第6話 進展

「なんか大きいのが出たな」


 冷蔵庫の暗闇の中で妙に艷やかにテカる魔石をそっと指で摘む。


 大きさはこれまでの2倍ほど。これまで小指の先程だったのが今回は親指の先くらいに成長したようだ。


 遂に冷蔵庫ゲームに進展があった。


 圧縮ゴミが出てきた時には動揺したが、魔石が大きくなったのならこれは先のステージに進んだと見ていいだろう。


 だが、俺の指先は魔石の大きさを確認する以外に、その魔石の表面に妙な湿り気を感じていた。


「んん……なんか滑ってるなコレ」


 冷蔵庫から手を抜き出すと、指に摘まれた魔石が姿を現す。



「ひっ、ひいいい」


 胸と喉の間から漏れ出る音。俺は魔石とそれを摘んでいる指先を見て瞬時に後ろにのけ反る。その反動で指から離れ床に落ち転がる魔石。必死に足をバタつかせるも腰は全く動かない。生まれて2回目の腰抜かしか。


 魔石を手放した俺の指先は赤く染まっていた。「血」だ。さっきの滑りは血だったのだ。サスペンスドラマの第一発見者はいつもこれほどの恐怖を感じていたのか。今までリアクションが大袈裟だと冷めた目で見ていたが、心底謝りたいと思う。


 少しずつ冷静さを取り戻し、状況が整理されていく。そして理解した。


「あ、そうか、ゲームだったわ」


 そうだった。指先の血を見て衝撃を受けだが、目の前のこれは冷蔵庫ではなく、「冷蔵庫型ゲーム機(ネコ風味)」だ。となると、この血糊も魔石と同じVR的な何かなんだろう。


 そうと分かれば早速…VR鑑定。



【ホブゴブリンの魔石(血糊付き)】

 ゴブリンの上位種であるホブゴブリンが体内に持つ魔石。討伐者の血糊付き。激闘の跡が伺える。



 おお、なんか説明が生々しい。


 状況がわかってしまえば指先の血糊もケチャップと同じだ。舐めることは無いがさっさと洗ってしまおう。


 そのまま魔石と一緒にシンクで手を洗う。血糊の本物のような鮮やかな赤色がシンクに広がる。生きのいい魚を捌いた時もこんな感じだ。最近のVRの再現性の高さには驚かされる。


 綺麗になった指先と魔石。タオルできっちり拭き上げた魔石を机の上に置く。だが、床を見るとまだ血糊が付いている。ティッシュを水で濡らし固まりかけの血を拭いていく。血液特有の鉄っぽい血生臭さが漂う。


「そういや、応急セット買ってたな」


 リアルに再現された血の匂いを嗅いだおかげで帰宅前に買った応急セット(見切り品¥100)の事を思い出す。コンビニ袋からその小さなパッケージを漁り出すと、消費期限を確認する。流石に応急セットに期限は書いてなかったが、まあ、見切り品に手を出すときの俺なりのマナーだ。


「これ入れたてみたりして」


 応急セットをしばらく見つめ、そのまま冷蔵庫に放り込む。開封しといたほうがいいか悩んだんだが、弁当も包装されたままだった事が浮かんだからそのまま入れた。


 十秒ほどそのまま待ってみるが何も起こらないので、俺も俺のすることをする。まだ、帰ってから弁当を食っていないのだ。


 好物の1つハンバーグ弁当を食い終わり、テレビを見ながら割り箸袋の奥から押し出した爪楊枝でシーハーする。8割方シーハーが終わった頃に背後から冷蔵庫のガコン音が聞こえてくる。さっきよりも小さいが、この音があるときは何かしらのアクションが見られることが多い。


 今いいところだったのにとテレビ番組に後ろ髪惹かれつつもキッチンに移動、冷蔵庫の前に腰を下ろす。口の中だけでシーハーしながら黒いドアを開くが、そこにあったのはいつもの小さな魔石となんかゴツゴツした灰色で薄い楕円形の物体。ナンダコレハ。



【ゴブリンの魔石】……いや、そっちじゃない。



【機械樹の葉】

 魔道具の材料となる。凡庸性に優れ、一流魔道具技師の常用素材。



 いや、なんだコレは?


 


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