夢から覚めて
「ねぇ、ちょっとダン!!私の声聞こえてる? 」
「……! 」
気がつくとそこは暗闇のスート村だった。今見ていたのは過去の記憶なのだろうか?
「……」
手のひらにはあの牙が載っている。牙を持ち上げてまじまじと見る。そこに刻まれていたのはダンとサリー、人の名前だった。
「どうしたの?一体? 」
サリーは心配そうに僕の顔を見ている。
「……僕、一体どうしてた? 」
「その牙を持った瞬間、なんかぼーっとしちゃって。私がいくら声かけても全然反応してくれなかったんだよ。もう、心配したんだから!」
「……昔のことが急に目の前に広がったんだ」
僕はなんとか声を出して、彼女に今起きたことを伝えようとする。
「え? 」
「これは僕たち夫婦が作ったものなんだ。お隣さんに大狼の牙をもらって、僕ら2人が毎日無事うちへ帰って来られるようにって一緒に名前を刻んだものなんだ」
「そうなの? 」
サリーの返事には困惑と驚きが混ざっていた。話しているうちに意識がはっきりした僕はあることを思いついた。
「ねぇ、サリーこれに触ってみてよ!僕と同じように、もしかしたら君も、これを触ったら生きていた頃の記憶が戻るかもしれない! 」
僕の勢いにどうしたらいいかわからない、という顔をしながらも彼女は差し出された牙を手に取った。しかし目の前にはキョトンとする彼女がいるだけだった。
「……ごめんなさい、何も見えないわ」
いつもとは違う、まるで僕が夢にみたサリーのような落ち着いた声に、僕の心はハッとした。それと同時に、なんだか申し訳ないことをしてしまったような気持ちになった。
「ご、ごめん。あまりにも突然、昔の風景が頭の中に広がったものだからちょっとびっくりしてしまって……」
「大丈夫。気にしないで!そりゃ、急にその夢?ってやつを見たら誰でも驚くわ」
彼女の言葉はいつもの、ゴーストの、どこか幼さが残る可愛らしい彼女に戻っていた。
「あなたの夢が、記憶が確かなら、ここは私たちが昔住んでいたお家だったのね。それにしても、どうして私たちが残したこの牙が、他の人が住んでいる今でも残っていたのかしら? 」
「住んでいるのが僕らの孫なのかもしれない。僕たちを忘れないようにって残してくれているのかも」
ただの思いつきだったが、言ってからあぁ、これは僕の願望なんだなと気がついた。
「さぁ、とりあえず今日はもう帰ろう。空が少し明るくなってきた。うちまで送るよ」
「ありがとう! 」
ただ送る、と言っただけなのに彼女はなんだかくすぐったそうな笑顔を浮かべた。黎明の光が僕たち2人のゴーストを包んだ。
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