決別
僕が彼女の眠る墓に着くと、サリーがちょうど起きてくるところだった。
「あらダン。また記憶を辿りに行くの?でもごめんなさい。今日はダメなの。前からカレンと約束していて……」
「いや。僕はもう記憶を辿る旅には出ない」
彼女の言葉を遮るように言った。
「えっ」
彼女は驚いているらしかった。確かに彼女からしたらあんなに熱心にやってたことを急にやめるとか言ったらそれは驚くのかもしれない。
「僕は大事な記憶を取り戻している」
「いいことじゃない。自分の失ったものを取り戻せているのは」
「でも、取り戻せば取り戻すほど僕は孤独になるし、なんだか虚しくなっていくんだ」
「どうして? 」
無邪気に返す彼女の言葉に僕はカチンときてしまった。
「君が……君がまるで記憶を思い出してくれないからだ!!2人で2人の大切な場所を巡った。僕はそこで起きたことを思い出すのに……それなのに君ときたらからっきしじゃないか!どうして……どうして思い出してくれないんだ……」
「……」
彼女は黙っていた。
「僕は……君と一緒に、君と過ごした大事な時間を取り戻したいのに……君は思い出そうともしてないように見える。君と過ごした時間を愛おしいと思っていたのは僕だけなんだと思えてくる。それを知れば知るほどに周りから取り残されて、だんだん一人になっていくような気がするんだ。だからもう僕は記憶を取り戻すことは諦める。自分を傷つけているようなものだから。……君とももう会わない」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ! 」
彼女は僕の言葉を聞いて慌ているようだった。
「確かに私は人間の頃のことを思い出すことができなかった……別に思い出したくないわけじゃないの……でも、どうしても思い出すことができなくて……全く思い出すことはできないけど、私、あなたを通して昔の自分を思い出せているようで嬉しくて……だからあなたと一緒について行ってたの」
「……」
「……私はあなたとの思い出を思い出すことはできないかも知れない。でも私は……あなたのそばにいたいの……それじゃあだめかしら……? 」
彼女のあの小川の水のような潤んだ瞳は僕をまっすぐに見つめている。あまりにも澄んだその視線に耐えられず、僕は彼女から目を逸らした。
「……ごめん」
僕はそう言うことしかできなかった。
「そう……わかったわ」
彼女はこれ以上食い下がってはこなかった。彼女は僕に背を向けて、歩いて行ってしまった。
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