第9話 ピュロスの戦い2~白兵戦は初体験

 突っ込んできた敵は、軽歩兵だ。

 敵兵の数は十人。


「エエエエェェェェェ!」

「アイアイアイ!」


 革鎧を身につけた軽装の敵兵が、奇天烈な声をあげながら迫ってくる。

 俺は、最前列で盾を構えたブルムント族の兵士たちに檄を飛ばした。


「盾持ち! しっかり構えろ! 練習通りだ!」


「「「「「オウ!」」」」」


 気合いの入った声が返って来る。

 移動中に練習をしておいて良かった。

 自信を持って対処できるぞ。


「接敵! 跳ね返せ!」


 敵兵と盾持ちが激突した。

 敵兵は力任せに剣を振り降ろすが、盾持ちがガッチリ受け止めるので有効打にならない。


 盾に向かって体当たりする兵士や盾にケリを入れる兵士もいるが、こちらの方が体格が良いせいもあって、最前列の盾持ちは敵兵の攻撃を防いでいる。


 俺の隣にいたアトス叔父上が、俺に鋭い声でアドバイスを送ってきた。


「ガイア! 今だ!」


 俺はアトス叔父上の言葉に、即反応する。


「左右から押し包め!」


 敵兵たちは、ブルムント族の盾持ちに攻撃を遮られている。

 横が、がら空きだ!


 最前列の盾持ちの後ろから、俺は左へ飛び出した。


 ――どうする?


 戦闘なんてやったことがない。

 勢いよく飛び出したのは良いが、次は何をする?


 ガイア少年の記憶を一瞬のぞいてみる。

 彼は、荒事が得意だったようだ。

 俺は彼の記憶に従って、敵兵の膝の裏を青銅の剣で叩いた。


「ウワッ!」


 俺に膝の裏を叩かれた兵士は、膝カックンでバランスを崩した。

 上手いな!


 どうやらガイア少年の記憶は、小柄な少年の体でも戦う術を知っているらしい。


 そのまま記憶に従って、バランスを崩した敵兵の首に青銅の剣を振り降ろす!


 グシャリと嫌な音がした。

 切れ味の悪い青銅の剣は、鈍器と変わらない。


 勢い任せに振り降ろした青銅の剣は、敵兵の首の骨を見事に叩き潰したのだ。


 アドレナリンが出まくっているのか、罪悪感も嫌悪感も覚えない。

 それどころか、心と体が次の戦闘を求めて高揚している!


「次!」


 俺が敵兵の集団に剣を構えると、敵兵の集団からどよめきが上がった。


「バッサがやられた!」

「小僧!」

「手強いぞ! 気をつけろ!」


 そこへ、ブルムント族とエルフ族の弓使いから矢が飛んできて、敵兵の集団が崩れる。


「ガイア! 距離を取れ!」


 後ろからアトス叔父上の指示が聞こえた。

 俺は返事をする代わりに、力強く地面を蹴り、後ろへ飛んだ。


 同時に――崩れた敵兵の集団に魔法が着弾した!


 聞き慣れない爆発音が耳を突き、敵兵士が吹き飛ぶ。

 辺りに焦げ臭さと、血の臭いが漂う。


「とどめを刺せ!」


 俺は一吠えするとすかさず前に出る。

 倒れた敵兵にとどめを刺して回り、足下が覚束ない敵兵を横から殴りつけ撲殺した。


「ガイア! 飛ばしすぎだ! 戻れ!」


「フウ……! フウ……! フウ……!」


 息が荒い。

 アトス叔父上の言う通り、初めての戦闘に興奮して暴れすぎたようだ。


 まだ、辺りでは戦闘が継続しているが、俺たちブルムント族・エルフ族混成部隊の周囲に敵兵はいなくなった。


 俺たちは少し後ろに下がって、ちょっと休憩だ。

 革袋の水筒から水を飲み、干し肉を口に放り込む。


 アトス叔父上が、声を掛けて回る。


「ヨシ! いいぞ! みんな、よくやった! 怪我をしている者はいないか? 怪我をしている者は、治療をするから言えよ!」


 俺は息を整えると、エルフ族の族長エラニエフにエルフ語で話しかけた。


「エラニエフ! さっきの爆発する魔法は、あと何発撃てる?」


「私が……、あと五発……。他の者が三発と……、二発……。あと十発だな」


「わかった。魔法は少し節約してくれ」


 エラニエフは、眉根を寄せる。


「どういうことだ?」


「魔法は敵の騎馬隊にぶつけて欲しい。可能なら全部だ」


「騎馬……? なるほど、それが狙いか……面白い! 承知した!」


 俺たちがいるのは、横陣の左端エリアだ。

 敵の騎馬隊は、横陣の背後を取ろうとするだろう。


 敵の騎馬隊が、横陣の横をすり抜けようとする所を、魔法でドカンだ!


 先ほど見たエルフ族の魔法は、威力があった。

 あれを疾走する騎兵に次々と打ち込めば……、戦局を大きく動かせるかもしれない。


「スマッホ!」


 俺はスキル『スマッホ!』を起動して、表示画面を調整する。

 空から戦況を見ているようだ。


 横陣は、両軍正面からぶつかって押し合いになっている。

 戦場は既に乱戦模様で、弓隊は各自の判断で、各個に目標を見つけて射撃をしているようだ。


 一見すると、組織だった動きが出来ていないようにも感じるが、両軍の騎兵は、横陣の後方に位置して動いていない。


 両軍ともに指揮系統は、生きているのだ!


 騎馬隊の動きが、この戦を決めるだろう。


 俺は、『スマッホ!』の情報画面を表示したまま、敵騎馬隊の動きに注意を向ける。

 そして、アトス叔父上に作戦を伝えた。


「アトス叔父上! 横陣の一番左へ移動しましょう!」


「何!?」


「敵の騎馬隊は、まだ無傷です。騎馬隊が突っ込んできたら、エルフ族の魔法をぶち込んで、騎馬隊の動きを止めるんです」


 アトス叔父上は、一瞬考えてから、ニヤリと笑った。


「なるほど! 面白い! やろう!」

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