第7話 バルバル諸部族の傭兵部隊
さて、俺たちブルムント族は、親の敵であるヴァッファンクロー帝国に傭兵として雇われた。
雇用条件の交渉は、全てアトス叔父上にお任せしたのだが、なかなかの好条件だ。
アトス叔父上やブルムント族の人々は、ごく当たり前に『仕事が来た!』と喜んでいる。
「うお~! 現金収入~!」
つい数日前まで戦争をしていた相手のヴァッファンクロー帝国に雇われて、いいのか!?
族長の敵ではないのか!?
雇うヴァッファンクロー帝国もヴァッファンクロー帝国だが、引き受けるアトス叔父上もアトス叔父上だ。
日本から転生した俺には、なかなか理解が追いつかない。
俺は心を無にして、禅の境地に入ることにした。
ここは異世界なのだ。
深く考えても仕方がない。
流れに身を任せよう。
アトス叔父上は四方に使いを出し、ブルムント族だけでなく、近隣のバルバル諸部族もお誘いした。
『一緒に傭兵されてみませんか? 戦争で一儲けしませんか?』
すげえな!
不謹慎厨がこの異世界にいたら、ネットにアトス叔父上を写真付きでさらしそうだ。
*
――五日後。
俺の村には、多種多様なバルバル諸部族が集まってきた。
アングロー族、バンダル族、フラット族など……。
中には、体に毛皮を巻き付けていたり、木を尖らせただけの槍を持っていたりと、まさにバルバル! 蛮族だ!
それでも、俺たちブルムント族と同じ人間の部族は、気持ち的に受け入れやすい。
びっくりしたのは、人間以外の種族がいるのだ。
例えば、森の奥からやって来たエルフ族。
耳が長く、美男美女揃いで、アニメやマンガに出てくるエルフのイメージ通りの部族だ。
「××××××××××」
どうやらエルフは、我々ブルムント族と言葉が違うらしい。
初めて聞く言葉で、小鳥がさえずるような上品な響きがある。
「うおっ!」
エルフの言葉を理解したいと思っていたら、突然『情報ダウンロード』が始まった。
また、あの頭痛だ!
しばらくすると『情報ダウンロード』が終わり、エルフの言葉がわかるようになった。
「魔力回復薬は持ったな? 遠征では何が起るかわからぬ! 若い者は隊から離れぬように!」
スラッとした長身のイケメンエルフが、エルフ族の面々に注意を与えていた。
この人がリーダーだろうか?
俺は、イケメンエルフにエルフ語で話しかけた。
「ご挨拶をよろしいか? 俺はガイアだ! ブルムント族の族長を、亡き父から継いだ。エルフ族の参陣かたじけない!」
この体の持ち主だったガイア少年の記憶と、日本で見たドラマのセリフを適当にミックスしたのだが、仰々しい名乗りになってしまった。
かなり照れくさい。
だが、この世界の儀礼としては、恐らく間違っていないだろう。
俺がエルフ語で挨拶をしたせいか、イケメンエルフはビックリしている。
「私は、エルフ族の族長エラニエフだ。エルフ語が達者な者がいて安心した」
「困ったことがあったら、何でも相談してくれ! では、よろしく!」
「うむ! よろしく頼む!」
エルフ族との挨拶を済ませて、諸部族の間を歩き回る。
各族長に挨拶をして、顔と名前を売るのだ。
父のことを知っていて、親しげに接してくる族長もいれば、『まだ、ガキだ!』となめた態度の族長もいる。
転生した俺の中身は四十二才だが、外側は成長中の十三才でしかない。
他の人からガキ扱いされるのは、不本意だが……。
まあ、こればかりは、実績を積み重ねて信頼を勝ち取り、成長して体を大きくするしかないだろう。
最後に変わった部族に挨拶だ。
その部族は、大トカゲ族。
大トカゲ族は、大きなトカゲが二足歩行しているみたいな恐ろしい姿をしている。
見た目的に……、ゲームに出てくるモンスターなんだが……。
ガイア少年の記憶を探ってみると、大トカゲ族に関する記憶があった。
彼らは、モンスターではなく、獣人に分類されるらしい。
対して、俺たち人間は、人族と呼ばれるそうだ。
彼らが話しているのは、ブルムント族と同じ言葉だ。
俺は体格が大きなヤツが族長だろうと当たりを付けて、ニメートルを超える一際大きなトカゲ人間に話しかけてみた。
「ご挨拶をよろしいか? 俺はガイアだ! ブルムント族の族長を、亡き父から継いだ。大トカゲ族の参陣かたじけない!」
そばまで来ると、トカゲ人間はデカイ……!
ニメートル超えのトカゲ人間は、俺を見下ろしながら言葉を発した。
「オウ! 俺はロッソだ! 族長だ!」
「よろしく頼む!」
「オウ!」
ロッソ族長は、それきり黙ってしまった。
ギョロギョロと大きな目が、盛んに動く。
俺を観察しているのか?
「俺は食べても不味いと思うぞ……」
「そうだな。止めとこう」
食うのかよ!
本当に俺を食べるかどうか、検討していたのかよ!
「ロッソ族長! ここにいるのは、仲間だからな! 食べてはイカンぞ!」
「わかってるよ~! 冗談だよ! 冗談!」
そう言って、ロッソ族長はニヤリと笑った。
いや、絶対冗談じゃないだろう。
「大トカゲ族と一緒に寝る時は、熟睡できそうにないな……」
「そうだな! 食わねえけど、ケツに気をつけろよ!」
「その趣味はねえよ!」
「ダハハハ!」
見た目は怖いが、案外気の良いヤツかもしれない。
俺とロッソ族長が、冗談を言い合っていると、横から細身の青っぽい体をした大トカゲ族の男が話しかけてきた。
「オイ、ロッソ! そろそろ出発だぞ! 隊をまとめろよ!」
「おう! わかった!」
細身の大トカゲ族の男は、俺の方に向き直り細い目でジトッと俺を見てくる。
視線に耐えかねて、俺から話し始めた。
「ブルムント族の族長ガイアだ! 食うなよ! 絶対に食うなよ!」
「食わねえよ……。ありゃ、ロッソの冗談だ。俺はドライ。副長をやってる。実務は俺の方に話を振ってくれ」
「わかった。ブルムント族の実務は、俺の叔父であるアトスがやっている」
「あー、あの丸顔でヒゲの……、黒髪の人だろう?」
「そうだ。よろしく頼む!」
「あいよ~」
ドライは、飄々とした雰囲気の男だ。
ブルムント族が集まっている場所に戻り、アトス叔父上に各部族に挨拶をしたと報告する。
「偉いぞ! 俺は出発の支度で忙しいからな! 付き添えないで、悪かったな」
各部族十人~二十人くらいの人数が、今回の雇われ戦に参加する。
アトス叔父上は世話役なので、仕事が多くて大変そうだ。
俺の部族、ブルムント族は、辺境のバルバル諸部族の中で、最も南に位置しヴァッファンクロー帝国に近い。
そのせいで、バルバル諸部族のまとめ役、リーダー部族でもある。
人が集まれば、それだけ仕事は増える。
ガンバレ! アトス叔父上!
出発まで手持ち無沙汰で、集まったバルバル諸部族を見渡す。
雰囲気は悪くない。
彼らは、この前の戦争で俺たちと一緒にヴァッファンクロー帝国と戦ったそうだが……。
みんなウキウキで、どうも出稼ぎ感覚のようだ。
俺は戦争に行くと思うと、恐ろしくて夜もよく眠れなかったのだが、彼らの様子をみて深刻だった自分がバカバカしくなった。
「あれっ!?」
俺は一つ気が付いた。
ずっと違和感があったのだけれど……武器だ!
みんなの持っている武器が鉄じゃない。
俺は自分の腰にぶら下げている剣を手に取ってみた。
俺の剣も鉄じゃないな……。
「叔父上。鉄製の武器はないのですか?」
「うーむ……。鉄製品は高いからな……」
「これは何製ですか?」
「青銅だ」
何と!
青銅の剣!?
そんな装備で戦争するのか!?
俺は手にしている剣をマジマジと見た。
日本刀よりも幅が広く、厚みもあって重い。
刃の部分は研がれてないので、切れそうにない。
剣というよりは、鈍器だな。
これは殴る武器だろう。
「アトス叔父上……。ちなみにヴァッファンクロー帝国軍の武器は?」
「連中は鉄製だ」
アトス叔父上は、悔しそうな顔をした。
そりゃ負けるよな。
鉄対青銅なら、鉄の圧勝だ。
地球の歴史が証明している。
ヴァッファンクロー帝国の連中にバルバル――野蛮人、文明外の人――とバカにされるわけだ。
俺は、バルバル諸部族の持つ武器を観察してみる。
鉄製の武器を持っている者を数名見つけた。
あとは、青銅の剣を装備している。
ヒドイのになると木製の槍や手ぶらもいる。
(岩塩のそばに住むブラッディベアを倒せないのは、武器が弱いせいじゃないだろうか?)
俺の中でそんな仮説が立てられた。
今度の戦で金が手に入ったら、鉄製の武器が欲しい。
「よーし! 出発するぞ!」
アトス叔父上の号令で、バルバル傭兵軍百名は、南の戦場へ向けて出発した。
ガイアとしては何度目かの戦場だが、転生した俺にとっては初陣だ!
武運長久を神に祈ろう!
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