フォレストのキングオブイクメン
心愛さんの教えてくれた場所は当に『この辺り』でざっくりしてる。
フォスレト北だの南だの二丁目だの三丁目だのと言っても何の目印も無いから参ってしまう。
皆、どうやって区別してるんだろう。
ペンギン二匹が仲良く手を繋いで歩いてきたから訊ねてみる事にした。
「Kingofイクメンって呼ばれている動物がこの辺りに住んでるって聞いたんですが、何処かご存知ないですか? 」
「君、もしかしてタツノオトシゴ? 」
一匹の雄ペンギンが質問に答えず興奮気味に聞いてきた。
「ええ、そうです。僕の名前は辰野落五郎」
「やっぱり!お腹膨らんでる。今、妊娠中?雄なのに妊娠するってホントだったんだ」
もう一匹の雄ペンギンの目も輝いていた。
興味津々な二匹の視線に僕がちょっと怯むと──
「いいなー。僕たちは卵を探してるとこなんだ」
「卵? 」
僕は首を傾げた。
雄なのに妊娠するのが「いいなー」というのは中々経験のない反応だったからだ。
「雌が産み落として放棄した卵だよ」
「それをどうするんですか? 」
益々首を傾げる。
「決まってるだろ?僕達で温めて孵して育てるんだよ」
「僕達の子供としてね」
「雄同士じゃ卵が産めないからね」
二匹が声を合わせ、仲良さそうに「ねーー」と見詰め合う。
「中々見つからないんだ。他のカップルに拾われちゃったのかも」
「僕は妊娠と言っても妻が僕の育児のうに卵を産み付けて孵ってから出産するんです。多くの哺乳類とはちょっと違うんです。だから──」
僕は自分でも何を伝えたいか分からなかったのだけど二匹が誤解してるようだと感じ、タツノオトシゴの繁殖の流れを説明した。
「君の言いたい事は分かるよ。結局、雄だけでは子供を作るのは無理って事でしょ?でも羨ましいなあ。僕も彼の子供をお腹で育ててみたいよ」
「でも……つわりとか、陣痛とか……僕は不安で……」
「だって命が自分の体内で育って行くんだよ。愛する相手の子供が大きくなっていくのを感じる事が出来るなんてサイコーじゃないか」
「弁! 」
「銀! 」
二匹はひしっと抱き合った。
「じゃあね」
二匹が弁&銀という名前であるという事が分かったところで手を振りながら笑顔で行ってしまった。
それにしても仲良しだなあ。
僕と乙姫ちゃんとどっちが仲良しだろう。
いや、絶対僕と乙姫ちゃんだ。
「あ!キングがどこに住んでるのか聞くの忘れてた」
その事に漸く気付いたけど、雄なのに出産するのを羨ましいとかサイコーとか褒めて貰えて気分が上がった僕は、のんびりキングの家を探す事にした。
フォレストの東側に位置する一体をとりあえずウロウロしてみた。
その間にも色んな動物に出会って聞いてみたけど、アッチとかソッチとか曖昧な返答ばかりで一向に辿り着けない。
そのうち沢山の子供達の声が聞こえてきたので其方に行って見る事にした。
わーわー キャッキャ
可愛らしい声が近付いてきたと思ったら、突然僕の目の前に鳥の雛が飛び出した。
円らな真っ黒な瞳にフワフワの羽毛。
黒の縦ストライプ模様。
道の脇の叢から何羽も出てきて僕は十羽以上の雛達に取り囲まれてしまった。
「だあれ? 」
首を傾げて見詰めてくる様子は愛くるしいんだけど、小さな僕よりは雛と言っても大きい。
逆に雛だから好奇心で突付かれないかと僕は怯えた。
「こら!そんなに走ったら危ないぞ! 」
逃げ出したいと思った時、声と共に叢の向こうから大きな大きな鳥が姿を現した。
ダチョウ?
その鳥はダチョウに見えた。
いや、ダチョウ並みに大きかったから鳥類に詳しくない僕がダチョウと思っただけなんだけど。
「パパ、パパ! 」
「変なの見付けた」
雛達は高い声で叫びながら、父親と思われる大きな鳥の方にヨチヨチと走って行く。
囲みが解かれてホッとした僕を直ぐに影が覆った。
「君は誰ですか? 」
はっと上を向くと大きな鳥が僕に顔を近付け見下ろしていた。
凄い迫力に呑まれてごくりと唾を飲み込む。
「ぼ……僕はタツノオトシゴの辰野落五郎。Kingofイクメンと呼ばれている動物を探しています。決して怪しい動物ではありません」
声を震わせ、何とか名前と目的を伝える。
「キング? 」
その鳥は眉毛を八の字にして長い首を傾げた。
眉毛を八の字に下げた表情は温厚そのもので、僕を見詰める瞳も優しかった。
「あはははは! 」
僕が返事を待っていると突然その鳥は可笑しそうに笑った。
「もしかして、君、心愛さんから僕の事聞いたの? 」
「はい!貴方がキングなんですか?フォレストのKingofイクメンって……」
「やだなあ。キングなんて恥ずかしいよ。そんなに大袈裟なもんじゃないけど。僕はエミューの
そう言ってエミューの笑夫さんは自分の家に僕を招待してくれた。
「雛達は全部笑夫さんの御子さんですか? 」
「ああ、全部じゃないけどね。可愛いだろう?命を削って孵した甲斐があったよ。あ……おっとごめん……ちょっと立ちくらみが……」
「大丈夫ですか? 」
と、僕は駆け寄ったものの笑夫さんの巨体を支えられる筈が無かった。
辛うじて倒れなかったけど顔色悪く笑夫さんは座り込んでしまった。
「ごめんね。あの子達はちょっと前に孵ったばかりで、卵を温めていた間は飲まず食わず用も足さずだから……まだ身体が戻ってないんだ」
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