第31話 「友達」という関係性が心地良いんだよね

 話題はやがて家電の話へと移った。此処で初めて、今回の引っ越し費用――と称しても良いのかはちょっと不安だね――にあてられる貯金が旅行の為だったと明かされた。明確な目的地は決めていなかったが、海外に行きたかったとのことだ。あっけからんと語られたにしては、悲壮感が付き纏った。でも、重くなりすぎる前に話は変わり、気付けば二人ともはしゃいじゃってた。僕の家の大きなテレビで映画を見る約束をしていた。

 後日、この約束は果たされた。清美君は嬉しそうに借りてきたブルーレイを持ってきた。三本も。日本の某怪獣映画の第一作と最新作とハリウッド版最新作。趣味全開じゃんというのが当時の感想で、忖度してる方だよねというのが今の感想。興味が無いなというのが本音だったけど、忖度して一緒に真剣に見た。でも、僕の理性は五時間半ももたない。言い訳していいのなら、ハリウッド版のデザインとモーションがセクシーなのがいけない。敵怪獣が繁殖してたのも助長した。飛び出すしかないよね、ピンクな発言。清美君は勿論驚いていた。が、枠に収まらないのが彼だ。ギャーハハハって大声で笑った。しかも、話を掘り進めた。かくして、僕らはYouTubeで蜥蜴の交尾を見た。頭がおかしくなりそうな流れだ。実際、箍が外れた。不健全極まりない言動を繰り返した。此処で一方的であれば悲惨な話になるが、清美君も清美君でゲラゲラ笑いながら煽った。果ては艶やかに喘ぐ真似までした。立派な共犯者だよ。人様にはお話しできないコミュニケーションを涙が出る程に笑い合ってやった。自他の境界が曖昧になって、距離感も壊れた。勢いで抱きついたら、悪戯気に足が絡んできた。鼻先が触れ合う程の近さにいたのに、関係が面倒な方に発展しないという安心感があった。ただ、ただ、「友達」としてふざけ合った。

 このように柔軟で楽しい所が清美君の良い所だ。その良さを高めているのが、気分屋という要素だ。同じようにふざけても乗ってくれない時もある。軽くあしらって露骨に別の話をする時もあれば、お嬢様と言われて当然の反応をする時もある。機嫌が最悪の時は、濁点を大盤振る舞いしながらアイアンクローをしてくる。多分それが友達という関係の上で起きる反応の底だ。つまり、初っ端から僕は底を見たことになっちゃうね。底に穴が空かないように付き合っていきたいものだね。

 話が逸れそうなので、戻そうっと。かくして僕らは目当ての電気屋の駐車場にいた。一階には駐車場と入口しかないタイプのお店だ。日光が入り込まない所に車を止めた。

 清美君と仲良く揃って入店するつもりだったけれど、ベルトを外した時に思い出しちゃった。穣芽さんの顔を。未解決の問題を。

 清美君には先に行ってもらって、僕はまだ狭い車内に籠って電話した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る