光と影

岸亜里沙

光と影

目が覚めると、私はたくさんの人に見つめられていました。

誰もが私に羨望の眼差しを向けている感じです。

今まで味わった事のない優越感と快感。


──あれ?でも私は自殺したはず。どうして現世にいるのかしら?──


その理由はすぐに分かった。

私は転生したみたいだ。

しかも私の望み通り、八頭身の美女だった。


──これでもう誰にもバカにされないわ!──


学校のみんなに侮辱されていた私は、醜い自分の容姿が大嫌いでした。

「ブス!」

「キモいんだよ!」

いつもみんなから罵声を浴びせられていました。

それがきっかけで自殺をしました。

でも私は生まれ変わったのです。


だけどひとつ不満なのが、生身の人間ではなく、マネキンだという事。


──でも良いか!これで私は最新のトレンドファッションをまっ先に着られるのね!──


流行りのブランドに身を包み、ショーウィンドウから眺める都会まち。まるでアイドルかモデルにでもなったみたいです。

世界が私中心で回っているような気さえします。




春が過ぎ、夏が来て、あっという間にもう秋。

季節を先取りするのも、このファッション業界じゃ当たり前。


──さあ、私をご覧なさい!──


道往く人が立ち止まり、私の着ている最新ファッションを見ていきます。

テレビの取材も何度かありました。

前世ではこんなにも人々の注目を集めた事はありません。

私が着ているのと同じ服を着たもたくさん見かけます。


──でも少し寂しいのは、このショーウィンドウを抜け出して、デートとか出来ないのよね。芸能人もそうなのかしら?──



そして秋から冬へとまた季節は変わりました。

そんなある日、いつものように街を眺めていると、一人の中年女性が私の前で立ち止まり、私の方へ顔を向けました。

しかし何故かその女性は私の服ではなく、私の顔をじっと見てきたのです。


──えっ?!お母さん??──


あまりの変貌ぶりに最初は気づきませんでした。

いつも小綺麗にしていた母でしたが、今は見る影もないほどにやつれていました。

頬は痩せこけ、髪はボサボサ。化粧も疎かになり、一気に老け込んだようです。


──どうして?──


でも無理もありません。

大切にしていた一人娘が突然自殺をしたのです。

ショックからまだ立ち直れていないのでしょう。


母はマネキンになった私の顔をずっと見ています。

私の事が分かるのでしょうか?


──お母さん、私よ!ゴメンね。自分勝手に自殺したりして。お母さんが必死で産んでくれたのに、自分の身体も顔も嫌いになんかなったりして。本当にゴメンね──


今、涙も出ない自分が悔しい。

思いを伝えられない自分が情けない。


──ねえ、お母さん。もう一度、お母さんの子供として生まれたい。そしていっぱい親孝行させて──



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光と影 岸亜里沙 @kishiarisa

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