第21話 包囲を抜けろ!

「アトス叔父上! 走ります!」


「うむ!」


 俺とアトス叔父上は、ヴァッファンクロー帝国軍の本営を飛び出すと、バルバル傭兵軍の野営地へ全力疾走した。


 スキル【スマッホ!】の画面を見ると、既に敵アルゲアス王国軍の包囲は完成している。

 一刻も早く包囲を破って脱出しなければ、ここで全員戦死だ。


 バルバル傭兵軍の野営地に入ると、激戦になっていた。

 俺は大声で指示を飛ばす。


「怪我人を中央に集めろ! ロバの荷車に乗せるんだ!」


「ガイア! 遅いぞ!」


「悪いなロッソ! もうちょっと待て!」


「早くしやがれ! もたねえぞ!」


 最前線で盾を構える大トカゲ族のロッソが、俺を急かす。


(来るなら早く来い! バカ皇太子!)


 俺は怪我人の手当をしながら、心の中で悪態をついた。

 あの小太り皇太子と仲良く心中する気は、サラサラないのだ。

 最悪、置いて行く。


「ガイアよ! 帝国軍が動き出したぞ!」


「おおっ!」


 アトス叔父上が指さす方を見ると、帝国軍が西へ向けて動き出した。

 ピュロス方面へ続く西の街道を目指して、兵士が殺到している。

 無秩序だが、このまま包囲されて、うち減らされるよりはマシだ。


「オイ! 貴様! バルバルの!」


 振り向くとムノー皇太子が、本営の連中と馬に乗ってやって来た。

 後ろに女を乗せてやがる!


 まあ、女たちを見捨てる訳にはいかないか……。


 俺は言葉をヴァッファンクロー帝国語に切り替えて、ムノー皇太子に一礼した。


「皇太子殿下。お待ちしておりました。それでは、脱出します!」


「本当に大丈夫なのだろうな?」


「ええ! お任せを!」


 ムノー皇太子は真っ青な顔をしている。

 俺はニヤリと笑って、胸を叩いて見せた。


 俺の横でアトス叔父上が、こっそり悪そうな顔で笑う。

 たぶん、皇太子を脱出させて帝国から礼金をせしめることでも考えているのだろう。


「バルバル傭兵軍! 脱出だ!」


「「「「「オウ!」」」」」


「エラニエフ! 魔法だ!」


「承知した!」


 エルフ族の族長エラニエフが俺の命令に応える。

 エルフの火魔法が、包囲しているアルゲアス王国軍に着弾した。


 爆発音と光が辺りを包み、吹き飛ばされたアルゲアス王国軍の兵士が宙を舞う。


 包囲の一部に穴が空いた。

 敵の包囲は即席だ。決して厚くない。

 これで抜けられる!


「ロッソ! 行け!」


「オウよ!」


 大トカゲ族のロッソが、先頭を切る。

 穴の空いた包囲網をふさごうと動き出した兵士を、ロッソは盾で吹き飛ばした。

 バルバル傭兵軍の兵士たちが、ロッソに続く。


「ロッソに続け!」

「遅れるな!」

「敵を倒さなくていい! とにかく抜けろ!」


 俺はロバのドンキーが牽く荷車の上に立ち、周りを見る。


 敵アルゲアス王国軍の動きが速い。

 敵の本営らしき場所で、指示が飛び交い、一軍がこちらへ移動している。


 俺は後ろを振り向き、ムノー皇太子一行にヴァッファンクロー帝国語で呼びかけた。


「ついてこい! 遅れるな! 急げよ!」


 俺も周囲のバルバル傭兵軍の兵士たちとともに、荷車ごと敵へ突っ込む。

 ロバのドンキーも必死に走るので、ガタガタと荷馬車が揺れる。


 アルゲアス王国軍の立派な金属鎧を着た男と目が合った。


(アレックス王太子か!)


 アレックス王太子は、黒髪を後ろになでつけた彫りの深いイケメンだった。

 武人らしく体格も良い。

 あれで超優秀とか反則だな。


 俺はアレックス王太子に、アルゲアス王国語で吠えた。


「俺がブルムント族族長のガイアだ! 俺たちがバルバル傭兵軍だ! 忘れるな!」


 右拳を突き出し、アレックス王太子に強烈な視線を送る。

 アレックス王太子も俺に気が付いたらしく、同じように拳をこちらへ向けた。


 お互いにニヤリと笑い、視線を交差させたまますれ違う。


「抜けたぞ!」

「突破した!」


 周りの兵が騒ぐ。

 俺は視線を前に戻して、次の命令を出す。


「そのまま、真っ直ぐ! 北西の森へ向かえ!」

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