来客
僕はしばらくずっと一人、棺の中で過ごした。僕はなんてことをしてしまったんだろう。病だったとはいえ彼女を一人残して逝ってしまった上に彼女のことなんてすぐに忘れて。そのくせ自分がふと昔のことを思い出せば彼女に対してどうして思い出さないんだと怒鳴り散らして……最低だ。僕は一体どれだけ彼女を傷つければ気が済むのだろうか。今の僕は彼女にも、他の人にも合わせる顔がない。そのくらい落ち込んでいた。
引きこもってどのくらい経っただろうか。
コンコンコン。
上の方から音がした。きっと僕の墓石を叩いている音だ。ここで無視してこれ以上誰かの迷惑をかけるのも気後した僕は外に出ることにした。
あたりは夜の暗闇に覆われていた。太陽はもちろん月とすら顔を合わせていなかったので、一体僕は何日ほどこの棺の中に閉じこもっていたのかわからなかった。
僕の墓の前で待っていたのはサリーだった。僕はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
「こんばんは、ダン」
彼女も僕との距離感を掴むことができず、言葉を選んでいるようだった。
「やぁ……」
僕はそう返すので精一杯だった。2人の間にはしばらく沈黙が続いた。その沈黙を破ったのはサリーの方だった。
「一緒についてきて欲しいところがあるの。付き合ってもらってもいい? 」
どこかにいく元気はなかったが、彼女の頼みなので、断ることができない。情けないが、僕は無言で頷いた。彼女は僕に拒絶されなかったことを安心したかのように微笑んだ。
僕はひたすら彼女の後ろをついていった。その間、僕はもちろん、彼女も無言だった。一体彼女は僕をどこへつれて行くつもりなのだろうか。
彼女に連れられてやってきたのはスート村だった。今日はもう相当時間が遅いらしく、どこの家も灯りが消えていた。外にも誰もいない。彼女はスート村についてもなお、歩みを止めず、村の北西の森へと足を踏み入れた。
「……大丈夫ここ?迷ったりしない? 」
気まずさよりも不安が勝った僕は彼女の背中に話しかけた。彼女は顔をちらっとこちらに向けると
「大丈夫よ。ちゃんと下調べしてきたんだから」
と優しい口調で答えた。なんだか安心感のあるその声を僕は信じることにした。
月明かりの届かないほどの深い森を彼女と2人で進む。しばらく歩くと、前方が少し開けているのがわかった。
「あともう少しよ」
彼女の言葉もまるで飛び跳ねているようだ。こんな森を抜けてまで、彼女は僕に何を見せようとしているのだろうか。
今まで視界を遮っていた木々はなくなり、目の前に広がったのは野原だった。野花が所々にあるが、どれも暗闇だからか、眠っている。しかし上に目を移すと、そこには満天の星空が広がっていた。僕はこの情景に見覚えがあった。
「ここってもしかして……」
彼女は僕が気がついてくれたことが嬉しいようで、顔を覗き込んできた。
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