第12話

「助けて頂いて本当にありがとうございます!」


食事や甘味が楽しめる昼時で賑わう大衆向けの店内で、向かいに座って香ばしい匂いをまとった大きな肉にばくっとかぶりついてる男性に深々と頭を下げる。


「いいって、こうしてうまい飯をご馳走になってるわけだし」


もぐもぐと頬張りながら話している様子はまるで頬いっぱいに餌を詰め込んだリスのようだ。


「大丈夫か」


そう声をかけてくれたのが目の前にいる彼だ。その場にへたり込んでしまった私に手を差し伸べ、


「怖かったな、ここは物騒だから表通りに出る。立てるか?」


そうしてふらふらな状態になっている私のペースに合わせて歩き、幾度か道を抜けると見覚えのある人通りが多く活気溢れる通りまで案内してくれた。


「よし、もう裏に入らないようにな」


そう言って去ろうとする、慌てて風になびく彼のマントを掴む。


「まっ、待ってください……お礼をさせてください!」


そこからは気にしなくていいと言う彼と、絶対にお礼がしたい私との押し問答が繰り広げられ、何を勘違いしたのか通りすがりの恰幅の良いおじ様が笑顔で、彼女のお願いは素直に聞いとくもんだよ。これが仲良しの秘訣だからと謎の助言を受け、観念した彼がじゃあ飯でも奢ってもらおうかなとなり、今に至っている。


聞けば先程の通りはこの辺りでも随一と噂される治安の悪い場所で誰も近寄ろうとはせず、そもそも表通りからはよっぽど奥に進まないと辿り着けないところらしい。それなのに一発でそこに迷い込んでしまう方向音痴スキルの高さを持つ自分が憎い。


でもどうしてそんなところにいたんですか?と聞くと、まぁそういう場所でしか得られない情報があるんだと肉をペロリと平らげながら言っていた。一体どんな情報なのか気にはなるが、なるほどと納得することにした。


逆に私はどうしてあんな場所にいたのかと問われ、歩いていただけなのに迷い込みましたと素直に答えるとぶふっと吹き出していた。私だってあんな場所に迷い込みたくなかったですよとぶぅとふてくさせると、それはそうだよな、笑って悪かった。これやるから機嫌直せと、食後のサービスでついてきた弾けるような色のレモンゼリーを差し出してきた。そう言うなら……とありがたく受け取り食べると、爽やかな酸味とはちみつの程よい甘さが幸せを運んでくれる。


「うまそうに食べるんだな」


そう言って彼は楽しそうに笑っていた。





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