第2話:王家のお城にて

 それから数日後、王家のお城にて。

 近いうちに、舞踏会と称して、第三王子であるエトワール王子の成人を祝うパーティが開かれることとなっていました。パーティは成人祝いであり、同時に、婚約者を探すための式でもありました。しかし、王子はパーティに乗り気ではありませんでした。何故なら彼には既に心に決めた人が居たからです。


「まぁ、お兄様ったら。それなら早く父上におっしゃればよろしいのに」


「ああ……だから今から言いに行く」


「で? お相手はどんな方ですの?」


「……ルクス」


「ルクス? あの?」


「そう。お前もよく知るあのルクス」


 エトワール王子が自分の恋人だとあげた名前は、二人の幼馴染であり、王家に仕える従者でもあるルクス・スターチス。彼は男性です。エトワール王子は、自分は同性愛者であり、女性を愛せないと双子の妹であるステラに打ち明けました。するとステラは目を丸くして「わたくしもですわ」と自身が同性愛者であることを打ち明けました。


「は?」


「わたくしも男性を愛することができませんの。父上にはもうお話ししましたわ」


「えっ、父上なんて?」


「『では、やはり法律を見直さないといけないな』と」


「は?」


「同性婚を法制化するために動いてくれるそうです。父上はわたくしを溺愛しているので」


「自分で言うなよ。てか、えっ? 本当に?」


「元々、国民から声が上がっていたのです。『同性同士の婚姻を認めてくれ』と。父上はそれをちゃんとお聞きになっていたのですわ」


「そうだったのか……父上はてっきり保守派だと……」


「保守派の貴族の反対があるからそう簡単にはいかないとは言っていましたが……時期国王となられるレグルスお兄様も同性婚について前向きです。保守派の貴族の中にはルクスの父上もおりますが、むしろ好都合ですわ。彼は野心家ですから、息子が王家に入ると知れば喜んで手のひらを返すのではないでしょうか。国民のほとんどは同性婚の法制化について前向きですしね。お兄様がゲイだとは思いませんでしたが、わたくしにとっては好都合ですわ。そうと決まれば早速お父様にカミングアウトですわよ」


「ま、待てステラ」


「何ですの?」


「……明日のパーティーは俺の婚約者を決めるためのパーティーだ。俺に既に心に決めた人がいると知ったらパーティが中止になってしまったりしないだろうか」


「楽しみにしている国民も多いだろうから中止にはしたくないと?」


「ああ」


「何のために開かれるパーティかなんて、国民には知らせていないから大丈夫ですわ。兄様に恋人が居ようとも、国民を騙したことにはなりません。だってお兄様、自分は異性愛者だなんて一言も言ってませんもの。勝手に勘違いして見初められると期待する方が悪いのですわ」


「……お前、相変わらず強かだな」


「ふふ。褒め言葉として受け取っておきますわね。それで、お兄様。わたくし一つお願いがございますの」


「……嫌な予感しかしないが聞いてやろう」


「舞踏会でルクスと踊って、彼と恋仲にあるとカミングアウトしてくださいな」


「うぇぇ……本気で言ってるのか? それ……」


「国民の八割は同性婚の法制化を望んでいます。恐らく、パーティ客の中には同性愛者もいるでしょう。彼らの手前、保守派貴族は声を上げづらいと思いますわ。国民からも王家からも嫌われたくないでしょうから」


「……そう上手くいくか?」


「大丈夫ですわ。レズビアン仲間の友人達も大勢参加しますから」


「お前、いつの間にそんなコミュニティを……」


「ふふ。考えておいてくださいね。お兄様」


 エトワール王子と別れ、ステラ王女は自室に戻ります。そして、以前街でぶつかった少女に想いを馳せます。

 そう。ステラ王女は、以前エラがぶつかったスピカという貴族の娘だったのです。スピカというのは王女であることを隠すための偽名でした。その時付き添っていた従者がエトワール王子の恋人であるルクスです。


「あの子、舞踏会に来れるのかしら……ドレスとか持っているのかしら」


 名も知らぬ少女にもう一度会いたい。そう、星に願いを捧げて眠りにつきました。

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