第4話 おい、ルールはよ

【ゴブリンの魔石】×3



「だー、もう、わからん。なんで3個も出てくるんだよ」


 冷蔵庫のドアを開けると赤黒く輝く小石が3つ。


 3つも入ってるんだから喜ぶべきなんだろう。本来なら。


 だが、この冷蔵庫を始めて6日目の俺にとってはとても歓迎できるものではない。


 3つの小石を片手で掴み取ると台所の上に放り投げる。小石はステンレスの上をガシャガシャとガラス音を立てながら転がり、シンクの中にこぼれ落ちていく。



 この冷蔵庫が初めて魔石を吐き出してから、俺は「如何に多くの魔石を手に入れるか」を調べようと食い物を入れていった。


 初回の魔石には幕の内弁当とつまみ、そしてソーセージコーンマヨパンを要した。


 2日目はもっとたくさんの魔石を目標に身を切る思いで弁当を2つ入れてみた。しかし、この冷蔵庫、なんと1つも魔石を出さなかった。


 3日目は資金的な理由でソーセージコーンマヨパン1つだけを入れる。すると、魔石が1つ。なぜだ?


 4日目、ソーセージコーンマヨパンを3つ入れる。もしかしたらこいつも俺と同じ、ソーセージコーンマヨパンじゃないと1日を始められないのかもしれない。

 だが、出てきたのは痛いほどの冷気だけ。どれだけ奥を探しても魔石は見つからなかった。


 5日目、冷蔵庫のことを考え過ぎていたため、バイト先の本屋で痛いミスをする。反省も兼ねて一旦冷蔵庫とは距離を置こうと何も入れなかった。


 そして6日目、目の前には【ゴブリンの魔石】が3つ。


 いや、ほんとに訳わからん。もしかして、一昔前に流行ったツンデレってこんな感じなのか。昔実家で飼っていたネコがこんな性格だった記憶がある。


 俺は冷蔵庫型ネコのドアを閉める。ネコ型〇〇といえば、困ったときにはいつも便利道具で助けてくれる気のいい奴と相場が決まっているが、この冷蔵庫型ネコは性格が尖りすぎだ。もう、俺の手に余る。こうなるとどうにかして取扱説明書が欲しくなる。


 スマホを起動させ、冷蔵庫型ネコをネットで調べる。「最新ゲーム」で見つからず、「VR」でも駄目。「魔石」「ゴブリンの魔石」「冷蔵庫型ゲーム」「冷え過ぎる冷蔵庫」「ソーセージコーンマヨパン好物」「リサイクルショップ5千円」「ツンデレゲーム機」……駄目だった。


 何故ない? こんな大掛かりなゲームだぞ。場所も取るし、継続的に金も使う。話題にならない方がおかしいだろう。そもそも、この魔石の用途はなんだよ。訳のわからない物に金をつぎ込む俺は一体何なんだよ。


 様々な疑問が持ち上がるが、それでも俺は冷蔵庫用にコンビニに向かう。ずっと一人暮らしの俺には、家の中に俺以外の意思を感じさせるこのネコに餌をやるのは何故か心が温まる感じがするのだ。もしかして俺の心の隙間を埋めてくれているのか、このネコは。


 コンビニで弁当を2つ買う。今日の弁当は唐揚げ弁当。俺の好物の一つだ。健康なんて知った事か感が半端ないボリューミーな異様を誇る。これでよく赤字にならんなと関心する程だが、まあ、それなりの理由があるのだろう。しかし、そこは掘り下げずにただ美味しく頂く。この弁当を手に取った時点ですでに健康よりも旨さを選び取っているのだ。オポチュニティコストと言うやつだ。


 ネコにもこの旨さを堪能してもらおうじゃないか。埋まりつつある俺の心のせめてもの礼だ。


 おい、やめろ店員、そんな優しい眼差し。別にそんなんじゃないから。


 いつもの店員は急に弁当を2つ買い始めた俺を「良かったね」的な目で見てくる。違うと反発したいが、そう思わせておきたいという変なプライドも横槍を入れてくる。

 ごちゃごちゃした気持ちのまま、温めた唐揚げ弁当を2つ持ってアパートに帰って行った。


 








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