キングオブイクメンは怖い?

「あら!楽美さんこそ!貴方、常に妊娠してるじゃない。交尾、妊娠、交尾、妊娠って。せめて産んでから妊娠出来ないの?いくら何でも節操無さ過ぎよ。今だって出産前から妊娠してるんでしょ? 」


「何よ!こっちだってたまには子供がいない身軽な状態になりたいわよ!でも子宮が二つもあるから産む前にまた妊娠しちゃうのよ! 」


「だったら交尾を休めばいいだけでしょ!楽美さんの方がよっぽどふしだらだわ! 」


「うちはアザミさんとこみたいに雄雌取っ替え引っ変えしてないわ!浮気する暇なんてないぐらい夫婦仲が熱いのよ!羨ましいでしょ! 」


「何ですってーーーー」


「そこ!喧嘩しないでーー」


「なーになーに?雄ってなーに? 」


「ぅるっせーんだよ!外に出やがれ!ガルルルルーー」


「静かに!静かにーー皆さん落ち着いてーー」


 楽美さんとアザミさんの諍いが雌達に連鎖して、セミナー会場は大騒ぎになってしまった。


────


「ただいま」


「お帰り!五郎ちゃん。セミナーどうだった? 」


「うん……何か……疲れた……帰ってたんだね」


 僕は乙姫ちゃんの顔を見て脱力した。


「大変!座って休んで!ふらふら散歩してたらプランクトン貰ったの。食べて元気出して」


「誰に? 」


「イルカよ。くれたのはルカ君って子。他にも大勢いたわ。雄ばかり。海の生き物同士助け合おうぜって」


「雄ばかり?仲良くしようって?それナンパじゃないのかい?何もされなかった?フォレストのどこ?もう、其処に行ったらダメだよ! 」


「五郎ちゃん、ムキにならないで。フォレストのどこって言われても。此処は俺達のハッテンバだって言ってたかなあ。雌は一匹もいなかったから雌には興味ないんじゃないかしら。ともかく何もされてないしプランクトンくれたんだから良いイルカさん達だわ。それよりセミナーよ。皆と仲良くなれた? 」


「う……うう」


「五郎ちゃん、やだ泣いてるの?何か嫌な事言われた? 」


「違う……違うよ。色んな思いが込み上げてきちゃって。別に悪い動物はいなかったよ。一匹除いてだけど……みんな僕を励ましてくれて……ただ……乙姫ちゃんの顔見てホッとして……」


「五郎ちゃん……好き!ぶちゅー」


 お互いの気持ちが高まって緩やかなダンスを踊った後、僕は落ち着きを取り戻してセミナーであった事を話した。


「あはは、本当に色んな動物いるのね」


「その中で気になったのが花さんっていうブチハイエナなんだ。どう見ても雄にしか見えないのにお腹が膨らんでた」


「じゃあブチハイエナは雄でも妊娠するのかも。聞いてみた?雄か雌か」


「聞ける訳ないじゃないか!凄い狂暴で目が合うと睨むんだから。そんな事聞いたらきっとこのプランクトンみたいに食べられてたよ」


「……そんな怖い目に……別にいいじゃない。タツノオトシゴが雄で出産するって知られても慣れれば皆何とも思わなくなるわ。少数派だからって気にする事ないわよ。大事なのは分かり合える相手を見つける事で雄で出産する動物を見つける事じゃないと思うの」


「うん、確かにその通りだけど、少数派過ぎるっていうか……出産が不安だからじゃなくて他の雄でいないのかなあって、それは思ってしまうんだ。それでね。ラッコの心愛さんに教えて貰ったんだけど──」


「何を? 」


「フォレストの外れにKingofイクメンって呼ばれてる動物がいるらしいんだ」


「キング……何だか強そうね」


「僕は明日、その方に会いに行ってみようと思ってる」


「大丈夫かなあ。ブチハイエナみたいなのだったら……」


「いや、流石にそれはないよ。心愛さんの話しだと心が広い動物なんだって。ラッコのママ達は皆ワンオペだから助かってるって言ってたよ。きっと色んな事を教えてくれるよ」


 そう言いながらも僕はドキドキして夜、中々眠れなかった。


───


 翌朝、乙姫ちゃんと日課のダンスの後、海の底では中々拝めない綺麗な太陽に見守られながらKingofイクメンの元へと向かった。


 丸めた尾っぽで飛び跳ねながら進んで行くと様々な動物達と途中、何度も出会った。


「おはようございます」


「おはようございます」


 気さくに挨拶をしてくれるのに笑顔で返す。

 ママセミナーでは大変な事になったけど、楽美さんとアザミさんはいつもあんな感じよと、心愛さんが後で教えてくれた。


 直ぐにケンカするけど仲直りも早いって。


 まだ此処に来て間もないけど、何だかんだ言ってママセミナーで言葉を交わした動物達は花さん以外は優しかったな。


 空には太陽、道端の草木に目を移せばカタツムリの親子。

 向こうからのんびりやってくるのはカバだ。


 おっと!踏まれないように気を付けないと。


「おはよう! 」


 カバ達は小さな僕の姿にも気付いて挨拶してくれた。


 確かに此処は動物達にとってのユートピアなのかもしれない。


「この辺りの筈なんだけど……」


 

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