第19話 超はダメだ! 超は!

 ――翌日。


「来た!」


 スキル【スマッホ!】の画面には、敵アルゲアス王国の援軍が表示された。

 味方のヴァッファンクロー帝国軍が包囲しているコロン城の北側だ。


 最初は小さな赤い光点に過ぎなかったが、すぐに赤い光点が増えた。

 俺はバルバル傭兵軍に指示を出す。


「戦闘配置! 防御陣形だ!」


「ガイア! どうした!?」


 アトス叔父上が飛んできた。


「敵の援軍です!」


「何?」


「北側から来ています!」


「オイ! 見張り! 北側に何か見えないか!」


 アトス叔父上が、見張りの兵士に大声で怒鳴る。

 見張りの兵士は、北側に視線を移すと目を細めて遠くを見た。


「うわ! 来た! 敵だ! 敵の援軍だ! 数が多いぞ!」


 見張りの叫び声に、ガラリと空気が変わった。

 アトス叔父上が、バルバル傭兵軍の兵士たちに声を掛けて回る。


「落ち着け! まだ、距離がある! 準備する時間はある!」


 俺も自部族のブルムント族に声を掛けて回る。


「装備を身につけろ! 万一に備えて、脱出できるようにしろ! ロバは中央に固めろ!」


 ロバは三頭いて、荷車には干し肉などの保存食と水瓶を積んである。

 いつでも脱出可能だが、迎え撃つのか、撤退するのか、雇い主の判断が必要だ。


 バルバル傭兵軍は、既に動き始めているが、ヴァッファンクロー帝国軍の動きは鈍い。

 まだ、気が付いていないのか?


 俺は、スキル【スマッホ!】の画面に目を落とす。

 すると南側からも多数の赤い点が迫ってきている。


(えっ!? 南に回り込まれた!? どうやって……船か!)


 マップを拡大してみると、援軍はかなりの大軍だった。



 ・北からの援軍:一万五千

 ・南からの援軍:五千



 さらにコロン城にこもっている敵が五千いるので、合計すると敵兵力は二万五千……。

 味方のヴァッファンクロー帝国軍は、二万だ。


 数の優位が覆ってしまった。


(指揮官は、どうだろう?)


 北側から迫る一万五千が敵援軍の本隊だろう。

 俺はマップを拡大して、北に敵軍から指揮官を探す。


(いた! こいつか!)


 敵の指揮官を見つけた。

 こいつはヤバイ……。



【アレックス 王太子 超優秀・超強い】



(超はダメだろう! 超は!)


 これはダメだ……。

 ヴァッファンクロー帝国軍の将官は無能揃い。


 兵数で負け、指揮官の質で負けている。

 すぐに撤退した方が良い。


 幸いなことに、西側に敵はいない。

 西は街道があり、占領地であるピュロスへ続いている。

 ピュロスまで撤退すれば、近くの港からヴァッファンクロー帝国本国へ帰ることが出来る。


 俺は近くにいたヴァッファンクロー帝国語が話せるバルバル族の兵士に伝令を頼んだ。

 敵の兵数と西側に撤退する意見具申を伝えるように申しつけた。


 事前に打ち合わせていたので、バルバル傭兵軍は着々と準備を整える。


 最前列を任せた大トカゲ族は盾を並べて敵の攻撃に備え、エルフ族もロバ三頭と一緒に陣の中央に控えた。


 だが、ヴァッファンクロー帝国軍本営からの指示が来ない。

 先ほどの伝令はとっくに戻ってきたのだが……。


 他のヴァッファンクロー帝国軍も右往左往するばかりだ。


 迎撃か?

 撤退か?

 さっさと決めて陣形を組み替えなければならないのに!


「オーイ! ガイア! どうなってる?」


 防御陣の前列で、大トカゲ族のロッソが俺を呼んでいる。

 ロッソの元に走り寄ると、大トカゲ族が大きな木製の盾を並べ敵に備えていた。


「ガイア! どうすんだ? やるのか? ずらかるのか?」


「本営からの指示がないんだ……」


「マジかよ! アレを見ろ!」


 ロッソが指さす先を見ると、敵アルゲアス王国軍がヴァッファンクロー帝国軍を包囲し始めていた。


 このまま行くと、西側も塞がれてしまう。


「突撃せよ!」


 物騒な言葉が、アルゲアス王国語で放たれた。

 戦場に敵アルゲアス王国兵士の雄叫びが響き渡る。


 一方で、味方ヴァッファンクロー帝国軍からは、悲鳴、動揺、恐怖の叫びばかりが聞こえる。


「ロッソ! ここを頼む! 本営に掛け合ってくる!」


「早くしろよ!」


 俺は最前線をロッソに任せて、本営へ走った。

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