第19話

「おっ……美味しい~っ!」


目の前にはお嬢様に出した食事と同じメニュー。厨房の空いている机のスペースに並べて今日の夕食タイムとなった。


どれも美味しすぎる……なんだかよく分からないオシャレなソースがかかった茹でた海老が特に絶品で毎日食べたいし、なんだったらソースだけでも飲める……。


なんてことを思いもぐもぐ食べながら、すぐ側に置いたノートを見る。


そこにはお嬢様が召し上がる食事のメニューの一覧と、完食したか否かをチェックする項目が記されている。本邸に食事を取りに行く時に調理を担当する人にメニューを聞いて、お食事が終わったらチェックをする。これも大事な業務の一つだ。


それとは別にお嬢様と同じメニューを食べれるのは完全に侍女の特権らしい。正直すごく嬉しい。


だが、前のページを遡っていくと前の侍女が書いたものなのだろう。食事にあまり手をつけていないことが記されていたのが心配になる。年齢に合わせて食事の量も調整されており、手をつけていないというのは健康面で不安を感じてしまう。


「よいしょっと……」


何冊もあるそのノートを棚から引っ張り出す。何か分かることがあるかもしれない。食事を済ませ、ノートとにらめっこしていると、あっと言う間にお嬢様の食事を下げる時間が来てしまった。


「お嬢様、失礼します。お食事をお下げします」


中へ入ると相変わらず天蓋は下りたままだった。しかしテーブルに置いた皿を見て、


「全部お召し上がりになったのですね!」


と嬉しくてつい思っていたことが声に出てしまった。


その言葉に、ほのかな明かりの中で読書をしていた天蓋越しのお嬢様がそっと本を置く。


「あっ、また大きい声を出してしまいました……申し訳ございません、すぐお下げしますね」


またやってしまったと後悔しながらせっせと空になった皿を盆に載せていると、ふと視線を感じ顔を上げると、天蓋越しにお嬢様がこちらを見ているような気がした。


「……お嬢様、今日のご夕食のお話をしますね」


手を止めて、目線が合うように腰をかがめて声をかけると、えっ……と戸惑ったような声が聞こえた。


「実は私も僭越ながらお嬢様と同じメニューを頂いたのですが、どれも本当に美味しくて!私が一番好きになったのは茹でていた海老ですね、感動したんです。プリッとした歯応えに謎の美味しいソースが絡まってて、今まで食べた海老の料理の中で圧倒的なナンバーワンでしたねぇ」


つい熱く語って、本題から逸れてしまう。


「ああ、ええとつまり何を言いたいかというと。お嬢様のお好きな食べ物を教えて頂きたいのです」


グイグイ行き過ぎだろうか……だが今まであまり食事に手をつけなかったお嬢様のこれからのためにも知っておきたい……


緊張を隠すようにスカートをぎゅっと握る。しばらくの沈黙の後、小さな声が返ってきた。


「……わからない、なにがすきなのか。……でも、きょうのしょくじはあったかくて……っもう、いいかしら?」


これ以上の会話を拒むように、また本を開く。


「ありがとうございますっ、読書中に大変失礼しました。……でも、お嬢様とお話が出来て嬉しいです。何かあればお呼びくださいね。すぐ参りますので」


皿に載せた盆を持ち、頭をぺこりと下げてから部屋を後にする。


へんなひと……。


本から顔を上げて侍女が出て行った扉を見やる。


自分と話が出来て嬉しいと、そう言っていた。


複雑な気持ちが交錯するのを誤魔化すように、本を置いて布団を頭から被った。














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