第2話 スキルはどこへいった?
目が覚めた……。
ゆっくりと体を起こすと、体中に痛みが走った。
「ウッ! 痛い!」
理由はわからないが、どうやらあちこち打ち身をしているらしい。
腕を見ると、青アザだらけだ。
辺りを見渡すと布製の天幕が沢山あり、鎧を着けた人が歩き回っていた。
映画か何かで見た古代ローマの兵士に似ている。
俺は天幕横の地面に寝かされていた。
どうやら転生に成功したらしい。
手や足のサイズから推測すると、中学生くらいだろうか?
赤ん坊からではなく、それなりの年齢スタートのようだ。
俺が目を覚ますと、中年の男が俺に駆け寄ってきた。
「××××××××××!」
言葉がわからないが、俺に話しかけてくるということは、知り合いなのだろうか?
俺は転生前に、神様にお願いしたスキルを試してみることにした。
「鑑定!」
俺は目の前にいる中年男を鑑定してみようとしたが、何も起らない。
もう一度、心の中で『鑑定だ! この男の情報が欲しい!』と強く願いながらスキルを口にしてみた。
「鑑定!」
だが、結果は同じ。
何も起きない。
続いてアイテムボックスを試してみる。
「アイテムボックス!」
何も起きない。
近くにある小石に手を触れながらスキルが発動しないか試してみる。
「アイテムボックス! 収納!」
何も起きない。
俺は腕を組んで深くため息をついた。
(神様は、お詫びに能力をくれると言っていたけど、希望したスキルはもらえなかったのか?)
そんなことを考えながら、異世界転生マンガで読んだスキル名を次々と口にしてみた。
だが、何も起きない。
俺の様子を見ていた中年男は、血相を変えた。
俺の肩を両手でつかみ、必死で何かを伝えようとする。
「××××××! ガイア! ガイア!」
中年男の話す言葉はわからないが、何度も『ガイア』と口にしている。
「ガイア? それが俺の名前か? 俺はガイアなのか?」
自分を指さしながら、『ガイア』と言うと、中年男がうなずいた。
どうやら俺の名前は『ガイア』らしい。
俺が自分の名前を認識した途端、激しい頭痛が起きた。
「ああ! グッ……痛い! 頭が割れる!」
頭の中に色々な情報が入ってくる。
この世界のこと。
ガイアの記憶。
神様からのメッセージ。
どこからともなく映像や音、言葉や文字が頭の中に流れ込んでくる。
例えて言うなら、情報の強制インストールだ。
俺は体をくの字に折り曲げて痛みに耐えた。
「オイ! ガイア! どうした!」
急に中年男の話が、わかるようになった。
どうやら俺の脳に、この世界の言葉がインストールされたらしい。
だが、情報のインストールは続き、頭痛は治まらない。
この人は……、誰だろう?
ガイアの記憶が、スッと意識に浮上してきた。
そうだ! この人は父親の弟、叔父のアトスだ!
「ア、アトス叔父上……、頭が痛いです……」
「大丈夫か? 変な言葉を口走るモノだから、どうかしたのかと思ったぞ!」
アトス叔父上は、心底ホッとした声を出した。
俺がいきなり日本語で『鑑定!』とか言い出したのだから、心配するのも無理はない。
俺は頭を手で押さえながら、アトス叔父上に返事する。
「頭が痛くて……、少々混乱しているだけです……」
「それは心配だな……。だが、皇帝が呼んでいる! 行かなければならない! さあ、手を貸してやる!」
アトス叔父上は、俺を無理矢理立たせると大きな天幕の方へ引きずっていった。
頭痛は、まだ治まらない。
情報をインストール中だ。
情報不足で『皇帝』が誰なのか、わからない。
だが、偉い人に呼ばれているのはわかる。
俺はふらついた足取りで、アトス叔父上と一緒に大きな天幕の中に入った。
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