彼女との出会い

それは昨日と同じ、僕の夢のようだった。再び過去の映像が目の前に広がった。

吹いてくる風には日の光の暖かさがあった。太陽は大地と森と、小川を照らし、元気一杯に輝いている。小川の中に、一人の男がいた。これはまた人間の時の僕のようだ。小川の中でしゃがみ、何かを洗っている。側には籠いっぱいに入れられたトマトがあった。冷たい小川の水に触れ、僕もトマトも嬉しそうだ。

「あの、すみません」

 作業をしている僕に話しかけてくる者がいた。それは白いワンピースに身を包んだ彼女……サリーだった。

「道をお尋ねしたいのですが」

 彼女は聴いた。どうやら道に迷っているらしかった。これは彼女と僕が初めて会った時だ……無意識に僕はそう思っていた。

「スート村ってどちらにあるかご存知ですか? 」

 彼女はこのスート村を目指してやってきたらしい。やはり彼女は村の生まれではなかったのだ。

「スート村ならもう近くですよ。ここを抜ければもう村があります」

「あ、ありがとうございま……」

 言いかけた彼女の体がよろめいた。僕は危ないと思い彼女のところに行こうとしたが、それよりも先に、過去の僕が彼女の体を支えた。

「だ、大丈夫ですか? 」

「ありがとうございます。随分長い道のりだったので、少々疲れてしまいまして……」

「……僕、ここで採れたばかりのトマトを洗っていたところなんです。これが終わったら村に戻ります。よかったら一緒に行きませんか? 」

 過去の僕はそう提案した。

「全部洗い終わるまで、休憩していてください」

「じゃあお言葉に甘えて。休んでいるうちに連れも追いついてきそうですし」

「連れ? 」

 言われてみれば長い道のりだったという割には彼女は荷物を持っていなかった。過去の僕は連れという言葉に引っ掛かりを感じているようだ。今の僕も少し心がざわざわした。

「馬車でここまで連れてきてくれたうちの雇いのものです。この一本道、馬車だと通れないので、馬車を近くで寄った宿に預けにいってもらっているんです」

 雇いのものと聞いて僕も、そして過去の僕も胸を撫で下ろす。

「ところでお姉さん……」

「そういえば名前を言っていなかったわ。私はサリーよ」

「サリー。よろしく。僕はダンだ。サリーはどうしてスート村に? 」

 馬車や世話役を雇っているなんて相当なお金持ちだろう。そんな彼女がこの何もないスート村に一体なんの用があるのだろうか。

「ここには療養のためにきました。幼い頃から喘息があって、今でもなかなか治らなくて。街の埃っぽさが余計に悪くしてるとお医者様に言われたので、遠い親戚が暮らすここでしばらくお世話になることになったんです。ここは空気も澄んでいるし、何よりも山の神様が近くにおられますから」

 療養ということはしばらくの間、彼女がいるという事実に、過去の僕は喜んでいるようだった。頭の中にふと昔の感情が思い出される。僕は彼女に会って、彼女に一目惚れしたんだ。少しばかり体の動かし方を忘れてしまった人間の僕は、彼女に採れたばかりのトマトを差し出した。

「一つどう?僕が育てたんだ。採れたばかりでおいしいよ」

「ありがとうダン」

 彼女がトマトを受け取ってくれて、そして彼女が笑顔で自分の名前を呼んでくれて、過去の僕はあれだけ緊張で固まっていた体がほぐれた、いや、今度は立っているのがやっとなくらいふにゃふにゃになってしまったようだった。

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