を下りて! 走って!」


「なっ……! 私はヴァッファンクロー帝国の皇太子ムノーだぞ!」


 ムノー皇太子は、身分として馬に乗っていないとダメだと考えているようだ。

 だが、今は戦時で、敵の追撃をうけている。


「後ろを見て下さい! 敵が追撃してきています! 馬から下りて走って下さい!」


「高貴な人間が自らの足で歩くなど――」


「死にたいのか! さっさと下りて歩け!」


 問答無用だ! 時間がない!


 俺はムノー皇太子の腰帯をつかんで、力任せに馬から引きずり下ろした。

 そのままムノー皇太子を脇に抱えて、引きずりながら森へと突き進む。


「無礼者! 離せ!」


「命がかかっているのに、無礼もクソもあるか!」


「貴様! 覚えていろ!」


「生きていたらな!」


 俺がムノー皇太子を無理矢理下馬させたことで、ヴァッファンクロー帝国軍の将官たちも下馬して森へ入り出した。


 殿のロッソたちに大声で指示を出す。


「ロッソ! 退け!」


「おう!」


「離せ! 離せ!」


 ムノー皇太子がうるさい!


 だが、俺たちは、森に逃げ込むことが出来た。

 森を走り抜けピュロスへ向かおう。

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