第12話 鉄の剣
――戦いが終った。
勝利の余韻に浸る間もなく、俺たちは敵兵の死体から装備品を回収することになった。
アトス叔父上によれば、我々バルバル傭兵軍が倒した敵の装備は、我々バルバル傭兵軍に権利があるらしい。
『獲物の権利は、獲物を倒した者に帰属する』
というルールだ。
俺はフラフラしながら、先ほど俺が倒した敵騎兵隊隊長の死体をまさぐった。
敵兵の死体から装備品を取り外すことに抵抗を感じていたが……。
(これ! 鉄剣だ! こっちは鉄のナイフ! やった!)
敵の隊長は、鉄製装備を身につけていたのだ。
鉄製武器が手に入れば、ブルムント族の村近くにある資源――岩塩の近くにいる魔物に勝てるかもしれない。
岩塩のエリアから魔物を追い出せば、岩塩はブルムント族の物だ。
俺はヒゲ面の騎兵隊長の骸に手を合わせた。
(鉄器をありがとう! 役立たせてもらうぜ! 成仏してくれよ!)
俺は喜んで、敵隊長の身ぐるみを剥がした。
・鉄の剣
・鉄のナイフ
・鉄の槍(穂先のみ)
・上物の衣服
・銀貨、銅貨
・サッシュ(身分を示す帯)
なかなかの実入りだ。
(傭兵業って儲かるんだな!)
あくまで『勝てば』の話だろうが、俺はブルムント族が傭兵を生業にしている理由が少しわかった。儲かるのだ。
俺がホクホクしながら敵の装備品を回収していると、大トカゲ族の族長ロッソが近くにいた。
右手に青銅製の剣、左手に鉄製の小ぶりな剣を握って考え込んでいる。
やがて、左手の鉄製の剣を捨てた。
俺は、思わず声を出してしまった。
「あっ!」
「あー? なんだよ! 文句あるのか! こいつは、俺が倒したんだ! この剣は俺のモノだぞ! ガイアには、やらないぞ!」
ロッソは、俺が剣を欲しがったと勘違いして、右手に持った青銅の剣を隠すように抱えた。
どうやら鉄製と青銅製の見分けがつかないらしい。
「今、捨てた剣の方が良い剣だ。捨てたのは鉄製の剣だよ」
「鉄製……?」
ロッソは、俺の言うことがよくわからないらしく首をひねっている。
「今、右手で握っている剣は青銅製だ。さっき捨てた剣は鉄製で、青銅製より丈夫だ」
「なに~? ウソつけ! こっちの剣の方がデカイだろう!」
大きさの問題ではなく、素材の問題なのだが……。
ロッソは、理解出来ないらしい。
「ウソだと思うなら、二つの剣を打ち合わせてみろよ」
「よーし! 分かった!」
ロッソは、小ぶりな鉄剣を左手で拾い上げて、右手で握る青銅の剣と思い切り打ち合わせた。
硬質な音が辺りに響く。
そして、青銅製の剣は大きく欠けてしまった。
「ああっ!」
ロッソは驚き、鉄剣を凝視している。
「なっ! 鉄製の武器は丈夫だろ?」
「ホントだ! スゲエ!」
「どうせ沢山は持って帰れない。鉄製品を中心に集めろよ。鉄製品は買うと、かなり高い。からな。その方が得だろう?」
「おお! そうだな! よし! 手下に探させよう!」
ロッソは大喜びだ。
大トカゲ族に命じて、鉄製品の武器や防具を探し始めた。
このやり取りが、バルバル傭兵軍の他部族にも伝わって、バルバル傭兵軍全体で鉄製品を探し始めた。
良かった。
これでバルバル傭兵軍の戦力アップだ!
誤算だったのは、鉄製品と青銅製品の見分けをつけられないヤツが多くて、俺のところに武器や防具を山ほど抱えてやって来たことだ。
俺は、回収する装備の分別に追われることになった。
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