第14話 食うなよ! 絶対に食うなよ!

 エルフの美少女ジェシカとイチャコラしてから、バルバル傭兵軍のみんなが集まっている場所に戻った。


「ガイア。何かモメてるわよ!」


「ああ、何だろう?」


 殺気立つ……というほどではないが、皆が輪になって不満を口にしている。


 輪の中心にいるのは、アトス叔父上だ。

 雇い主のヴァッファンクロー帝国軍に報告をして戻ったのか。


 アトス叔父上が、ウンザリした口調でバルバル傭兵軍のみんなをなだめている。


「だから、仕方がないだろう……」


「いや、馬に乗りたかったぞ!」


「全員分の馬はなかった! 鹵獲した馬は、三頭だけだ!」


「旨そうな馬だったじゃないか! 食いたかったなあ~」


「馬は食べ物じゃない!」


 なんだ、なんだ?

 鹵獲した馬のことでモメているのか?


 俺は人の輪に割って入り、アトス叔父上に話しかけた。


「アトス叔父上! どうしたのですか?」


「おお! ガイア! 聞いてくれ!」


 アトス叔父上は、俺を見て味方を見つけたと思ったのだろう。

 堰を切るように事情を話し始めた。


 話題になっていたのは、俺たちが鹵獲した敵の馬だ。


 先ほどアトス叔父上は、戦功報告をしにヴァッファンクロー帝国軍の本営に赴いた。


 すると……。


『優秀な軍馬が欲しい。もちろん譲ってくれるよな?』


 ――と、ヴァッファンクロー帝国軍の偉いさんから、圧力がかかったそうだ。


「なるほど……。それは断りづらいですね。でも、タダで馬を引き渡した訳じゃないのでしょう?」


「もちろんだ! 銀貨二袋とロバに交換したぞ!」


「ロバ?」


「コイツだ!」


 アトス叔父上の指さす先にロバがいた。

 ロバには、小さな荷車がセットされている。


「なるほど……。それで、みんな文句を言ってるのですね……」


 俺は一通りの事情を聞き終えた。

 すると、また、周りの連中が騒ぎ始めた。


「やっぱり馬の方がイイぞ!」

「そうだ! そうだ!」

「ロバは旨そうじゃないな……」


「オイ! 食うなよ! 絶対食うなよ!」


 アトス叔父上は、ロバが食われないか心配している。

 ロバ……、食うんだ……。


 とにかく、事情はわかった。

 バルバル一同、馬が良かったと不満を述べているわけだ。


「俺は、悪くない取引だったと思う」


 先ほどから『馬が食べたかった』と騒いでいた大トカゲ族の族長ロッソが、俺の一言に噛みついた。


「ガイア! 何でだよ!」


「ロッソ。まあ、聞けよ。馬は大食いだぞ。エサを準備するのが大変だ」


「え? そのへんの草を食わせりゃ、イイんじゃないのか?」


 普通、そう思うよな。

 だが、そうでもない。


 俺は前世日本でウマっぽい女性キャラが活躍するゲームをやっていたから知っているのだ。


「それじゃダメだ。豆だとか、飼い葉だとか、良いエサを食べさせないと、馬は力が出ないらしい。エサ代で金が吹っ飛ぶぞ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 驚いているところを見ると、バルバルのみんなは、知らなかったな。

 馬は維持費が高いのだ。


「ロバは粗食に耐える。小さいけど力があるから、飼いやすいし、よく働くぞ」


 ロバは維持費が安いのだ。

 オマケに小回りがきくので、山岳地帯や森など険しい地形でも運用しやすい。


 昔から軍隊で利用されてきた。

 有名な所では、ナポレオンがアルプス越えにロバを運用したし、アフガニスタン戦でもロバは利用された。


「ほう、そうなのか!」


 アトス叔父上も知らなかったらしく、感心しきりだ。


「それに、ほら! この荷車には、怪我したヤツを乗せられる。仲間を見捨てないで済むぞ!」


 俺は友愛に訴えてみた。

 戦場の絆ってヤツだな。


 バルバル傭兵軍のみんなは、ジーンと胸が熱くなったらしい。

 暖かい雰囲気になった。


「え~、でもよ~。コイツは、肉が少ないぞ」


 ロッソが、折角の良い雰囲気をぶち壊しやがった。


「ロッソ! だから、ロバは食い物じゃないって!」


「え~!」


「食うなよ! 絶対に食うなよ!」


 もう、いい!

 次の戦場へ行くぞ!

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