花の香りに包まれて

 ふと目を覚ます。目の前に広がっているのは明るくて、暖かな景色。優しい日の光が僕を照らしているのを見て、あぁこれはまた夢なんだなと気がつく。

「あら、目が覚めちゃった? 」

 青い瞳がこちらを覗いてきた。また例の彼女だ。今日は随分と距離が近い。あまりの顔の近さに驚いてしまい、僕はパッと体を起こす。どうやら僕は彼女に膝枕されていたようだ。体が起き上がるのと同時にファサッと何かが舞い上がる。風に乗って、とてもいい香りが僕の鼻のあたりをくすぐる。目の前をひらひらと落ちてくるそれは、ピンクや白、黄色の小さな花びらだった。

「ごめんなさい。ちょっと退屈していたからつい」

 身体中に置かれた花びらは彼女の仕業のようだ。どこか見覚えのある悪戯な笑顔を見ながら、何か返事をしなくてはと僕は思った。

「いや、こっちこそごめん。随分と長い時間眠っていたみたいで……」

 これは自分が喋っているのだろうか?それとも過去の自分の言葉なのだろうか。夢の中のせいなのか、僕の意識はどこかふわふわしていた。

「疲れているのよ。今日はゆっくり休んでちょうだい」

 僕は疲れているのか。そういえば体がいつも以上に重たい気がする。

「そうだけど、君の笑顔を見たら、なんだか体が軽くなってきたよ」

 これは今自分が思ったことだ。彼女の笑っている顔を見るとまるで重力なんてものがなくなってしまったかのように体が軽くなっていく。

「そう?じゃあお昼にしない?」

 彼女はそう言って側に置いてあったバスケットを僕と彼女の間に持ってくる。中には卵やハム、きゅうりなどが挟んであるサンドイッチがたくさん並べられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る