第14話 追跡捜査

 「あの女とはどのような関係だったのでしょうか?」格納庫の一角に設置されたプレハブの1階の長テーブルを挟み向かい合って座っている江本係長が木佐貫に訊いてきた。

 食堂から千賀子を追いかけて出て行ってからの事の顛末を話し終えてからの問いに、木佐貫は暫し答えることができずにいた。テーブルをぼんやり見詰め、千賀子の心配をしていた。死んでしまったとは思いたくない。もし、生きてまだ逃げているとしたら、濡れた体で寒い思いをしているんじゃないだろうか。捕まったらどうなるんだろうか。そんな思いだけが脳裏を過っていた。

 千賀子が自分を利用してブルーファルコンの情報収集をしていたのだろう。その行為に対し普通であれば怒りのような感情が込み上げてくるのかもしれないが、木佐貫にはそのような感情が湧き上がることは無かった。千賀子を案ずる思いが先に立ってしまう。

 江本は答えを待ちながら木佐貫を観察するように見ていた。ここへ富樫に案内されて来る途中、木佐貫がどのような人物なのか少し聞いていた。ブルーファルコンには開発当初から関わっており途中から主任設計士に昇格し、基地内ではブルーファルコン以外の事を話していたのを聞いたことがないほどブルーファルコンの開発に没頭していたと聞いた。

 そんな木佐貫があの女とどんな関係だったのか。スパイと知っていて関わっていたのか、それとも知らずに関わっていたのか?

 いや、知らなかったから今ここにこうして居る。

 虚ろな表情で瞳がゆっくり左右に動いている木佐貫を見て、

 「木佐貫さん、・・木佐貫さん」と江本は呼び掛けた。

 「はい・・」力の無い返事だけが返って来た。

 「私たちは、あなたがあの女に協力していたとは思ってはいないのですよ。あの女がどのようにして諜報活動をしていたのかを知りたいだけなのです」

 「はい」相変わらずの返事だけが返ってきて虚ろな表情のままだった。ブルーファルコンの開発に一途な男があの女の事を話してからからどうも放心状態にあるのはなぜだ?もしや、

 「あなたはあの女と深い関係にあったのではありませんか」と尋ねてみた。

 木佐貫は、はっと目を見開き江本を見た。

 「そうでしたか。木佐貫さん、先程からあの女の事を心配しているのですね」

 木佐貫は無言のまま再び視線を落とした。

 「我々の情報ではあの女はCIAの中でもトップレベルの諜報員らしいのです。ですから生きてまだ逃走しているものと思って捜索しています。捕まえてどういう状況で諜報活動をしていたのかを調べるためです。ですが、そこまでなのです。今の我が国の法律ではあの女を罰することはできません。むろん、事故等の処罰は道交法によって受けることになるでしょうが、最終的にあの女はアメリカに帰ることになるでしょう」

 「え?そうなのですか」

 「はい。木佐貫さんも一緒です。もし、あなたがあの女がスパイと分かっていて協力していたとしても、民間人であるあなたを罰することはできないでしょう。残念ながらそれが今の日本の現状なのです」

 木佐貫は安堵した。だが、もし千賀子が捕まれば厳しい尋問が彼女を待ち構えている。それを思うと、どうかこのまま逃げ果せてほしいと思った。それが木佐貫の本心であった。愚かな考えだとは思いつつも、千賀子がただ単にブルーファルコンの情報を得るためだけに自分とあの部屋で時間を共に過ごしたのではないと思いたかった。

 「ですが、我々としてはあの女がどのようにして諜報活動をしていたのかを調べなければなりません。あなたにとっては、話したくない事なのかもしれませんが、このような事がまた起こらないようにするためなのです。協力していただけないでしょうか」

 諜報活動と言われても、木佐貫には千賀子がそのような事をしていた素ぶりや疑わしく感じた事さえ無かった。何をどう話せばよいというのだ?千賀子と初めて会ったのは・・、

 「彼女と初めて会ったのは9月の始め、仕事帰りに立ち寄ったスーパーでした」木佐貫の口から思い出を独り語りするように声が漏れ出た。自分がアパートで独り暮らしだと言うと夕食を作りに度々来るようになり、部屋の合鍵を彼女に渡した事。それからは自分が仕事から帰ってくる前に彼女がアパートで夕食を作り待っていてくれるようになった事。そして、この頃から時々泊まるようになった事などを静かに話した。

 木佐貫がひと通り話し終えると、メモを取りながら聞いていた江本が、

 「部屋には戦闘機の、そのブルーファルコンでしたでしょうか?」と尋ね始めた。

 「はい」

 「それに関する資料とかは置いてあるのでしょうか?」

 「はい、あります」

 「それではあの女があなたが帰ってくる前にそれらを見ることは可能ですか?」

 「ええ」

 「見られた形跡とか、無くなった資料とかはありましたか?」

 木佐貫はほんの少しの間考え、「いや、ないと思います」と答えた。

 「では、あの女の住んでいた所はご存知ですか?」

 「いいえ」

 「そうですか、では、あの女がここの、松島基地以外の人と会っているところを見たことは無いですか?」

 「ないです」

 「あの女にブルーファルコンのことについて話した事はありますか?例えばテスト飛行の日程とか性能などについて」

 木佐貫は暫し千賀子とどんなことを話していたか思い返してみた。確かに、自分がブルーファルコンのテスト飛行のデータ等を取る為にここにやって来た事などは話したが、ふだん仕事の話をした記憶がなかった。ブルーファルコンの翼に不具合が生じて帰りが遅くなった時も、「トラブルがあって遅くなった」ぐらいの事しか話さなかった。ああ、「明日テスト飛行がある」と言った事があったような気もする。しかし、そんなことが重要なことなのか?千賀子はまったく感心なさげで、詳しく訊いてこなかった。

 話したことと言えば地元の食べ物の事や、「松島が近いから今度二人で行こうね。松島に行ったら島に架かる赤い橋は渡らないようにしようね、恋人同士だったら別れちゃうって言う言い伝えがあるの」などと言った他愛もないことがほとんどだった。そんな会話がかけがえのない幸せな時間だったと懐かしく感じる。こんな事になるんだったら早く松島に行っておけばよかった。千賀子と二人ならきっと楽しかったはずだ。自分が今までに経験したことがないくらいに。

 「彼女に明日テスト飛行があるから帰りが遅くなるというようなぐらいのことは言ったかもしれません。ただ・・」

 「ただ?」

 「ただ、そこまでなのです。詳しく訊いてくる事はありませんでした。彼女は他愛もないことを話し、私はそれを聞いている。それだけでした」

 「そうですか、なんら不審なことがなかったということですね?」

 「はい」

 「木佐貫さん、部屋を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

 「はい、構いませんが」

 江本は木佐貫の部屋にあるというブルーファルコンの資料に興味を持った。これまでの話からするとあの女が木佐貫の口から重要な情報を直接得ていない事が窺えた。とすると、木佐貫の部屋にあるというブルーファルコンの資料から情報を得ていたのではないかと思ったのである。それともうひとつ、木佐貫の部屋の鍵を千賀子が持っているならば、逃走時に木佐貫の部屋に立ち寄る可能性もあった。

 「富樫司令の承諾は得ていますので、早速よろしいでしょうか?」

 「はい」

 木佐貫はプレハブの2階にいる伊藤に声をかけると、江本と連れ立ってアパートへと向かった。

 その頃、山田主任は北上運河周辺での捜索を石巻警察署員に任せ、宮城県警から捜査応援で来ていた矢口と共に千賀子が借りていたアパートを調べていた。松島基地で臨時採用した際の履歴書に記載されていた住所に行き、アパートの大家を探し出し部屋を見せてほしいと頼むと、千賀子はもう既にアパートを引き払ったと言う。大家が言うには、

 「一昨日の夜、急に部屋を出ていかなければならなくなったから、と挨拶に来たんですよ。まあ、今月の家賃は前もって頂いていたので、引っ越しはいつするのって言ったら、もう荷物は運びましたからと言って鍵を返してよこしたんですよ。」ということだった。

 山田が大家に鍵を開けてもらい千賀子が住んでいたと言う部屋に入った。荷物などは無く、塵一つ落ちていない程きれいだった。

 「貸す前のままで、ここでほんとに生活していたのかなっていうほどきれいなんでびっくりしたんですよ。こちらとしては助かりますけどね」と大家が言うのが頷けた。

 山田は部屋をひと通り調べてみたが手掛かりになるようなものは何も無く、この状態では千賀子が逃亡中にこの部屋に立ち寄ることも無いと思った。そして、この二日間千賀子はいったい何処から松島基地に通っていたのだろうかと思案した。

 「この町にホテルや旅館は何件あるのか分かりますか?」と同行していた矢口に訊いた。

 「さあ?小さな町ですのでそう多くは無いと思いますが、電話帳で調べてみましょうか」

 「至急調べてあの女が泊まっていたかどうかを確認したいのですが」

 「では、矢本交番に行って調べましょう。この近くですので」

 山田は大家に礼を言って矢本交番へ向かった。交番に着くと二人は事情を説明し、電話帳を借りて早速片っ端から電話を掛け始めた。

 「警察署の者ですがお伺いしたいことがありまして・・」山田は25歳から30歳ぐらいで身長が165センチぐらいの細身の女性が一昨日から宿泊していないかを尋ねていった。

 山田が3件目に電話しようとした時、

 「主任、それらしき女が泊まっていたと思われる旅館が見つかりました」と矢口が叫ぶように声を発した。

 「本当か?」

 「はい、30分ぐらい前に帰ってきてすぐチェックアウトしたそうです」

 「場所はどこだ?」

 矢口は交番署員に「美好旅館の場所を教えてください」と尋ねた。

 「ああ、美好旅館だったらこのすぐ近くですよ」と、その署員は場所を説明しながらメモ用紙に簡単な地図を書いてくれた。

 その地図を受け取り山田と矢口は「ありがとうございます」と署員に礼を言うと急いで美好旅館へ向かった。

 国道45号線沿いにある矢本交番の北側の裏手に美好旅館はあった。車で3分とかからず到着した山田と矢口は旅館の正面玄関前に車を止め中に入って行った。矢口が玄関から「すみませーん」と奥に向かって呼び掛けると、50歳ぐらいの女将らしき女性が現れた。

 「先程電話で伺った女について聞かせてください」と矢口は身分証をその女性に見せながら言ったそのすぐ後に続けて、

 「この女ではありませんでしたか?」と山田が内ポケットから千賀子の写真を取り出しその女性に見せながら矢継ぎ早に訊いた。

 二人があまりに急いでいる様子で、しかもただならぬ形相で訊いてきたものだから女将らしき女性はたじろいで、

 「何かしたんですか?あの人」と逆に二人に訊き返した。

 「ええ、ちょっと・・」と言葉を濁し「どうでしょうか?」と山田は写真を女性の方にさらに突き出した。

 女将らしき女性は気持ち悪そうな表情で二人を交互に見て、それから視線をその写真に向けた。写真に近付けた顔を、今度は視点を合わせるように遠ざけ目を細めた。

 「そうねぇ、似ているかもしれないわねぇ」

 「どこに行くか言っていましたか?」

 「いえ、何も。でも左の方に行ったから駅に行ったんじゃないですか。よくわからないですけど」

 「駅って?」

 「左に真っ直ぐ行くと広い通りに出るのでそこを右に折れると正面に矢本駅が見えますよ」

 「ありがとうございます」山田は礼を言うと写真を仕舞い込みながら外へと駆け出した。矢口もあわてて「失礼します」と女性に言い残し山田の後を追い車に乗り込んだ。矢口が乗り込むのを待って車を出した山田は旅館を出てすぐ突き当たった大通りを右に曲がった。正面に矢本駅が見え、さほど大きくない駅舎の向こうに電車が停まっているのが見えた。

 「電車が来てる。急ぐぞ」車を正面入口の前に止め、駅構内に脱兎のごとく駆け込むと電車の出発を知らせるベルが鳴り響いていた。

 「警察の者です。中に入れてください」身分証を改札の駅員に見せ構内に入ると電車のドアは既に閉まっていてプラットホーム上には数人が残っているだけだった。山田は電車に駆け寄り窓から中を見ていった。夕方の時間帯という事もあって車内は込み合っていて一人一人を見分けることは容易ではなかった。さらに、電車がゆっくりと動き出してからの見極めは一層困難になったが、それでも山田は自分を轢こうと向かってきた千賀子の顔を思い浮かべ電車を追いかけながら懸命に窓の中を覗き込み探した。やがて顔の判別ができない車速になりホームから最後の車両が離れていった。

 仙台方面に向かって走り去った電車の最後尾をホームの端から見つめ、「くそ、またしても」と呟くと振り返り、改札口へと走って向かった。

 「すみません、この女があの電車に乗ったかどうか見ませんでしたか?」と改札の駅員に千賀子の写真を見せ尋ねた。駅員からは、混んでいる時間帯でよく分からなかったという答えが返って来た。

 「山田さん、県警から仙台駅に署員を向かわせてはいかがでしょう」と矢口が言った。

 「だが、あの電車に乗ったと言う確証は無いんだぞ」

 「乗っている可能性だってあるんでしょう?」

 「しかし、この女の写真は県警には無い。署員を向かわせても女の顔を知らなければ探し様がない」

 「では、矢本交番からこの写真をファックスで県警に送ってはどうでしょうか?」

 「時間的に間に合うか?」

 「さあ、分かりませんが、でも、出来ることはやらないと」

 「そうだな」山田は否定的な自分を恥じた。そうだ、出来ることは全てやらないと後悔するのは自分だ。もし、電車に乗っていなかったとしても幹線道路などでは検問も実施している。すべてに網を張り巡らせなければあの女を捕らえることはできない。

 「じゃあ急ぎましょう」二人は矢本交番に向かい宮城県警本部に千賀子の写真をファックスした。県警は早速仙台駅へ捜査員を派遣した。そして、仙台駅手前の駅で電車を降りた時の事も考え仙石線の最寄り駅近くの警察署へも写真をファックスして、県警本部から各駅の捜査指示を各署へ出してもらった。これで、足取りを掴むための網は全て張り巡らした。どこかで網に架かってくれと山田は願った。


 木佐貫が部屋のドアの鍵穴に鍵を差し込んだ時、江本は腕時計にちらっと眼をやった。時計の針は4時20分辺りにあり、傾いた強い西陽が二人の背中を照らしていた。ドアを開け木佐貫が中に入り、「どうぞ」と江本に声をかけた。

 「失礼します」と言いながら中に入った江本の目が捉えたのはきれいに片づいている流し周りだった。アパートの狭い台所スペースに鍋や食器、調味料などが整然と置かれていた。水切りかごには洗ったと思われる食器に布巾がかけられているのも見られた。

 「随分きれいにされているのですね」

 「私ではありません。千賀子が・・、彼女がしていました」

 木佐貫は奥の部屋に入り、「こちらにブルーファルコンに関する資料があります」と横向きに並べられたカラーボックスを指して言った。ふたつのカラーボックスには幾冊ものファイルと航空機関連の専門書がぎっしりと詰め込まれていた。ファイルの背には専門用語らしき言葉が書かれており江本には何が何だか分からなかった。

 「ちょっと見てもよろしいですか?」

 「どうぞ」

 江本は数あるファイルの中の一冊を取り出し開いてみた。そのファイルは翼の設計図のようであった。断面図のようなものから内部の構造等が描かれてものもあり、余白部分には計算式なども書かれていた。

 「これらのファイルは、そのブルーファルコンの設計図なのですか?」

 「設計図もあれば、操作マニュアルとか、整備に関するマニュアルなどもあります」

 「これらを見ればブルーファルコンのすべてが分かると言うことでしょうか?」

 「いえ、私が担当しているのは主に機体に関するところなので、機体の構造はこれらのファイルを見ればほぼ分かると思いますが、それですべてではありません」

 木佐貫はブルーファルコンが電子制御でパイロットの操縦をサポートして飛行することなどを江本に簡単に説明し、その分野は木佐貫の専門外となるのでそれに関する資料はここには無いと言った。

 「それはどこにあるのですか?」

 「先程の格納庫のプレハブにあります」

 「そうですか。あの女があのプレハブに来た事はありますか?」

 「いえ」

 「分かりました。最後にもうひとつ」と言って江本は千賀子の持ち物がこの部屋に何かないか尋ねた。

 木佐貫は千賀子はここに時々泊まる程度だったので彼女の荷物は無いと言い、隣の寝室も江本に見せた。江本はひと通り見渡し押入れの扉に目を止めた。それに気が付いた木佐貫は押入れの引き戸を開けて江本に中を見せた。下の段にはプラスチックの衣装ケースが二個置いてあり、上の段には一組の布団と枕がふたつ、その上に千賀子が泊まる時に着ていたパジャマが畳んであった。

 「あの女の服とかはありませんか?」

 「このパジャマだけです」

 これではずぶ濡れになったあの女が着替えのためにこの部屋に立ち寄る可能性は低いかもしれないと江本は思った。さらに、あの女が木佐貫の車を逃走に使用したことから、我々が木佐貫との関係を調べ、この部屋に網を張っている事ぐらいあの女は見透しているだろうからこの部屋には近付くまいとも思った。

 「ありがとうございました」と言い江本は木佐貫に基地に戻るかどうかを尋ねた。

 木佐貫は神崎が持ち帰ることになっているブルーファルコンのフライトレコーダーの解析があるので基地に戻らなければならないと江本に言うと、

 「残念ながらフライトレコーダーの解析はしばらくの間はできないでしょう」とのことだった。

 「それは、私にスパイの容疑が掛かっているからということなのですか?」

 「現時点ではそれもあると思いますが、上からの指示なのです。富樫さんも防衛省からの指示でフライトレコーダーを預かっていると言っていました」

 「そうですか。・・では戻っても仕方ないですね」木佐貫は力無く肩を落とした。脱力感が一気に木佐貫に襲いかかった。ブルーファルコン墜落の後処理の疲れが溜まっていたところに千賀子のスパイ騒動が起こった。身体的疲労に加え心的動揺も受けた木佐貫を辛うじて支えていたのはフライトレコーダーを解析しなければという使命だけだったのである。

 「では、私はこれで失礼します。富樫司令には私から話しておきますので」

 返事もせず茫然と立ち尽くす木佐貫に、

 「今日はいろいろあって疲れたでしょう。ゆっくり休んでください」と言い残し江本は静かに部屋を出ていった。

 木佐貫は放心状態で一点を見つめていた。そこには千賀子のパジャマがあった。歩み寄りパジャマに手をのせ撫でると、千賀子がいつも付けていた香水の香りが微かにした。


 その日、千賀子の足取りに関する有力な情報が江本や山田に届く事は無かった。

 翌日、江本らは富樫司令から神崎が白い車に追いかけられた事を聞き、その事について調べた。白い車、すなわち猪俣が乗っていたランサーは石巻警察署に証拠品として保管してあった。石巻署の調べでは、この車は仙台のレンタカー会社が所有者で猪俣という男に長期に渡って貸し出し中だったというところまで分かっていた。

 江本と山田は、仙台のレンタカー会社に行き猪俣の免許証のコピーを入手し、その住所を尋ねてみたが住んでいたのは別人だった。このことからこの免許証は偽造されたものと分かったが、写真は本人であることがレンタカー会社で確認されたため、この写真で宮城県警から全国に指名手配をかけてもらった。

 その後、江本らは木佐貫のアパート付近での聞き込みでこのランサーらしき車が頻繁に目撃されていた事から、おそらく、猪俣が千賀子との繋ぎ役として働いていた可能性があると推測した。しかし、二人の捜査はそこまでで行詰まった。そして、千賀子と猪俣の消息も途絶えたままで何ら進展がなかった。

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