第10話 ピュロスの戦い3~戦いに笑む

 俺たちブルムント族・エルフ族の混成部隊は、ゆっくりと横陣の左端を目指して動き出した。


 移動しながら、バルバル傭兵軍の他部族に声を掛ける。


「ここは任せた! 頼むぞ!」


 すると大トカゲ族のロッソとドライが目に入った。

 あの体格の良い二人がいてくれれば、頼もしいな……。

 騎兵相手でも後れを取ることはないだろう。


「ロッソ! ドライ! でっかく稼ぎに行くぞ! 儲けたきゃついてこい!」


「ヘッ! コキやがって! 面白れえ!」


「その辺に落ちてる盾や槍を拾え! ロッソとドライは、前列だ!」


「任せろ!」


 大トカゲ族のロッソとドライを加えて、途中戦闘を交えながら横陣の左端に到着した。


 ヴァッファンクロー帝国軍の士官が、俺たちに怒鳴ってくる。


「オイ! バルバル! 貴様らそこで何をしている!」


 金ピカ鎧を身につけた士官は、雇い主側の人間だ。

 無視するわけにもいかないので、俺が帝国語で怒鳴り返した。


「敵の騎馬隊が突っ込んでくる! 俺たちは騎馬隊への備えだ!」


「何!? 騎馬隊が!?」


 その時、スキル『スマッホ!』の画面で動きがあった。

 敵の騎馬隊が左右二隊に分かれて移動を始めたのだ。


「士官殿! 敵が来る! 魔法を放つから、近づかないでくれ!」


「わかった! そこは任せるぞ!」


 俺は士官との会話を強引に打ち切り、敵騎馬隊に備える。


「来るぞ! 盾持ちは前へ出ろ! ロッソとドライも前列で盾を構えろ!」


「おうおう! いよいよ大物狩りか? たまらねえなぁ~」


 ロッソは軽口叩くとべろりと長い舌を出し、自分の唇を湿らせた。


 画面では、騎馬隊が敵横陣の後ろを横に移動し、こちらへ向かっているのがわかる。


 騎馬隊が左右に分かれたのはラッキーだ。

 半数を相手取れば良い。

 数は二十五騎だ。


 エルフ族族長のエラニエフが後列から、エルフ語で声がけしてきた。


「魔法、弓ともに準備はよい」


「よし……。騎馬隊の先頭を狙ってくれ。先頭の騎馬が倒れれば、後続も巻き込まれて転倒する」


「ガイア、お主、出来るな!」


 俺としては、前世の映画で見た作戦を真似しているだけなのだが、エラニエフに感心されてしまった。

 それより今は敵の騎馬隊だ。


「褒めるのは、勝った後にしてくれ。俺は魔法の射程がわからん。発射タイミングは、任せるぞ!」


「承知した!」


 スキル『スマッホ!』の画面では、もうすぐ騎馬隊がこちらに来る。

 俺は、ブルムント族の兵士たち、ロッソ、ドライに念を押す。


「最初は魔法と弓を放つ! 合図するまで、突っ込むなよ!」


「「「「「おう!」」」」」


 緊張した声が返ってきた。

 無理もない。

 何せ相手は騎兵だ。

 初撃の魔法が外れたらと考えると恐ろしい。


「来たぞ!」


 アトス叔父上が、声をあげた。

 敵の横陣の後ろに騎馬隊が見える。


 馬蹄の音が響く……。

 二十五頭の軍馬が疾走する音は、騒がしい戦場にあっても低く恐ろしげに迫ってくるのだ。


 俺は腰に差した青銅の剣を抜き戦闘に備え、騎馬のプレッシャーを跳ね返すために、思い切り声をあげた。


「構えろおぉぉぉ!」


「「「「「おう!」」」」」


 敵横陣の切れたところから、騎馬隊の先頭が曲がってきた。

 そのまま、後続の騎兵も続き加速してくる。


 俺たちと騎馬隊の間に遮る物はない。

 騎馬隊の先頭を走る騎兵が、俺たちに気付きチラッと視線を飛ばしてきたが、迂回するでもなく直進コースを只走り続ける。

 踏み潰すつもりだ。


「やべえ! 来たぜ!」

「ド迫力だな!」

「ビビルな! 腰を据えろ!」


 味方兵士たちが、乱暴な言葉で励まし合う。

 俺は額にジットリと汗をかいているのにもかまわず、先頭の騎馬を凝視し続けた。


 土煙を上げて迫ってくる騎馬の一団は、凶悪な暴力の波だ。

 抗さなければ、蹂躙され、体は醜い肉塊に変わる。


 だが――。

 そう! 違う!


(あれは、俺の獲物……。食ってやる……! 喰らってやるぞ!)


 心の奥底から、強い気持ちが湧き上がってきた。


 怒りか。

 欲望か。

 歓喜か。


 俺には、わからない。

 ただ、俺は口の端を持ち上げ、歯をむき出しに笑んだ。


「エラニエーフ!」


 エルフ族族長のエラニエフに呼びかけると、エルフ語の合図が返ってきた。

 騎馬隊との距離を見極めたエラニエフは、かなり引きつけてからの攻撃を選択したのだ。


「放て!」


 先頭の騎兵に向けて、エルフ族の魔法が放たれた。

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