第7話 オブジェ
【機械樹の葉】
魔道具の材料となる。凡庸性に優れ、一流魔道具技師の常用素材。
『使用できます。使用しますか?』
おい、なんだ、急にゲーム始まった感が出てきたぞ。どうすればいいんだ。どうするどうする。……ま、弁当も食い終わったとこだし、いっちょやってみるか。
「使用します」
頭の中に浮かんだ文字に声を出して答える。
『何を作りますか?』
はい? 何を作るって…何を作れるんだ?
『質問を確認しました。作れる魔道具をリスト化します。
武器・防具・アクセサリー・道具・騎乗物
エラー発生。
現存環境に魔力を感知できません。
現存環境に魔力に変わる力を感知しました。
魔道具化から電気道具化に切り替えます。
作れる電気道具をリスト化します。
発電機・乗用機・通信機・投影機・変温機・記憶物・収納器』
……………
……………
……………
……うん?
エラー? 壊れた……訳ではなさそうだが。専門用語すぎるのか、単語が途中から入ってこなくなった。えっと、何だっけ。あ、発電機って言ったよな? あれか、ガソリン入れてエンジンかけるやつか。国家政策が進んで今じゃどこの家庭にも必ず常備されていると言われているが。まさか、そいつが貰えるのか? すると、俺が社会一般の仲間入りするのか? いや、でも結構な高額製品だったはずだが……いいんなら貰っとくが。
「えっと、じゃあ発電機で」
『機械樹の葉の電気道具化を開始します。目的物、発電機。使用者のイメージを確認します。完了しました。近辺に32個のエネルギー体と電気力の供給口を確認しました。エネルギー効率の最適化を行います。完了しました。物質変換が開始されます』
頭の中の言葉が止むと、目の前の機械樹の葉とやらが光り出す。葉の表面に小さなマス目状の模様が浮かび上がり、そのマス目がパタパタと折れ曲がったり戻ったりを始める。葉のあちこちで5mm程の正方形がたこ焼きにかけた鰹節の様にヒラヒラと踊る。なんだかヒラヒラしながら少しずつ形を変えているようだ。その情景が俺的にかなり楽しく、つい見入ってしまった。見入っているうちに、葉っぱの形は最終的にソフトボール程の球形の物体に収まった。
ああ、楽しかった。今までのゲームでこんな凝った演出は見たことがなかったな。で、このソフトボールはなんだ? まさかとは思うが。
【発電機】
エネルギー体に含まれる力を電気の力に変換する電気道具。使用されたエネルギー体は消滅する。
……そのまさかかよ。で、コレをくれるって事か? まあ、そうだよな。本物の発電機な訳はないよな。そんなことなら絶対にネットに載ってるはずだし。てことは、今後ゲームの何かに使えるって事でいいんだよな?
目の前のソフトボールはクリーム色で表面はツルリとしたデザイナーズオブジェクトの様にカッコいい。所々に凹みがあるがその他には模様も何もない。
とりあえず、説明だけでは使い方もわからないので手に取って眺め回してみる。
気になる。表面にここだぞと言わんばかりに存在感を放つ凹みが3つ。怪しい。
怪しむついでに軽い気持ちで凹みに人差し指の先を架ける。すると、カチッと音がしてソフトボールの上半分がムイーンと開き出す。開ききって中が見えるようになったが、見事に空っぽだった。っていうか真っ黒だった。
これはどうすればいい。宝箱じゃないのは確かだが。あれ? さっきなんて書いてあったっけ? 忘れた。ごめん、再VR鑑定。
【発電機(蓋開き)】
エネルギー体に含まれる力を電気の力に変換する電気道具。蓋が開いている状態。エネルギー体を入れて蓋をすると発電を開始する。使用されたエネルギー体は消滅する。
おお、さっきよりも詳しいじゃないか。なるほど、これは蓋だったのか。で、この中にエネルギー体というものを入れればいいんだな。冷蔵庫関係では他にあるものと言えば、ゴミと魔石。まあ、魔石の方だろうな。火力発電ならゴミの方だろうが。
ということで、机の引き出しから魔石袋を引っ張り出してくる。テレビの番組はもう別のものに変わってしまっている。そろそろ、風呂の時間なんだが、魔石入れたら入るか。
袋の中から【ゴブリンの魔石】を取り出す。いきなり【ホブゴブリンの魔石】を使わないほうがいい事くらいは俺にも分かる。まずはお試しで小さい方からだ。因みにVR鑑定してみたら【ホブゴブリンの魔石(血糊付き)】ではなく、ただの【ホブゴブリンの魔石】だった。発電機もそうだったが、その状態が鑑定結果にも影響するらしい。最新ゲーム機の奥深さに驚く34歳の俺。
開いたソフトボールに小さい魔石を入れて蓋を閉じる。閉じる際は手動だった。自動で閉じるとばかり思っていた34歳は、自分で蓋を閉じていいものなのか迷ったが、再度鑑定したら、蓋を閉じろと書いてあったので大人しくそれに従う。
蓋を閉じるとソフトボールはほんのり明るくなる。置いてあるのが俺のアパートじゃなけりゃイカしたオブジェになるんだろが、ここでは場違い感が半端ない。そのままオブジェはしばらくの間暖かく光っていたが、そのうちゆったりと点滅し出す。音は全く無い。見ているだけで眠れそうだ。だが、俺はまだ風呂も入ってなけりゃ布団も出してない。まだ俺の寝る時ではない。さて、ここからどうすれば……ということで、はい、鑑定。
【発電機(発電中)】
エネルギー体に含まれる力を電気の力に変換する電気道具。発電した電気力は本体に蓄積される。蓄積量が最大になると光が赤くなり、発電は自動に止まる。使用されたエネルギー体は消滅する。
よし、風呂に入るか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます