第9話 武瑠さんは酢豚が好きなんだね

 宗助さんは清美君の話を一旦終わらせると、一気に友好的に僕に話を振った。

「あんたさあ、清美のこと調べたってことは他の三世のことも調べたんちゃうの。そいつらも桜刃に入れる気じゃったんちゃうの? そん時にさっきの考えを突きつけられたんじゃろ」

「すっごーい。大正解です!」

 拍手をしながら、次の展開に身構えた。

「儂も三世はええと思うわ。見込みある奴に声かけろや」

 そう来ると思った。正直その話には乗りたい気はあった。でも、この時にすべき話ではなかった。優作さんも強張っていたしね。だから、ここはさっさと切り上げるようにした。

「第一弾で一番見込みのある清美君の様子を見てからじゃないと、何とも言えませんよ! この話はその後です! おしまいです、おしまい!」

 宗助さんが唇を尖らせてむくれる。そういう表情すると童顔が目立った。いやあ、優作さんより年上には正直見えないなあ。え、アラフィフじゃん。アラフィフ⁉ 若さ保ち過ぎじゃない⁉ 人魚でも食べたの? 

 宗助さんが更に子供っぽく武瑠さんを見上げた。武瑠さんはまた酢豚を食べていた。どんだけ気に入ったんだ。

「せめてめい君だけでも声かけたらんか」

 突然出た息子の名前に武瑠さんがむせた。それから青筋を立てた。

「宗助、てめえ、こっちはこっちで上手くやっとんねん」

「溟瑠君はの、人多すぎて大雑把になっとる白金組におるより少数でじっくり育ててもらえる桜刃の方が向いとるじゃろ」

 まあ、それは確かに思うことだ。本人のやる気が有り余っているのが分かりやすいから、空回って鬱屈している現状は見ていて辛い。優作さんも同じことを思ったらしく、苦々しい顔だ。武瑠さんも思う所があったらしく、雑に喚いた。

「うるせえ。清美の話せえ、清美だ清美」

「十分したわ。次の段階進まないかんじゃろ」

 武瑠さんが可愛そうになったので、口をはさむことにした。

「まだ清美君の話出来ますよ。具体的に何日に来るんですか?」

 宗助さんがむうっと唸った。

「明日会うつもりなんじゃがのう。あいつなあ、一週間は粘りよるやろうしな……」

 優作さんがまた強張り出したので、手を撫でまわして言葉を重ねる。

「じゃあ、九日くらいに来るんですか?」

 宗助さんが小刻みに頷いた。

「いやあ……何だかんだで早くても十一日くらいやろな。まあ遅くても下旬になる前には連れてくるわ」

 僕はそれを信じたのだった。十一日に東京での長期の予定は入っていたが、前倒しにしてもらった。

 万全の態勢で清美君を迎えるつもりだった。彼が匣織の地を踏んだ瞬間、僕が手を取れるようにしようと思っていた。不安なんて感じる暇がないほどもてなしてあげたかった。

 だけどね。

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