第5話 変化

 俺と冷蔵庫ネコとのよくわからない生活は3週間目にして急展開を迎えこととなる。


 俺はあれこれ考えるのを止め、夕飯だけ自分と同じものをネコにやることにしていた。俺の食費は純粋に1.5倍ほどで定着した。まあ、そのおかげで毎日飲んでいたビールを控えるようになったし、たばこに至っては一本も吸わなくなった。


 ネコはもうなんか分からんが俺の家の家族みたいな存在になりつつあった。ちなみに出す魔石は一日1個か2個。一度だけ0個ということもあり多少心配したが、次の日には3個と頑張った感が見られた。なんか、全体で帳尻を合わせようとする意思すら感じるネコに俺はホッコリする気持ちで共に時間を過ごしていく。その気持ちのゆとりがビールとたばこの節制に繋がっているのか。


 ある日、いつものようにバイトを終えてコンビニに立ち寄る。さすがに生温かいオーラを放ってこなくなった店員に弁当の温めを依頼する。待っている間に周りに目をやると、レジの隣には見切り品のワゴンセールがあった。時々開催されるこの特別セールは俺の寂しい財政を助けてくれる貴重な存在だ。俺はワゴンの中にごっちゃ混ぜに放り込まれている見切り品に目を通していく。


 あ、そういやこれはうちになかったよな。買っとくか。


 見つけたの簡易版の応急セット。消毒綿と絆創膏ばんそうこう、なぜか綿棒までがセットになったもの。なんと100円也。


 他にも追加で色々と購入した俺はアパートに戻ると、冷蔵庫に弁当を一つ入れる。わざわざ温めた弁当を日ごとに冷えわたる冷蔵庫に入れるのに多少の抵抗を感じない訳でもない。たが、今までそうしてきたのでこれは止めるつもりはない。なんとなく温めたものを入れたいのだ。理由はわからない。


 ところが、その日に限って冷蔵庫に弁当を入れると中から「ガサッ」と音がした。なんの音かと覗き込むと、冷蔵庫の奥半分が何かで埋まっている。俺は取りあえず入れた弁当を取り出すと、奥に詰まっている物を探る。どうもビニール袋っぽい。試しにつまんで引っ張り出してみる。意外と重量があった。


「げ、これって…」


 奥から出てきたのは「ゴミ」だった。今まで俺が冷蔵庫に入れた食べ物のゴミ。空きパックやビニール袋、弁当を包んでいたラップなんかがぎゅうぎゅうに圧縮されて塊になったもの。それが冷蔵庫の奥に詰まっていた。


 どうゆうこと?


 取りあえず買ってきた弁当を空になった冷蔵庫に入れてから、目の前で崩れかかっている圧縮ゴミを眺める。確かにすべてのゴミに見覚えがある、ような気がする……


 ゴミに付いた氷が解け出し床を濡らし始める。俺は目の前に展開するその光景に飲まれるように固まっていた。



 ふと、我に返る俺。目の前には完全に氷の圧縮から解き放たれたゴミの山。ズンと容量を数倍に増やしたていた。


 いや、ネコよ、違うだろ。俺たちは落ち着いた関係を築きつつあったじゃないか。なぜ、今更この折角築いた関係をぶち壊すような行動に出るのだ。なぜだ。


 俺の静かな叫びにネコは低いモーター音だけで答える。


 俺は冷めかかっていた弁当をそのまま冷蔵庫に入れ、目の前の濡れたゴミを片付け始める。1つずつ摘んでポイポイとゴミ袋に入れていると、新たなゴミを手に取る度にその弁当を買った日のことが思い出される、気がする。


 ゴミを片付け終えると、机の引き出しから袋を取り出す。これまでにネコが出した魔石を入れた布の袋。この魔石用に購入した袋だ。これまでの人生で初めて布袋を購入した。この経験もネコがくれたものか。しかし、一体何個あるんだ、コレ?



 ………、20、25、30からの31個。よくこれだけ貯まったな。弁当何個分だ?


 机の上に5個ずつ並べられた小石が夕陽を自由気ままに反射する。普通にキラキラして綺麗だ。こうやって並べてみると、この魔石にもそれぞれ特徴があるようだ。形も違えば重さもバラバラ。でも、全て【ゴブリンの魔石】だ。


 てか、これどうするんだろな。メーカーに送ったら何か貰えるんだろうか。駅前の金ピカ買い取り屋に持っていっても無理だろうし。まあ、どうにもならんか。


 冷蔵庫が魔石を出すようになってから、これでも暇を見てはこれについて調べようとはしてきた。だが、一向に見つかる気配がない。この超情報化社会で一片の痕跡すら残さずに存在するなんてできるのか? だが、目の前の小石と低く唸り続ける冷蔵庫は実際にそれを実現している。非常に稀有な存在だ。


 そんなことを考えながら赤い石を何気にツンツン突いていた時、相方の冷蔵庫の方から

大きな反応が起こる。


 急にガコンと大きな音がして俄に振動しだ出したのだ。これまでにもたまにガコンガコンと音は鳴らしていたが、今のはこれまでにない衝撃音だ。


 暫くして衝撃の振動が止んだので、静かになった冷蔵庫のドアを少しだけ開いてみる。


 故障か。それともこの冷蔵庫ゲームに何らかの進展の兆しか。…まさか、爆発とかはしないだろうな。


 膨らみきらない期待と重りのような不安で心が揺さぶられながらも、開いたドアの隙間から中を覗く。


 そこには妙に艶のある大き目の魔石が1つ転がっていた。






 

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