第18話 近日襲来!

 その夜、バルバル傭兵軍に参加している各部族の族長を集めて、情報共有を行った。

 俺が一通り説明を終えると族長たちは好き勝手に話し始めた。


「ヴァッファンクロー帝国軍の連中はふざけてやがるな!」

「酒と女だあ? こっちにも回せってんだよ!」

「それより城攻めの方だろう?」

「そうか……海から船で補給が出来るのか……」

「なあ、敵さんの本国から援軍が来たらどうなる?」

「そりゃ、ヤバイだろう!」


 俺は族長たちの活発な議論を聞きながら、アトス叔父上に昼間の城攻めについて質問した。


「アトス叔父上。城攻めは、どうでしたか?」


「ああ、怪我人は出たが軽傷だ」


「帝国軍は?」


「やる気ないな。帝国軍兵士たちも怪我をしないように手を抜いている」


「じゃあ、コロン城は落ちないね……」


「ああ、無理だ……」


 嫌な予想が現実になりそうで、俺とアトス叔父上の間に重い空気が漂った。


「ガイア。少し良いか?」


 エルフ族族長のエラニエフが、エルフ語で話しかけてきた。


「ジェシカからも状況は聞いた。不味そうだな……。撤退するか?」


「いや、俺たちは傭兵で、ヴァッファンクロー帝国軍に雇われている。勝手に撤退するのは、契約違反だ」


「それはそうだが……」


 傭兵としての契約があるのが難しいところだ。

 単なる援軍なら、ある程度自分たちの判断で行動が出来る。

 だが、雇い主の許可なく戦線離脱は許されない。


「エラニエフ。俺は明日から、いざという時の脱出ルートを探す」


「うむ。では、我らエルフ族も、その時に備えよう」


「ああ。城攻めでは魔法を使わず、矢も節約しておいてくれ。万一逃げ出す時に使うんだ!」


「心得た!」


 前の戦いで成果が出たこともあって、エラニエフやエルフ族たちは、俺を信頼してくれている。

 俺がエルフ語を話せるのも大きいのだろう。


 バルバル傭兵軍の中で瞬間火力が一番あるエルフ族が、指示に従ってくれるのは助かる。


 他の族長たちの意見は、大トカゲ族のロッソが取りまとめてくれている。


「――それで、俺とガイアは帝国軍の本営に行って、義理は果たしてきた訳だ」


「うむ」

「それなら……」

「ちゃんと話をして聞き入れられなかったのなら、仕方あるまい……」


 ロッソは、体が大きく力が強い。

 見た目も強そうなので、族長たちの信頼が篤い。


 そしてロッソも俺の指揮や戦いぶりを見たこと、そして鉄製武器を集めるように教えたことで、俺に信頼を置いてくれている。

 話もしやすいし、すっかり仲良くなった。


 今回の戦は、こいつらを無事に故郷に帰すのが、俺の仕事だ。

 意見が出尽くしたので、俺が話をまとめた。


「いつ、どんな状況になっても対応出来るようにしてくれ! 見張りは交代で立てろ! よく食って、寝て、体力を温存しておいてくれ!」


「「「「「おう!」」」」」


 俺たちバルバル傭兵軍は、最悪の状況に備えることにした。



 *



 ――三日後。


「ご注文いただいたロバと荷車です」


 アルゲアス王国の商人カラノスが、俺とアトス叔父上に頭を下げた。

 カラノスは、ロバ二頭に荷車二台を持ってきてくれた。

 これでバルバル傭兵軍の輸送能力がアップされる。


 アトス叔父上が、銀の入った革袋を渡しながら鷹揚に答える。


「うむ。ご苦労である。新鮮な果物も旨かった。明日も持ってきてくれないか?」


「生憎と売る物が尽きてしまいましたので、私どもはこれから国へ帰ります」


「そうか、そうか。達者でな」


「はい。お心遣いまことにありがとうございます」


 ふうん……。

 カラノスは、ここから引き上げるのか……。

 商人に扮した軍人――スパイが、引き上げる……。


(いよいよか!)


 俺は、敵アルゲアス王国の反攻が始まることを察した。


『戦場で邪魔になるからスパイは引き上げる』


『もう、戦闘になるから、ここで情報を集める必要がないから引き上げる』


 ――そんなところだろう。


 俺は商人カラノスに近づき右手をさしだした。


「カラノス殿。良い取引が出来た」


 カラノスは、ニッコリと商人らしい笑顔を見せ、俺の手を握った。


「ガイア様。もったいないお言葉です。ありがとうございました」


「俺たちバルバルは、帝国の北部に住んでいる。この戦争が終ったら、ぜひ、訪ねてきてくれ」


「商人は、商機のある所でしたらどこでもお邪魔しますよ」


 カラノスは当たり障りのない言葉を返してきた。

 俺は、『訪ねて来い! 話がある!』と、意思を込めてカラノスの手を強く握り、笑顔を作る。


「うむ……。商売の話もあるが……。他にも色々と話したいこともある……」


「ほほう……」


 俺が意味ありげな言い方をすると、カラノスは一瞬だけ鋭い目つきをした。

 アルゲアス王国は、ヴァッファンクロー帝国と敵対している国だ。

 協力関係を築いておきたい。


 俺は、いつまでもヴァッファンクロー帝国の下に着いている気はないのだ。


 アルゲアス王国との窓口に、カラノスがなってくれれば……。

 そんな期待を持っているのだ。


「時期はお約束できませんが……、ガイア様の元にお邪魔いたしましょう」


「待ってる」


 これで良し。

 後は、敵アルゲアス王国の反攻に備えるだけだ。


 俺とアトス叔父上は、バルバル傭兵軍にいつでも出立できるよう、荷物をまとめておくように伝えた。

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