第29話
「はぁああ、緊張した……」
深く溜め込んだ息を吐き出し、しゃがみ込むアッシュに驚いて何故か同じようにしゃがんで目線を合わせる。
「えっ、全然そんな風に見えませんでしたよ?」
幼い子に絵本を読むような優しい声で、とても落ち着いてるように見えたが、実際はそうじゃなかったらしい。
「屋敷に勤める一介の料理人が、公爵家のお嬢様に直接料理の説明なんて聞いたことないよ。俺からしたら雲の上の存在なんだから……ああ、なんかやらかしてなきゃいいけど」
うーんと頭を抱えるアッシュに今更ながら申し訳ない気持ちになり、
「無理を言ってすみませんでした……い、嫌でしたか?」
そう言うとバッと顔を上げて食い気味に、
「全然嫌じゃない!無茶な提案だとは思ってたけど、実際ああしてお嬢様に伝えられて嬉しかった!」
そう話すアッシュは生き生きとした表情で、その言葉が嘘ではないと証明していたのでほっとする。
「でもなんで急にこんな事を?」
その問いかけは最もだと思い、そういえば説明していなかった事を思い出す。
「もし、私が物心ついた時に食事も服も何もかも、あの限られた空間の中で全てが用意されていたとしたら、それが景色の一部になっちゃうんじゃないかなと……例えば目の間にある料理を作っている人がいるんだって知るだけでも、見える世界ってちょっと変わったりしないかなぁ、して欲しいなぁ……なんて思いまして」
突拍子のないように見えたこの行動にそんな意図を込めていたとは。真剣に、でも最後は少し自信なさげに言うこの子もきっと手探りなんだと腑に落ちた。
「お嬢様に伝わってると良いねぇ」
「はい!」
「そして次からは、リリアちゃんがどういう風に考えて、どうしたいのかちゃんと伝えてからでお願いしますよっ」
真剣な表情で言いながら、つんっとおでこを指でこつかれる。
「うっ、それは本当にすみませんでした。次は必ず……多分きっと」
それから、食器を下げに行くとすっかり完食しており、厨房でハイタッチをしてキャッキャとはしゃいでいると、ギィシアがそっと顔を出し、
「廊下まで響いていますよ」
静かな、けれどゴゴゴ……と不穏な効果音が後ろから聞こえてきそうな諫める声に、しゅん……と悪戯を怒られた子供のように小さくなる二人であった。
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