第26話

るんるんとスキップしながら鼻歌も歌う。


そんな気持ちを抑えてお嬢様の部屋を後にする。昨日は一方的に話をぶつけてお嬢様を困らせてしまったが、今日はちゃんとお話出来たんじゃないだろうか。


お嬢様、可愛らしいお声だったなぁ。


それにしても書庫には一体どんな本が置いてあるんだろう。


そんなことを考えながら、夕食前の少し空いた時間に一息つくために部屋へ戻ると、机の上の小さな箱に目が留まる。アッシュから貰っていたクッキーの入った箱だ。


「まだ夕食まで時間もあるし、頂いちゃおうかな」


箱を開けるとまたバターの甘い香りが広がる。サクッと軽い食感の後、あっという間に口の中でほろほろとほどけていく。


「くぅ~、幸せ……っ」


こんな美味しいクッキーを作れるなんて、やはりアッシュさんはすごい人なんだなぁ。と少しでも長く味わうために、ちまちま食べながら感心する。


束の間、一人でまったりした時間を堪能してから、夕食を受け取りに本邸へと向かうための廊下の先で、何やらたくさんの荷物を持ってこちらに歩いて来るアッシュが見えた。


「アッシュさん!どうしてこっちに?あ、荷物持ちますよ」


「おっ、リリアちゃん。ありがとね、じゃあこれをお願いしようかな」


そう言って渡された紙袋にはいくつか食材が入っていて、これからは別邸の厨房で食事を作ることになったと歩きながら話してくれた。


「そしたらさ、わざわざ温め直さなくても出来立てをお嬢様にも、リリアちゃんにも食べてもらえるでしょ?……というわけで今日は初日だから色々と用意があってちょっと夕食遅くなっちゃうけどごめんね、明日からはいつもの時間にお出しできるから」


そう言って申し訳なさそうに笑う彼が、突然の異動を願い出るために何度も、ともに働く厨房の仲間やギィシアに頭を下げてまわったいたことは、だいぶ後になってから知ることになる。





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