第5話 スキル! その名は『スマッホ!』
俺とアトス叔父上は、数日かけてブルムント族の全ての村を歩いて回った。
戦死した人への弔いと俺が族長を継いだことを周知するためだ。
「オイ! アトス! オマエが族長をやったらどうだ?」
アトス叔父上に、村人が意見をする。
これで何度目だろうか?
だが、アトス叔父上の返事は、いつも同じだ。
「いや、私は補佐向きだ。族長は前族長の息子であるガイアがやる! ガイアを立派な族長に育成するのが、私の役目だ」
「そうか……、まあ、オマエが補佐するなら良いが……」
村人は、あっさり引き下がった。
多分、思いついたことを口にしただけで、あの村人に悪気はない。
俺とアトス叔父上が、ブルムント族の村に戻ってから十日経った。
村に戻ってからは、非常に忙しくやることが山盛りだ。
まず、戦死者の確認と葬式を行った。
今回の戦いでブルムント族に沢山戦死者が出たのだが、数日経つとみんな普通に生活をしだした。
どうやら、この世界では、人の死は珍しいことではないらしく、みんな慣れているのだろう。
次に、俺は父の跡を継いでブルムント族の族長に就任した。
大きな反対はなかったが、先ほどの村人のように、アトス叔父上を族長に望む声は根強い。
無理もない。ブルムント族の人々からすると、俺はまだ子供だ。
『ダメではないが……、ガイアで大丈夫なのか?』
『積極的に反対はしないが……、アトスの方が良くないか?』
『まあ、ガイアがもっと大きくなれば、良い族長になると思うが……』
村人の本音は、こんなところで、ちょこちょこ俺も耳にする。
ありがたいことに、アトス叔父上が常に俺の味方をしてくれるので、村人たちも俺の族長就任を一応認めている。
(これから頑張らないと!)
その為には現状把握だと考え、俺はブルムント族の村々を歩き回っている。
村々の周囲を見て、村人と話し情報収集に励んだ。
俺が率いるブルムント族は、約五百人。いくつかの村に分かれて生活している。
俺の住む本村落が最大で、二百人が住む。
文明レベルは、かなり低い。
中世?
いや、もっと昔かもしれない。
ブルムント族の外見は地球のヨーロッパ系に近いが、髪の毛の色が青や緑と多彩だ。
川に自分の顔を写してみたが、俺の髪と目の色は赤だった。
まだ幼さの残った顔だ。
アトス叔父上によると俺は十三才らしい。
転生前は、四十二才だったので、川をのぞき込んだ時は、嬉しさ半分、戸惑い半分だった。
「さて、ガイアよ。家に帰るか!」
アトス叔父上が、優しい声で俺に声を掛けてきた。
「ええ。この村で最後ですよね?」
「そうだ。全ての村を回り終えた」
俺とアトス叔父上は、村を後にした。
森の中の細い道を歩きながら、アトス叔父上が、この前の戦争について話してきた。
「しかし、ガイアの傷が軽くて良かった!」
「物凄く痛かったですけどね」
「そうなのか? しかし、もう、すっかり治ったようだな?」
「はい。治りが早かったようです。若いですから!」
俺がニヤリと笑ってみせると、アトス叔父上は『コイツめ!』と俺の頭を軽く小突く。
アトス叔父上には、神様からもらった丈夫な体――俺は、スキル『再生』と勝手に呼んでいる――のことは話していない。
どう考えても、人として規格外な能力なので、スキルのことは秘密にしようと思っている。
そして、俺はもう一つのスキルを起動した。
「スマッホ!」
俺が小声でつぶやくと、目の前にタブレット端末のような画面が現れた。
これも神様にもらった能力――スキル『スマッホ』だ。
神様からのメッセージによると、天使さんの説明を聞いて適当にクリエイトしたスキルらしい。
おじいちゃん神様だったから『スマホ』って、言えなかったんだろうな……。
それでスキルの名前が『スマッホ』になってしまったのだろう。
画面のサイズや機能からして、既にスマホではないのだが……。
「うん? ガイア、何か言ったか?」
「いえ。何も言ってません」
俺のつぶやきが、アトス叔父上に聞こえたらしい。
アトス叔父上は、俺の方を見たが、スマッホの画面は見えない。
このスキルは便利なことに、俺だけに見えるのだ。
目の前に現れた『スマッホ』の画面は、ゲームのマップ画面に似ている。
中央で点滅している点が俺だ。
画面右側にボタンが並んでいる。
【人物】
【資源】
【魔物】
では、【人物】のボタンを押してみよう。
俺の隣に青い点が表示された。
青い点から『吹き出し』が出ていて、簡単な説明書きがある。
『アトス 叔父 賢い人物』
人物の位置情報と簡易な人物鑑定機能がセットになっているのだ。
画面の下に【-】【+】ボタンがある。
地図の拡大縮小ボタンだ。
俺は【-】ボタンをポンポンと連続で押して地図を拡大する。
今、訪問した村と村の周辺が地図に表示されたが、行ったことのない場所はグレーになっている。
この辺りは、ゲームによくあるのでわかりやすい。
続いて【資源】ボタンを押してみた。
すると、丸太のイラストを四角く囲ったアイコンが表示された。
丸太アイコンの『吹き出し』を読んでみる。
『オークの木 丈夫な木材になる』
この【資源】ボタンを押すと資源になる素材がアイコン表示されるのだ。
画面には、丸太のアイコンばかりが表示されていて、どうやら、今日訪れた村の周辺は木材以外の資源がないらしい。
次に【魔物】ボタンを押す。
資源と同じようにイラストを四角く囲ったアイコンが表示された。
狼のアイコンやウサギのアイコン、クモっぽいアイコンもある。
吹き出しには『ホーンラビット とても弱い。肉は食用。角は薬の材料になる』と魔物の名前と簡単な解説が表示されている。
このスキルを上手く活用して村を発展させられたら……。
ブルムント族が強化されるのではないか……。
ここ数日、俺は村々を訪ね歩きながら、そんなことを考えていた。
さて、ブルムント族の村の様子だが、どの村も森の中にある。
村には、ちょっとした畑があるだけで、食料の生産量は低い。
スキル【マップ】を使って『資源』を探してみるが、どこの村も『木材』ばかりだ。
そんな中、俺たちが住むブルムント族の本村落から少し離れた位置に『岩塩』のアイコンがある。
『岩塩 食用可。ミネラル分を含んだ良質の塩』
これを掘り出せば、村の産業になるのではないか?
戦いで敗れたブルムント族の立て直しに、役立つのでは?
俺は、アトス叔父上に相談を持ちかけた。
「アトス叔父上。東の方に岩塩があるのだけれど掘れないかな?」
「なに! 岩塩! どこだ?」
「こっちですよ」
俺は叔父アトスを案内して、岩塩のアイコンがある方へ、森の中を進んだ。
だが、叔父アトスが俺の腕を引っ張る。
「待て! この先はブラッディベアの縄張りだ!」
「え!?」
慌てて『魔物』のボタンを押した。
すると画面が切り替わり、熊のアイコンがウヨウヨしている。
『ブラッディベア 弱い 丈夫な毛皮がとれる』
吹き出しの説明には、『弱い』とあるが……。
俺たちで、倒せないのだろうか?
「アトス叔父上。ブラッディベアと戦って、勝てませんか?」
「無理だ! あいつらは頑丈で、剣が通らないんだ!」
どうやらブラッディベアは、頑丈な魔物らしい。
それでは、岩塩がある所まで安全に移動出来ない。
俺とアトス叔父上は、岩塩をあきらめて本村落へ戻ることにした。
だが、戻る道すがら、俺は岩塩をあきらめきれずに、アトス叔父上にしつこく聞いた。
「ねえ、アトス叔父上。岩塩があれば、村の産業になると思います。お金が稼げて、もっと豊かな暮らしが出来ますよ!」
「それは、そうだが……。ブラッディベアと戦って死んでしまっては、元も子もないだろう?」
アトス叔父上は、絶対に首を縦に振らない。
これは相当戦力差があるのだろう。
「うーん……。じゃあ、別の産業を考えますか……」
「ガイア! 村の産業ならあるぞ!」
俺は叔父アトスの言葉を聞いて、大いに心を強くした。
あんな小さな村だが、ちゃんと産業があるんだ!
「それはいいですね! アトス叔父上、村の産業は何ですか?」
「傭兵だよ!」
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