真実
僕はきた道を戻り、墓へと戻った。もう今日は何もしたくない。自分の墓の前の立つ。ダン・ボード。僕の生前の名前。墓に名前が刻まれているから、いくら記憶を無くそうが自分の名前だけははっきりとわかる。どうして僕は今更、昔のことを思い出したりしたのだろうか。これじゃあ、記憶がない方が幸せだったんじゃないかとも思う。どうしてこんなに苦しまなければならないんだろう。
気がついたら僕は自身の墓の前で膝から崩れていた。目からはゴーストになってからは流したことのない量の涙が溢れている。
雲が風に乗って移動した。それに合わせて、今まで隠れていた月が顔を出し、僕と、そして墓石を照らした。いつもよりも明るく感じたその光を泣きながら見つめる。よく見ると何かが動いている。何かを映し出しているようだった。
それは今まで見てきた夢に近い、幻覚のようだった。僕の墓石の下から現れる人影があった。それはまぁ僕で間違いないだろう。そこにもう一つの影が、外からやってきた。その影は女性のゴースト。サリーの姿だった。サリーは伸びをしている僕に声をかけた。
「あなた……ダン?本当にダンなの? 」
今とはまるで違う、控えめな彼女の姿がそこにはあった。
「えっ、えーと……」
「私よ……サリーよ!本当にまた会えるなんて……夢のようだわ。またあなたと一緒に暮らすことができるのね……! 」
彼女の言葉は喜びのあまり震えていた。
「あ、あの……」
「……どうしたの? 」
「どちら様ですか? 」
僕が放った残酷な言葉に彼女は目を見開いていた。相当ショックだったようで彼女はその場で固まってしまった。
……そう……か。僕はここでようやく悟った。
「ずっと忘れてしまっていたのは、僕の方だったのか」
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