第8話 ピュロスの戦い1~蛮族なりの工夫

 ――二十日後。


 俺たちバルバル傭兵軍百名は、ヴァッファンクロー帝国の南西にあるアルゲアス王国のピュロスに来た。

 ヴァッファンクロー帝国が、アルゲアス王国に攻め込んだのだ。

 ここピュロスが最前線になる。


 ヴァッファンクロー帝国が付けてくれた案内人と一緒に、街道を歩き、船に乗り二十日かかった。

 船は、なんとガレー船だった!


 俺は文明度の低さに頭を抱えるが、現時点ではどうにも出来ない。


 まずは、これから始まる雇われ戦に集中だ。


 戦場に到着すると、俺とアトス叔父上が帝国軍へ挨拶に出向いた。


 俺の部族であるブルムント族がバルバル傭兵軍の取りまとめ役なので、ブルムント族族長の俺がバルバル傭兵軍の大将だ。


「バルバル傭兵軍! ただいま参陣いたしました!」


 俺が大声で名乗りを上げると、ヴァッファンクロー帝国の将官が嫌そうな顔をして応対した。


「ふむ……、バルバルか……、北方の蛮族だったな……」


 ヴァッファンクロー帝国軍は、相変わらずふんぞり返って嫌な感じだ。

 ただ、ヴァッファンクロー帝国軍の装備は見事で、よく磨かれたピカピカの金属鎧に鉄製の剣や槍を携えている。


(鉄製武器か……欲しいな! 鉄製武器があれば、魔物を倒して岩塩を手にできるかも……)


 俺は表情を変えず、心の中でうらやんだ。

 いつか俺の部族も……そんな思いを抱えて、俺はヴァッファンクロー帝国軍参謀に指示された持ち場へ移動した。


 戦場はだだっ広い平原で、ヴァッファンクロー帝国軍とアルゲアス王国軍が、お互い横陣を敷き、正面からにらみ合っている。


「スマッホ!」


 俺は持ち場につくと、スキル『スマッホ!』を発動して、『人物』ボタンを押す。

 沢山の点と吹き出しが表示された。

 その中か、目当ての吹き出しを探す。


「あった!」


『ヒビティウス ヴァッファンクロー帝国軍の将軍・総大将 普通の能力』


 俺たちが雇われたヴァッファンクロー帝国軍の総大将は、ヒビティウス将軍……、普通の能力か……。

 まあ、無能よりはマシだと考えよう。


 次は敵の総大将だ。


「敵の総大将は……いた!」


『パウサニア アルゲアス王国の将軍・総大将 やや無能』


 敵アルゲアス王国の総大将は『やや無能』……。

 敵が無能で助かる!

 これは勝てるかな?


 続いて、『-』ボタンを押す。

 画面に表示されていた点が固まり、凸マークに変わった。


 二つの凸マークが平原で対峙していて、それぞれ吹き出しに説明書きがある。



『帝国軍 二千二百 歩兵:千 騎兵:百 弓兵:百 軽歩兵:千 魔法兵:若干』


『アルゲアス王国軍 二千百五十 歩兵:千 騎兵:五十 弓兵:百 軽歩兵:千 魔法兵:若干』



 戦力は、ほぼ互角。

 ただ、アルゲアス軍の騎兵は、五十少ない。


 俺は隣を歩くアトス叔父上に質問した。


「アトス叔父上。騎兵は、戦に影響がありますか?」


「あるぞ! 騎兵は、素早く背後に回り込み敵陣を崩す」


「なるほど」


 歩兵の数は同数。

 ならば、騎兵の差を利用出来ないだろうか?

 俺は考えを巡らせながら、情報を集める。


「アトス叔父上。魔法兵は?」


「魔法兵は、魔法兵だ。弓と同じで遠くから攻撃する。時々、凄い威力の魔法を放つ使い手がいるから、気をつけろよ!」


「わかりました」


 俺たちバルバル傭兵軍が持ち場についてしばらくすると、角笛の音が戦場に響き、戦が始まった!


 各軍の歩兵が突撃をしていく。


「行くぞー!」


「「「「「おおお!」」」」」」


 俺たちバルバル傭兵軍も突撃だ。


 バルバル傭兵軍は、寄せ集め部隊だ。

 だから、部族ごとに自由に戦うことにしてある。

 約束事は前進と後退だけ、角笛で合図する。


 バルバル傭兵軍各部族は、てんでバラバラに突撃した。

 完全な個人プレーだ。


 俺は他部族が戦う様子を横目で見ながら、意外と落ち着いていた。

 現実感がないのか、それとも開き直ったのかはわからない。


 落ち着いた声でブルムント族部隊に指示を出す。


「よーし! 隊列を崩すな!」


 俺は戦場に着くまでに、二つ工夫をした。


 工夫その一は、『盾』だ。


 ブルムント族部隊を二列に分け、前列は大きめの盾を持たせ防御に徹するのだ。

 木製だがヴァッファンクロー帝国製のしっかりした盾で、かがめば体をすっぽりと隠すことが出来る。


 後列は、青銅製の剣持ちと木製の槍持ちの混成だ。

 槍持ちが敵兵を突いて、スキを作ったところで剣持ちが仕留める。


 盾はそれなりの値段がしたが、移動途中の大きな町で買いそろえることが出来た。


 そして工夫その二は、エルフ族との連携だ。

 他の部族に連携を打診したが断られた。

 エルフ族だけは、のってきたのだ。


 エルフ族は、弓兵と魔法兵で編成されているので、俺たちが前で敵兵を抑えるのは大変ありがたいそうだ。


 移動中に何度か練習もして手応えを感じている。


 さて、実戦で上手く行くかどうか……。


「ゆっくり前進!」

「隊列を崩すなよ!」


 俺とアトス叔父上が、ブルムント族とエルフ族の混成部隊に指示を出す。


 混成部隊は一塊になって、戦場をゆっくりと前進する。

 すると、アトス叔父上が声をあげた。


「来たぞ!」


 敵軍――アルゲアス王国軍兵士が、俺たちに向かって突撃してきた!

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